白馬(二)

 やっぱり言われてしまう……この指摘についてはメンバーの自虐ネタみたいなもので、私自身もちょっと食傷気味だ。

 つまり「たまゆら」というサークルは、まず学校で居場所を作るためにサークル申請して、写真があるので学祭に参加もしやすく、活動も傍から見ている分にはわかりやすくするために旅行にも行く、という非常に後ろ向きな動機で設立されたのが原点。

 それがこの白馬への旅行の経緯だけで窺えるというわけだ。

 もちろん青田さんもすぐに気付いたようで、先ほどの自分の言葉を振り払うように手を振った。

「……その辺りのサークルの事情はあまり関係無いんでしょうね。では春先に旅行とかもせず?」

「はぁ、新歓コンパがあるぐらいですね」

「それで旅行の計画はわざわざ立てるほどでもない?」

「そういうことになります」

「じゃあ……」

 青田さんの戸惑いもわかる。そのまま考えると「いったい前期の間、何をしてるんだ?」って事になると思う。

 そして実際にそう問い掛けられたら、実質何もしてないと答えるしか――

「神田さんとも、そういうやり取りを? それともサークル活動はあまり行っていない?」

 ああ、そうか。別に私はサークル案内をしていたわけでは無いから、青田さんの興味が向くのは和夫さんになる。しかしってどういうことなのか……

「いえ。この時期、熱心に写真について一番話していたのは多分私たちだと思います。部長の檜木さんと相原君も熱心なんですけど、どうかすると機材についてのいがみ合いから、何だかケンカみたいになってしまうので」

「そのお二人は仲が悪い?」

「いえ、二人は付き合ってるんですけど」

「……先に十二人の参加者についてお伺いした方が話が早くなりそうですね」

 それについては同感だ。

 私は改めて檜木さんが女性で、相原君とずっと前から付き合っているという話から始めて、メンバーの大体のところを説明した。

 男女で考えると、男性七人の女性五人。サークル内で付き合っているのが、私と和夫さんも含めて三組。これについては確かに先に説明したかった事でもあって、何だか白馬旅行の説明は全然順調にいかないけれど、これはこれで良い気もしてきた。

「……何となく、そちらのサークルについては理解出来たような気がします」

 宙を見上げながら、青田さんは呟いた。「たまゆら」の実像を掴んでくれたようだ。

「ところで青田さんはサークルとか部活は?」

 半ば礼儀なんだろうな、という想いで、そう尋ねてみた。サークルへの参加人数については「標準的な規模がよくわからない」と言っていたし、多分そう言った活動は行っていないのだと思う。それに普通に学生やってる青田さんというのは……

「ああ、俺は全然ですよ」

 そして何も参加してないとあっさり返されてしまう。となると普段何をしているのか。いやそんな事「たまゆら」メンバーに言われたくは無いか。

「これで,白馬に行くまでの準備は整った感じですかね? もちろん情報についてですよ。それで利用された交通機関は?」

「あ、新幹線です。そのあとバスで」

「それもバイトの成果ですね。前期丸々使えるなら、かなり資金には余裕があるんでしょうし」

 何だか青田さんの言葉が上手く繋がらない気がする。一瞬、ワケがわからなくなったけれど、交通手段のこと何だろうとすぐに気付いた。

 ということは――

「え? 他に方法ありますか?」

「恐らくですが――ありました。これです」

 そう言って青田さんがスマホのディスプレイを私に見せてきた。

「何ですか? ああ、深夜バスですか」

「観光地にはまずそういったルートがあるでしょうから。それに冬場はスキー客が多そうだ」

 その説明を聞いて、なるほど、とは思うけれど、同時に「たまゆら」に深夜バスは似合いそうに無いなぁ、という感触がある。

 とにかく「たまゆら」は、日頃の活動に相応しく、ゆるい空気感のまま白馬に向かった。青田さんの指摘通り懐には余裕があるし――私の事情については一端置く――天候にも恵まれていたし。

 思い返してみると、本当に油断しまくった状態だった気もする。それはサークル旅行としては正しいのかもしれないけど、この時には「旨人考察」事件が世間を騒がしていたのだ。

 この時はあまりにも対岸の火事で。いや「たまゆら」自体は今も対岸の火事かも知れない。

 ただ私だけが――

「それで新幹線とバス――神田さんとの会話で何か覚えておられることは?」

「いえ特には。檜木さんの方針もあって……新幹線の中ではそういう感じでは無くてサークル全体を考えるというか……」

「それでは神田さんのご様子は?」

 そうか。

 当然そこから考えてないといけないんだ。

 怪しかった部分だけを思い出すんじゃなくて――

「ええと、それなんですけどあんまり思い出せないんです。行きは祖江口さんと隣になって、その相談みたいなのを受けていたので。それで行きの半分ぐらいは使って……あとは眠ってしまったようで」

 私のその説明というか、言い訳を青田さんはジッと見つめていた。

 何か隠していると思われているのか……それなら、もう余計なことは考え無い方が良いのかも知れない。元々、私にそんな器用なことが出来るのかどうか。

 今までだって、十分おかしな説明になっているし……

 けれど、次に放たれた青田さんの質問は私の意表を突いた。

「その祖江口さんという方は、上杉家の意を受けて、みたいな事はありませんか?」

 

 

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