瞳の怪物

バブみ道日丿宮組

お題:私と瞳 制限時間:15分

 村を抜け出さなければよかったと素直に思う。

「……」

 木柱の影から、様子を伺う。

 そこにはまだいた。やつがいる。大きな目が浮いてる。

 魔獣の類。

 村の側で発見されたというデータはなかった。

 データはなかったが、こうしている。

 瞬きする魔獣は瞳を動かして、私を探してる。

 見つかればどうなるかくらいはわかってる。

 死ぬ。ただそれでしかない。

 草むらの中に入りながら、距離を取る。

 大した距離じゃない。魔獣が本気を出せば、すぐに追いつく距離だ。

 バレないようにそう願って、足を進める。

「……ん」

 汗が止まらない。

 魔獣に嗅覚がないのがせめてもの救いか。

 村までは急いでも一時間はかかる。走れば、その分はやくなるが、見つかるのもまた早まる。

 いっそのこと、身体を完全に草むらと同化して、やり過ごすか。

 いや……まて。

 視覚が強いのだ。今は警戒して見られてないから見つかってないだけで、多少の変化があれば、発見されることだろう。

 

 死にたくない。

 

 胸にあるのはその願いだけ。

 また木柱の影に隠れ、様子を伺う。

 背中が見えた。

 どうやら、反対側に進む考えを持ったらしい。

 深呼吸するたびに、距離が開いてく。

 このまま諦めてくれればなおよいのだが……向こうはお腹が空いてる。私をかなり食べたいのだろう。

 そうでなければ、この一時間。追いかけられるということはなかった。

 誰かが助けに来てくれるということはない。

 危険をわざわざ犯しはしない。

 村長とかであれば、変わるのだろうがただの村人Aにはその資格すらない。

「……っ」

 魔獣は止まった。

 身体を反転して、こちらに振り向きそうだったので、完全に木柱に隠れた。

 大丈夫。大丈夫なはずだ。

 一呼吸。

 数分待ってから、再度覗く。

 だいぶ遠くに魔獣の背中が見えた。

 これならーーと、腰を落として急いで村の方向へと突き進む。

 飛んでこないでと願いながら……。

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瞳の怪物 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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