第2話 解除作業1

「カイル、大丈夫!?って、どうしたのこれ!?」

「ん?ああ、平気平気。そうだ、母さん梯子持ってきてよ」


さっきの音を聞きつけて母さんがバタバタと走ってきた。家の床に穴が空いてたらそりぁ驚くよな。意外と冷静な俺に上から母さんが呆れたように口を開いた。改めて見ると三、四メートルぐらい落ちたのか。まあ、このくらいの高さなら、変な体勢じゃない限り怪我はしないか。


「よくそんな冷静でいられるわね……」

「いや、俺だって最初は驚いたぞ?」

「本当かしら?まあいいわ。今持ってくるから待ってなさい」


そう言って母さんは梯子を取りに行った。

じゃあ、今のうちに本の方も少し物色しようかな。うわ、よく見ると全部分厚い本だな。全部で何冊あるんだこれ?


とりあえず見てみるか。適当に本を手に取ってページを開く。……うん、読めん。パラパラと捲っていくがずっと変な記号ばかりだ。図や挿絵すらないとは、これ何が書いてあるんだ?


そして、ふと気づいた。これ、もしかして結晶の張り紙と同じ暗号を使ってないか?見比べてみると、やはり同じ記号がちょくちょくある。周りの本も見てみると、それらにも同じ記号が使われている。なんの暗号なんだこれ?


全部が暗号で書かれた本たち。きっと見られたくないものでも書いてあるに違いない。それがこんなに沢山。もしかしたら機密情報とかも書いてあるかもしれん。これ、学者とかに高く売れねえかなぁ。そうすれば生活も多少は楽になりそうだ。


「ほら、持ってきたわよ」

「お、ありがとう母さん」

「今下ろすわね」


梯子が掛かり、少々不安定なそれを少しビクビクしながら登っていく。ああー怖い。一つ登ろうとする度に梯子がガタガタ言う。これに恐怖を覚えない人なんているか?いや、居ない。ちなみにこの梯子、普通なら屋根に登る時とかのために使うやつだ。なので七メートルぐらいあると思う。よく持って来れたなこんなデカいの。


一段一段を慎重にゆっくり上がっていって、やっとの思いで地下から脱出できた。床落ち着くなあ〜。


「これ、このまんまでいいよ」

「そう?まさか、また下りるつもり?」

「だって下に人が封印されてるんだぜ?」


一刻も早く解いてあげたい所だけど、もしかしたら危険かもしれないので父さんが帰ってきてから解こうと思っている。


「はあ!?悪い冗談は良しなさい」


信じられない!といった顔で母さんは大きな声で反論する。うっせぇ、耳壊れるかと思ったぞ。


「冗談じゃないって。なんなら見てくれば良いだろう?」


俺は梯子が怖いからしばらくは降りたくないけどな。

俺がそう言うと母さんは躊躇なく降りていった。すげえな。度胸ありすぎだろ。

何が起こるか分からない未知の場所に躊躇いなく行くなんて。そんなこと馬鹿か命知らずぐらいしかやらないぞ。


しばらく待っていると顔を真っ青にした母さんが戻ってきた。その反応を見るに確認できたらしいな。


「な?本当だったろ」

「どうすんのよあの子。カイル、助けてあげられないの?」

「いや、多分助けられるけど……あれって封印されてるんだ。だから、危険があるかもしれないだろ?」

「でも、悪人に捕らえられたって可能性もあるわよ?」


確かに。それは盲点だった。でもあの少女、仮面つけてて怪しさ満点だったぜ?せめて父さんが帰ってくるまで待とうぜ。


その旨を母さんに言うと、キレられた。


「女の子があの結晶の中に囚われてるのよ!?お父さんを悠長に待ってる暇なんて無いわ。今すぐ助けてあげなさい!」


こういう時に俺は母さんに逆らえない。なんか、有無を言わせない迫力があるんだよな。しょうがない。あの少女が俺たちにとって善なのか悪なのかは分からないが、まあその時はその時だ。


「分かったよ。じゃあ母さんは危ないかもしれないからここで待っててくれ」



―――――――――――――


白い結晶をよく観察する。うん、封印自体は大したことが無さそうだ。解こうと思えば俺でも解けそうなぐらい単純な術式だ。


慎重に手を伸ばし、結晶に触れる。そして、結晶の魔法陣を出現させる。こういう封印系の魔法には魔法陣というものが必ずある。魔法の設計図みたいなもんだ。これに魔法の設定が全て記されている。


つまり、この設定を上書きすれば封印を解くこともできるという訳だ。

それじゃあ早速やるか。ちなみに張り紙は邪魔だったので剥がした。


えーと、これは確か対象人数か。これは別にいじらなくてもいい。こっちは硬度か?これも別にいじらなくていい。変えたいのは強度だ。この結晶の強度をマイナスにすれば結晶は形を保てなくなり、勝手に崩壊してくれる。物理的に破ったりするよりは安全だ。


魔法陣を観察すること十分。……強度の記述無くね?おかしい、そんなはずはない。強度の設定だけは封印を形成するのに必須だと学園でも習った。だから、それが無いのはおかしい。絶対にあるはずなんだが……


しばらくの間、強度の項目を探すために魔法陣とにらめっこしたり、魔法陣を回していると、魔法陣が一つだけではないことに気づいた。魔法陣が二重になっていたのだ。なんだ、二重構造になってたのか。道理で見つからないわけだよ。


そうと分かればあとは簡単だ。魔法陣が重なっているなら、ずらして見えるようにすればいい。そのためにまず、魔法陣同士をつなぎとめている場所を探し、そこを外せばずらせるはず。


お、あったあった。魔法陣同士を固定してるものは一枚目、つまり俺がさっきまで必死に睨んでいた魔法陣に巧妙に隠されていた。こんなの、それを見つけようとして探さない限り見つからないだろ。


ここを、こうして……よし。これで外れたと思う。

魔法陣をどかすように指をスライドさせていくと全部での魔法陣が俺の目の前に並んだ。




▼▼▼▼

既に投稿した話の表現の部分を足したり修正したりすることがあります。ご了承ください。

今回も読んでくださりありがとうございます

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