誰が為の世界と喪失の少女〜地下に美少女が封印されていたので救ってみた〜

彼方しょーは

第一部 魔王軍編

一章 ハイネと魔王軍

第1話 封印されし少女

「勝負あり!」


はあ……今日は最高に憂鬱な日だ。俺はどこまでも青い空を見上げながら心の中で溜息をついた。


なんだってこんな天気の良く、せっかくの気分がいい日にこんな惨めな気持ちにならなきゃいけないのか。


「ほら、大丈夫?怪我してない?」


尻もちを着いている俺に、さっきまで木剣で斬り合っていた少女が手を差し出す。

彼女はクララ・シュライン。未来の勇者候補だ。


一年生の時からその才能を遺憾無く発揮し、学園武闘大会では見事一位に輝いた。その際に、実力を認められて勇者候補として連合騎士団への入団が決まっている。


学園では天才だなんだと周囲に持て囃され、外では魔王を倒せるのではなどと期待されている。そんな期待の渦中にいるクララはそれに答えるために日々努力を重ねている。


すごいよな本当に。あんな期待されて圧に屈しないなんてさ。

そんなクララ・シュラインは俺の憧れだ。


いや、勇者候補と言われている彼女に憧れない人は居ないだろう。人は虫と変わらず、大きな光を求めるものだから。


さて、憧れと試合ができるのは誉れだろう。だが、衆目の前でボコボコにされるのは訳が違う!これがどれだけ惨めか分かるか!?


勝敗なんて戦う前から分かってる。彼我の実力差がありすぎて学べるところなんてものも無い。残るのは勇者候補の天才にボコボコにされた事実のみ。はぁ……憂鬱だ。


しかし、目の前に差し伸べられた手を振り払えば、さらに惨めな思いをするのは目に見えて分かる。ただでさえ弱い立場にいる俺はこれ以上落ちぶれる訳にはいかない。世間一般では落ちこぼれの部類に入るかもしれない俺にも、プライドと言うものはあるのだから。


「ああ、手加減してくれたんだろ?怪我なんてしてないよ。勇者候補様」

「その呼び方はやめて。私はあなたと同じただの生徒なのだから」


俺が肩書きの方を強調するように言うと、クララは少し嫌そうにそう言った。

というか、どこがただの生徒だ。あんたは天才と言われる神童だろうが。


彼女は俺を立ち上がらせると、女子生徒に呼ばれたため、さっさと向こうへ行ってしまった。


「どんまいカイル君。ま、劣等生の君じゃあクララさんとまともに戦うこともできないか」


後ろから肩を叩かれ振り向く。俺に嫌味ったらしく言ってきた男は……あ〜、誰だっけか?確かウチのクラスで二番目ぐらいの成績の奴だった気がする。名前は忘れた。


「ハイハイ、俺じゃあ勇者様に勝てませんよー」

「そうだろう?身の程をわきまえたまえよ。男爵風情が」


そういえばこいつ伯爵だっけか?いいねぇ伯爵様は人生楽そうで。男爵なんて平民よりほんの少しだけ立場が上なだけで、生活なんて家以外は平民と大して変わんないんだぞ。少しはその有り余った金を俺達に分けてくれよ。


「よし!今日はここまで!皆、気をつけて帰るように!」

「「「はい」」」


アラドリア先生の解散の声でみんなが修練場からゾロゾロと列を作って出ていく。

俺もその中に混ざっていく。ああー今日の夕飯は何かなー。



――――――――――――


「ただいまー」

「おかえり」


帰ってくれば、母さんがキッチンで夕飯の支度をしながら「おかえり」と言ってくれる。家に帰ってくればすぐ家族の温かみを得られる。この点はあのバカ貴族よりも勝っているな。伯爵が暮らすような馬鹿でかい屋敷じゃあ、最初に迎えてくれるのは執事とかだろうしな。


「何か嫌ことでもあった?」

「ん?顔に出てた?」

「出てたわよー」


うーん、ポーカーフェイスは割と得意だと自負しているんだけどな。母さんの俺に対する観察眼が凄いのか、俺のポーカーフェイスが下手なのか。前者だといいなあ。


「あー、ちょっと嫌味を言われてさ」

「そうなの?辛かったら言うのよ?」

「このぐらいは平気だよ」

「本当に?」

「ああ、本当だよ」


やっぱり母さんは鋭いな。うん、正直に言うと大分頭にきてる。いや、こんなことに頭を悩ましているのもくだらない。さっさと着替えよう。


そう思って自室に入って着替えようとした。しかし、どうしても苛立ちが収まらず


「ああっ!クソがっ!」


ドン!と床を強く蹴った。それがいけなかったのか……いや、これは絶対に俺のせいじゃない。誰が予想出来るか、こんなもの。


何が起きたのかと言うと、床を強く蹴った後、バキバキと何かが折れる音がして床が崩れた。床の真上には俺がいたので、もちろん俺も落ちた。


「え!?うそ、おわあああ!!」


我ながら情けないと思う声を上げながら落ちていったが、幸いにも深さはそんなに無かった。


だが、体を強く打ちつけたのでそれなりの痛みはある。あー痛てー。骨とか折れてないよな?多分大丈夫だな。


自身の状況を確認できたので、次は周りを見る。つーかこんな地下室誰が作ったんだよ。上に続く階段も見当たらねえしうちではないな。出入口がないのに行き来できるような方法はうちには無い。それこそ、こんな方法を使うとしたら王城からの隠し通路ぐらいじゃないか?


まあいい。今はそんなことを考えても仕方がない。それよりも目の前のコレだ。どうすんだよこれ。


部屋は床や壁は木でできている。まるで書斎のようだ。壁一面には本棚があり、そこにぎっしりと本が詰まっている。そして、俺の目の前。そこには巨大な結晶があった。透明な白い色をしていて、大きさは2メートル半ぐらい。その中に……


この結晶……封印魔法かなんかか?

おいおい、なんでこんなところに人が封印されてるんだよ。少女……か?顔全体を覆う真っ黒な仮面をつけているせいでよく分からない。封印の中でその少女は、走りながら何かに手を伸ばしているような姿勢のまま固まっている。


そしてもう一つ目に付くものは、その結晶にはられている紙。

紙には見たことの無い記号が羅列されている。何かの暗号か?これ。俺には何が書いてあるのか皆目見当もつかない。


うーん、こんな誰も来れないような地下で厳重に封印されている割には、封印自体は俺にも解けそうなぐらい単純だ。

封印されてるのが人だし、解いたとしても世界の危機に陥るなんてことは流石にないだろ。


父さんと母さんをここに呼んでから解いてみるか!この人、絶対美人だし。

俺は好奇心に負けた。





▼▼▼

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