Pro2.電車内にて
「こいつぁ、嬉しくねぇ状況だな。リッキー、夢を頼む」
「言われるまでもないサ」
「とりあえず、俺は左に行ってみる。リッキーたちは右を頼む」
「わかったヨ」
そう言い、優志は照明は点いたが妙な音が聞こえる左の通路を進んでいった。
不明な状況下で進行し変化する環境を把握できないことを嫌ったためであったが、この行動が正しいのかは、優志には判断できなかった。
_____
(こんな長かったっけか、この電車)
妙な音はまだ続いている。
生き物が何かを咀嚼するような音であった。
ガタンゴトンという電車特有の音もするが、主旋律となっているのはその咀嚼音であった。
(なんかに飲み込まれたような感じだな、今の状況。それと…)
優志が通路をいくらか歩いたころ、黒く塗りつぶされていた窓がその人工的なインクのような色を落とし、外を見せた。
そこにあったのは、大きな青き星であった。
(ありゃあ、多分地球だろうな)
日本列島のような大地を目に入れた時、戻り方を調べねぇとなと優志は冷静に思った。
_____
「まだ車両あんのかよ…」
優志が思わずぼやくように、さらに十車両以上彼は進んだがまだ先が長く続いているように見えた。
(リッキーと夢のほうも続いてんのかな)
合流を考え、引き返すべきか考えた時、ふと外を見て固まった。
縦に長く、赤い瞳のようなものがこちらを見ていた。
「___!!もうホラーは腹いっぱいだぜ…!」
一度戻ろうと、後ろにあるドアを開けようとするが、開かなくなっていることに気づいた。
「マジかよ。進めってことか!」
赤い目に見つめられながら、優志は次の車両に渡った。
_____
明らかに外から見えていた車体の長さ、もしくは一般的な電車の全車両より長い通路を先へと進む優志だったが、さらに進むかとドアをくぐるとふと視線と音の消えた車両に出た。
そして、優志は出会った。白髪の彼女と。
「やぁ。生命の声を聴く人よ。もしくは道をつなげる人。あるいは___になる人」
白い長い髪と、白いワンピースを着た、細身の彼女が言う。
優志は声を発せないことにその時になりようやく気が付いた。
「焦らないで。声を発せないのは一時的なこと。あなたが生きているのは今だけど、あなたが運ぶべきは永遠のもの」
歌うように彼女は続ける。
「あなたはずっと思っていたかもしれない。”継承”や”永遠”に意味があるのかって」
優志は感覚のうち、視覚と聴覚以外を奪われていることに気が付いた。
「一方的に”それ”を押し付けてしまってごめんなさい。ただね、私は信じてるの。ちゃんと人々の意味になるってことを」
いきなりわけのわからない状況に置かれ、変な女性に何事か伝えられているこの状況下で、優志は彼女が何者かいつの間にか理解していた。
「右手の呼び声を聞いてあげてね。そして、よかったら、いつか会いに来てね。」
一秒だろうか、一時間だろうか、一年、何年もの時間だろうか。白き呼び声の彼女を見ていた気がした。
失われていた右手の感覚が痛覚とともに戻ってきた。同時に先ほどまで聞こえていた妙な音、__咀嚼音__が再び聞こえてくる。
「待ってくれ___」
膨大な量の光量で白く塗りつぶされていく視界の中で、優志は彼女の名前を言った。
____ミトコンドリア・イブ。
いわゆるその存在であることに優志は気が付きながら、聞きたいことがありながら、白に飲まれていった。
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