呼び声の紋章

縛楽線

戻るべき場所

Pro1.山の駅にて

「こんなところに駅なんかあったのか」

うだる夏の暑さに全身を汗に濡らしながら優志はつぶやいた。


 地元のS県R市にあるK山に、友人と妹と連れ立って仲間内でやる肝試しのために下見に来ていたところ、優志はさびれた駅を見つけた。

__使われなくなってだいぶ経ってるように見えるな。ここをゴールにすっかなー

肝試しのゴールを探すために、もしくは、友人と妹を二人きりにしてやるために優志はしばらく一人で行動をしていた。二人と別れた地蔵が五つある休憩所から三十分ほど歩いてこの場所を見つけた優志は落ちあう時間まで何してるか、と考えつつ来た道を戻った。


______


夏の青が濃かった時間から少し経ち、地蔵のある休憩所まで残りの二人が戻ってきた。

「優志、待たせたカイ?」

「いや、持ってきた本読んでたから気にしなくていいさ」

180cmほどある長身のイギリス人である友人の”リチャード・ブーツスミス”は、いつも通りの優しげな表情で言った。リチャードはホームステイで優志たちの家に居候していたところである。

__タッパあるけど優しいんだよな。リッキー

「お兄ちゃんはまた生物の本?」

「いや、昨日読み切れなかったんだよ。すまん」

妹の”夢”にきまり悪そうに謝りながら、優志は本をリュックにしまった。

「いいじゃナイ、夢。僕も化学の本持ってきてるよ。」

「もう。こんな時まで難しそうな本持ち歩いてるのリッキーたちだけだよ」

行動パターンが若干世間とずれていることに自覚があった優志とリチャードは、その変則性故、気が合った。

「いやー、ハハハ。ところで優志、良さそうなゴール見つけたカイ?」

「ああ、うん。見つけたよ。というか、スマフォのマップに載ってないから、いかにもって感じだよ。廃駅があった。」

「へぇ。そんなところよく見つけられたネ」

「まぁ、探し物はそんなに得意じゃないんだけどな」

「でもいいネ。そこゴールにしようヨ。一回連れて行ってくれるカイ?」

「今から行こうか」

話を中断し、三人は廃駅へ向かうことになった。


_______


「お、ほら、あそこだよ」

山中の道の曲がり角を曲がり、見えてきた廃駅を指し優志が言った。

「ほー、アレ?なんか電車も止まってるノ?」

「え?」

小さな駅であったため、構内の奥がよく見えた。その奥に黒っぽい車体のようなものがここから覗けている。

「さっき来たときはなかった気がするんだけど」

三人は構内を通り抜け、小さなホームに立った。

「こりゃ、見えなかっただけで新しい車両っぽいな。長いし」

全部で10車両ほどの電車がそこにあった。

「ドア、開いてるね。中入ってみる?」

夢の提案で中に入ることになる。


三人が入ると座席が進行方向向きになった車内があった。

「なんか窓黒く塗りつぶされてんのかな?暗いし外見えねぇ」

優志が最後に入り、そうぼやいたとき、ドアが閉まった。


プシューッ

排気音とともにドアが閉まり、車内の電気がつく。

「おいおい。まじか。マジモンに出くわしたか、怪談」

「ヤバくないかナ、優志。僕、本物の怪談とかは遠慮したいんだケド」

「リッキーとお兄ちゃん冷静すぎるよ。私も冷静になれるからいいんだけど」


それだけの会話の最中、電車が動き出した。

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