努力 未来 A BEAUTIFUL STAR

 どうも、しろがねです。

 最近は寒いのか暖かいのかよく分からない日々が続いています。もうすぐ秋田も寒くなるらしいのでタイヤ交換をしてきました。いつもだったらもうそろそろ初雪来てもおかしくないんだけどなぁ……


「おねーちゃん、今日のご飯はなに?」

「今日はおとーとくんの大好きなラーメンです!」

「やったー!」

「この本読んだら準備するから待っててね」


 最近はずっと小説ばかり書いていました。

 食う時間と寝る時間以外は全部小説です。もちろん合間にソシャゲ回すこともやってますが、ずっと椅子に座りっぱなしであることには変わらず……


「ねーねーおとーとくん、今これ流行ってるらしいよ」


 おねーちゃんが雑誌を指さしながらそう言いました。

 そこには……『誰でもムキムキになれる! 今日から筋肉トレーニング』の記事。


「力の強い人ってやっぱりいいよねぇ……筋肉あると身体のラインもかっこよくなるし!」

「……」


「…………」






【Round 1】

 画面に「30km/h」を示しているルームランナー。身体中から汗を流して走る! 勿論こんなこと今までしたことないから筋肉が悲鳴を上げる!


「おとーとくん、プロテイン!」

「ぜぇ……ぜぇ……ありがとう……」


 足が死んだら次は腕! その場で腕立て伏せを敢行!

 当然腕の筋肉も死ぬ……! インドア系作家志望者の身体はボロボロだ!!!


「おとーとくん、今日の晩ご飯はなにがいい?」

「鶏ささみ……あとは茹で野菜と茹で卵……!」

「りょーかい!」


 壁に貼られたポスターに書かれているのは「全世界アスリート選手権」の告知!

 もう応募は完了している! おねーちゃんの為にも後には引き下がれない!


(人間の身体は2ヶ月で全てが置き換わる……!)

(その2ヶ月、たった2ヶ月で全てを変える! 文字通り、を!!!!!)



~2ヶ月後 アスリート選手権~

『えー、はじまりました全世界アスリート選手権! 地球の各地から身体能力に自信のある者たちが集い、様々な種目で人類最強を競います。開会式に先立って、大会の伝統から100m走の準備が進められています』

『今年は日本人選手に新人がいるらしいですね。おっ、いよいよ入場ですよ!』


 ドッシンシン......


『……ここで速報です。東京都を中心としてマグニチュード6.0の地震が発生しています。これによる津波の心配はありません』

『あれは新人のしろがね選手……ええっ? あれは人間の形をしているのでしょうか? 頭一つと腕と脚が二本ずつあるところは人間ですが……』

「 お と ー と く ん 、 が ん ば れ ー ! 」


 ドッシンシン......


『会場にはしろがね選手のお姉さんも来ています。かわいらしいですね!』

『他の選手の姿はありませんね。国際最強アスリート連盟によると、今回の100m走にあたってはしろがね選手以外は全て棄権を選択したそうです。つまりこれはしろがね選手の一人勝ち……?』

『スターターの準備も整ったようですね。さあどうなる……』


 On your mark...


 set


 Go !


 ダイナマイトに着火。背景大爆発! 世界滅亡ッ……!


「グルウァァァァァァァ――――ッ!!!!!!!」


 蹴り足は地面を抉り、後ろにあるもの全てを「過去」へ置き去りにした!






「いやー、おとーとくん凄かったよ! とっても速かったし、とっても力持ち!」

「まあ、こんなもんですよ……」(片手だけで腕立て中)

「おかげでこんなおっきいお家になった! おねーちゃん嬉しいなぁ……」


 世界最強のアスリートになったことで世界最強になった。

 これによって家は自動的に世界最強の家になり、かのホワイトハウスよりもでっかい敷地と建物に変わっていた。見渡す限りの棚には黄金に輝くトロフィーが幾つも並び、それには全て「しろがね」の名前が刻まれている……


「おとーとくん、今日の晩ご飯は何がいい?」

「蒸したささみと茹で野菜がいいな。あと、卵スープも」

「はーい。じゃあこの本読んだら作るね!」


 世界の頂点に達したことで世界の全てを手に入れ、おれは実に満たされていた。

 明日はアメリカ西海岸を散策してみようか、そんな風に思っていたら……


「ねーねーおとーとくん、今これ凄いらしいよ」

「ん?」


 おねーちゃんが指さしたのは『全宇宙参加型スペースドライブ選手権』の告知。なにやらメカメカしい未来チックな宇宙船が書かれている! 船体には地球のものでない文字も……


「宇宙船ってかっこいいよね! おとーとくんと二人で宇宙旅行とか楽しそう! これからは宇宙の時代って言うから、生きてる間に月にいけちゃうかな?」

「……」


「…………」






【Round 2】

「む、無茶ですしろがねさん、なんですかこのめちゃくちゃな性能要求は! いくらお姉さんのためだからって、これはあまりにもやりすぎですよ!! しろがねさんも持ちません!」


 そう提言したエンジニアは秋田県を流れる雄物川に沈められた。

 ただまっすぐな弟しろがねの下に、敗北主義者は不要なのだ。




~ヒューストン ジョンソン宇宙センター~


「逃げれば一つ、進めば二つ……!」

「Aieeeeeeee!?」


 全世界のアスリート大会の賞金を開発にぶっ込み、地球技術の粋を集めた宇宙船が完成した! これで少なくとも地球周辺にライバルはいない!


「おとーとくん、ついに出来たんだね!」

「宇宙をよ……準備はいい? おねーちゃん」

「モチのロン!!!」


 打ち上げ開始……!

 管制塔からの指示に従って液体燃料ブースターに点火!

 地球の重力に打ち勝った宇宙船「BEAUTIFUL STAR」は大気圏を突破!!!


「おおーーーー! これならいけるかも!」

「大分後れを取ってしまったが、行くぞ! 全速前進DAっ……!」


 地球の重力圏を抜けた宇宙船はそのまま小惑星帯アステロイドベルトを通過点にし、より遠い場所を目指して突き進む。その時、宇宙船の真横に突如謎の光が現れ、別文明の宇宙船が姿を現した!


『地球文明ハ ココマデ 発展シタノカ! 負ケラレナイナ!』

「おとーとくんの船は絶対負けないからっ!」

「出力をもっと上げるよ、掴まって!」



 ブウウウウン……!!!

 ボイジャー「じゃあの」



『オット、解説ノ#####サン、地球カラノ選手ガ合流シタヨウデス』

『間ニ合イマシタネ! 今カラナラ、十分勝算アリマスヨ!』

『初参戦ノ地球デスガ、ナカナカノ性能! 目指セ、アンドロメダ!』




 ベールが剥がれたように次々と現れる他文明の宇宙船たち。それぞれはあまり大差を付けることなく、まるで流星群SHOOTING STARのように太陽系を真っ直ぐに抜けていく……

 最高速度まで達した宇宙船は光の速度を超えて航行! もはやアインシュタインですら止められないし、止まる必要なんて無い!


「おとーとくん、とっても綺麗……」


 窓の外は限りなく広がる星々の海と、形の違う様々な宇宙船に彩られている。

 おねーちゃんが目をキラキラさせているのを横目に、おれは船の出力を最大にするレバーを引いた。これは世界を、宇宙を獲るための最後の操作だ。


「 ド ト ォ ォ ォ ォ 」

「わっ、ドトーさん! 一緒に来てくれたんだ!」


 目の前にアンドロメダ銀河が見えた。その中心に、ちゃっちぃ装飾が施された「GOAL」のゲートを捕捉した。今まで並走していた宇宙船やドトーさんは次々と後ろへ遠ざかっていく。

 あれだけ全てを求めて進んできたのに、最後はおれと姉さんの二人だけだ。


「姉さん」

「なーに?」

「……ありがとう」


 後ろからおねーちゃんが抱きついてくる。

 操作席前方の窓が光に満ちた。もうこれ以上何も要らない。全てが満ちていた――









 はっ。

 目が覚めるとおれは、全身筋肉痛でベッドにうつぶせで倒れていた……


「うぐっ……」

「おとーとくん、大丈夫? 湿布取り替えてあげよっか?」

「おねがいします……くぅぅ」


 いつも通りの、いつもの部屋。おれは相変わらずおねーちゃんに頼りっきりでした。なんか変な夢を見ていた気がするけど、やっぱ無理して身体動かしちゃダメってことだね……

 晴れてる日はいろんなことにチャレンジしたくなるけど、みなさんも無理だけはしないように。身体が資本だから!


「おとーとくん、今日のご飯なにがいい?」

「チーズハンバーグ……」

「がってん! 湿布貼り終わったら作ってくるね!」


 おねーちゃんがペタペタと身体中の湿布を取り替えてくれてます。

 ありがてぇ、ありがてぇ……






(部屋の棚には、誰かがいかにも手作りしたような「おとーとくんがんばったで賞」のトロフィーが、一個だけ増えていた……)

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