伸ばすなら

シヨゥ

第1話

「ダメだダメだと自分を否定して、君は本当に強くなれるのかな?」

 先生はそう言う。

「ダメなところを正そう、伸ばそうとする。その心意気は素晴らしい。でもそうすることが本当に強くなる近道なのかな? そうやってやっと人並になったところで、他の人が同じだけの時間を使って伸びてしまったらそれは人並以下だよ。だったら自分の強みを伸ばすことに全力を注いで、誰にも負けない尖った人になる方が近道だと思うんだ」

 それは先生らしい育て方だななんて思う。

「弱さも飲み込んで前に進んでいける。それが本当に強い人なんじゃないかな」

「先生は本当に強い人ですか?」

「私? 弱い弱い。だって欠点を見つけてはへこんで、うろたえて、立ち止まって。お酒で流し込んでようやく歩き出せる人間だよ」

「それでも前に進めているなら強いんじゃ」

「お酒の力に頼っているようじゃ三流だね。立ち止まってもまたすぐに歩き出せて二流、見つけた時点で切り替えられて一流さ」

「強さにもレベルがあるんですね」

「そりゃそうさ。一流の強さを手に入れるために励めよ青少年」

 先生はそう言って去って行く。

「どこへ?」

「お酒を買いに。自分の弱さを垣間見て自己嫌悪だ。やってらんないね。まったく」

 やってられないと言いながらもどこかその声は楽しさをはらんでいるように聞こえた。推察するにあれはお酒を飲む口実を得られたのが嬉しいのだろう。そう考えるに至り、ああはなるまいと強く思うのだった。

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伸ばすなら シヨゥ @Shiyoxu

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