第2話
「…………え?」
気がつくと、俺は何故か雲の上に居た。
「生き……てる……?」
――おかしい。確かに死んだはずなんだが。
「目覚めましたね」
するとその時、俺の目の前に立っていた、やたらと神々しい女性が言った。
「め、女神だ……」
その姿を見て、思わず呟く。
目の前の女の人は、どこからどう見ても女神であった。
なぜなら、彼女は金髪碧眼で、おまけに女神が着るやつみたいな白くてスケスケの服を着ているからだ。
これで女神じゃなければ、ただの頭がおかしい痴女である。
となると、女神の存在しているこの場所がいわゆる天国というやつなのかもしれない。
大して徳を積んだ覚えはないが、どうやら無事に昇天できたらしい。
「いや、違うな」
俺はそんな自分の考えを即座に否定する。
――不慮の事故によって死亡した学生が、女神らしき人物の前で目を覚ます。
この状況が指し示していることは、どう考えても一つしかない。
「もしかして俺、異世界に転生でき――「違います」
女神は、俺の言葉を途中で遮った。
「私は女神ではありませんし、あなたは異世界に転生できません。残念ですね」
少しだけ期待していたのだが、そこまではっきりと否定されると少し悲しい。
「でもそれなら、あなたは一体誰なんですか? 良い歳して、未成年の前で露出の多い女神のコスプレなんかして。警察を呼びますよ?」
「――私は、あなた方よりも高位の次元に存在する情報生命体です。実体を持たない我々には決まった姿がなく、直接対話を試みると下位の生命体である地球人を混乱させてしまう恐れがある為、こうしてあなたに馴染みのある文脈に自らを投射することで円滑にコミュニケーションを計ろうと試みているのですよ」
「はい?」
やっぱり、この人は頭がおかしいようだ。
「要するに、地球を守る宇宙人のような存在と考えてもらって構いません。まったく、下等生物にも分かるように説明するのは大変ですね」
人間を見下す侵略者みたいなことを言う、自称地球を守る宇宙人。
「意味不明だ……」
「じゃあ、面倒くさいのでもう女神ってことで良いです。もともと、いざという時にそういう説明で済ます為にこの姿をしているのですからね。――私は女神。あなた達の住む地球を担当している神様です」
急に投げやりになり、今までのやり取りを全て無かったことにして仕切り直す女神的な人。
高次元のなんとか生命体を自称するなら、もっと超然とした振る舞いをして欲しい。
これでは、ただの俗っぽい痴女である。
「ちなみに、あなたの思考は私の方へ筒抜けですので気を付けてくださいね」
すみませんでした。
「……さてと。自己紹介も済んだことですし、早速本題に入りましょうか」
そう言って軽く咳払いする、美しく清らかな女神様。
「まず、あなたは死にました」
「……改めて宣告されるとショックだな」
「ですが、私の力を使って時間を巻き戻し、死んだあなたを蘇らせてあげます」
「そ、そんなことが出来るんですか?!」
「はい。下位の存在に干渉することは基本的に許されていないのですが、今回は状況が状況ですので、特別に間接的な手助けが許されています」
また何か訳の分からないことを言い始めたぞ。
「状況が状況……? それは、神凪さんに成りすまして俺を殺したあの化け物と、何か関係が……?」
「なかなか鋭いですね。……ですが、『成りすましていた』というのは少し語弊があります。あなたが先ほどまで話していた彼女は、正真正銘、神凪琴弓ですから」
「どういうことですか……?」
「つまりですね、彼女は地球外生命体――いわゆるエイリアンによって体を乗っ取られ、無意識下で行動を操られていたということです」
となると、俺が夏休み明け以降の神凪さんを別人のように感じたのも、それが原因ということなのだろうか。
「はい、そうです。……そして、このままいくと地球人は、彼女の体内に潜んでいるエイリアンとその子供達によって完全に乗っ取られてしまいます。事実上の人類滅亡ですね」
「なん……だと……」
唐突に衝撃的な事実を告げてくる女神様。
しかし、相手は俺を一瞬で殺したような化け物。丸腰の人間では到底太刀打ち出来ない存在であることも事実だ。
もしあんなものが暴れ回って、しかも人の体に寄生することが出来るとなれば……人類はあっという間に淘汰されてしまうだろう。
「終わったな人類」
俺は思わず呟く。生き返っても意味無いじゃん。
「あ、諦めるのが早すぎませんか?! ここからが肝心なので、希望を失わずに話を聞いてください!」
女神様は、慌てた様子で俺のことを励ましてくれた。
「確かに、エイリアンは厄介な相手ですが対処方法は存在しています。母体さえ無力化することができれば、母体から指令を受けて活動している他のエイリアン達も停止するのです! ――そしてなんとその母体は今、神凪琴弓に寄生しています!」
「なるほど……」
ずっと意味不明だったが、ここに来てだいたい話が掴めてきたぞ。
つまり、俺を生き返らせる代わりに、神凪さんに寄生したエイリアンの母体をどうにかして欲しいと、この女神様は要求してくるつもりなのだろう。
「理解が早くて助かりますよ。下等生物にしては上出来です!」
「無理ですね」
「え……?」
「あんな化け物に勝てるはずがありません」
というか、既に一度殺されている俺を蘇らせたところで、また首と胴体がサヨナラするのがオチだ。何回もあの気持ち悪いやつに殺されたくない。
「だ、大丈夫ですよ! あのエイリアンには、致命的な弱点が存在していますからね! あなたでも、少し勇気を出せば無力化出来ます!」
自信満々にそう言い放つ女神様。弱点とは一体何なのだろうか。
「エイリアンの弱点。それはですね……」
俺は固唾を飲んで女神の次の言葉を待つ。
「
「はい?」
何言ってんだこの人。
「エイリアンは、寄生している宿主の精神と完全に同調しています。神経に接続し、無意識下の行動を制御できるように進化した影響ですね。だから、母体が宿主の属する種に対して強い恋愛感情を抱けば……」
女神はそこまで言いかけて、また俺が置いていかれている事に気づく。
「よ、要するに、神凪琴弓が恋に目覚めてしまえば、彼女と精神を同調させているあれは人類を『恋人』と認識し、寄生行為及び捕食行為をやめるよう全ての子供達に指令を出す、ということです! ラブパワーこそが最強の武器なんですよ!」
「うーん……」
やっぱこの人、頭おかしいんだな。
「うるさいこの下等生物がッ!」
「人の心を勝手に読んで勝手に怒らないでください」
「――こ、こほん。……つまり纏めると、私の要求はこうです! 時間を戻してあなたを生き返らせる代わりに、神凪琴弓を口説き落として恋に目覚めさせ、彼女に寄生した母体を無力化させてください!」
「やるべき事は何となく分かりましたけど……そもそも、俺と神凪さんはそこまで親しい仲じゃありません。告白したところで失敗すると思います。終わったな人類」
「だからどうしてそこで諦めるんですかッ! 当たって砕けろッ! 逃げるなッ!」
この人、上位存在のくせに根性論を振りかざして来たぞ。
「とにかく、今からあなたが死ぬ少し前に時間を戻すので、頑張ってください! 無理だったらあなたを含めた全人類が絶滅するだけです! それでは行ってらっしゃい!」
「……え? ま、まだ心の準備が――」
こうして、俺は再び意識を失うのだった。
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