第10話 

翌日

私はまた、同じ時間に家を出た。

いつもと同じ道を通って駅へ向かう。


あの男はまた…ホームにいるのだろうか…


昨日、震えるほどに怖かったのは事実だが、自分自身の単なる思い過ごしかもしれない…


たった一日で結論を出すのは早いと考え、今日からしばらくの間、私自身が色々なパターンに行動を変え、それに伴い男の動きがどう変わるのか…もしくは単なる私の勘違いなのか…密かに確認しようと決意した。


そんな風に…

たとえば、ある一人の人間の行動分析をする学者や心理学の先生のように…

この一連の出来事を一種の記録…ゲームのように考えれば、少しは気が楽になる気がした。


私はいつものように、エスカレーターで自動販売機が近くにあるホームの位置に降り立つ。


そこから左右に瞬時に視線を走らせても、サングラスの男の姿は見えない。


今日はいないのだろうか…

別の時間帯の電車に乗るのか、もしくは今日は現れない…?


全く男の行動は読めないが、毎日の記録を取るにあたって考えていることがあった…。


それは、全く別の車両から乗車すること。

私は毎日、決まった位置から、ほぼ同じ場所のシートに着席していた…

それで、目立ってしまい、変な男に目をつけられ、つけ回されているのではないか…

もしくはたまたまあの男が、私が座るその車両のその位置あたりを好んで…わざわざ移動してまで座りにくるのか…


…実験が必要だった。


そんな理由で、

今日、私は普段絶対に乗ることはない、電車の一両目の車両の真ん中あたりの列のシートに座ることにした。


果たして…男は…この電車に乗るのか…。

恐怖もあるが…真相を知るための実験の始まりだ…


「発車しまーす…」

…朝の闇に溶け込むような静かな車掌の声でガタンと…電車がいつものように動き出す…。


私はドキドキする心臓をなんとか抑えながら、いつものように、

   音楽を聴く準備を始めた…





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