第8話

その奇妙な男は、

私が降りる駅の一駅手前の駅で降りる…


今まで全く意識してこなかった電車内の男の存在を、私自身今日初めて把握し、そのことが私を恐怖に陥れたが、

結果として、その男が私に近付いたものの、最後まで追ってこなかったことは、私の心をかなり落ち着かせた…。


…いつもそうなのだろうか


男は明日も、私と同じ電車に乗ってくるのだろうか…?


そんなことを頭の中でグルグルと想像しながらも、答えが出ないまま、気付けば職場へ到着していた。


私は職場について、やっと一息つけた気がした。今日は異常に汗をかいてしまった…身体が緊張で火照っている気がする…

せめて水分を取ろうと、給湯室で熱い珈琲を入れながら、思案する。


職場の友人や同僚に相談してみようか…。


でも…その男の存在に、本当の意味で気付いたのは今日…今日が初めてで…


たとえば数日間、同様の状況が続いているのならともかく、

今日一日のことで、そんなに若くもない私が、電車内の一人の男の存在に恐怖を感じるなどと不安を訴えるのは、少し滑稽な気がした。


いい年をして狙われるわけもないのに、何をぎゃあぎゃあと、わめいているんだ…などと周囲の人間に思われるのは、それはそれで嫌だった。

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