第7話

私は、私を監視し続ける右側の男の存在を全身で感じながらも、


そちらには一切目線を移すことなく、手の中にある携帯の画面を凝視する。


家族から、なんの反応もない。

無情にも、ラインは未読のままだ。


どうしよう…怖い…

今すぐこの席を立ち、移動しようか…


それとも…次の駅が目的地ではないけど、そこで降りるふりをしていったん降りて、また別の車両から乗り込もうか…


でも…男がもしも…もしも、私の動きに即座に反応し、後を追ってきたら…それもまた、恐怖だった…


そもそも早朝の電車で、降車駅にもあまり人がいないからだ…


次の駅で降りても…下手をしたら暗いホームで男と二人きり…悪くすると電車内よりも、恐ろしい事態に陥るかもしれない…


ああ…助けて…

怖い怖い怖い怖い…


気取られないように、視線を真っすぐに前へ向けたまま右側を目の端に密かにうつすと…


まだ、男は私の方に身体を向けたままで…

こちらを凝視している…


…その時、


「次は~…駅~、…駅…もうすぐ到着いたします。足元にお気をつけください。右側のドアが開きます。」


もう、ここでイチかバチかと、私が立ち上がろうとしたその瞬間、右の男がぬらりと…立ち上がる。


ビクリと反応する私…

何……?

怖い…どうか…近寄らないで…そう願っていると…


男はすぐに荷物を手にし、足早に通路を抜けて開閉ドアへ向かう。


…ここで…降りるのか…


…良かった…同じところで降りる場合が一番恐ろしいと恐怖していた私は、心から安堵する。


電車を降りた男の後ろ姿を、こっそりと電車内から盗み見る。


…と…突然、男が後ろをゆっくりと振り返る。


その瞬間、サングラスの中の視線の先が定かではないが…一瞬、目が合ったような気がした…


電車内で私を見るときと同じように、ニタリと…私を見て微笑む男。


ゾクリとする悪寒を身にまといながら


私は明日からの通勤に不安を感じつつ、その日は職場へ向かった…






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る