第6話

私は初めて、身をもって知った…


世の中で度々起きる、不本意な事件や…本当に不幸な事件…


たとえば、突然無差別に人が襲われるような通り魔事件や、

痴漢、さらにひどい様々な犯罪行為…など、不幸な事件があったときに…

すぐにその場から、逃げ出せば良かったのに…とか、落ち着いて判断して、周りに助けを求めたり、より安全な対策を取ればよかったのに…などと、


当事者でない人は…簡単にそう言う…

私自身、安易にそういう風に思ってしまうことも確かにあった…


でも、それは、間違いだ…

そんな場面に遭遇した人にしかわからない。

きっと…誰しもが、動けなくなるのだ…

普段なら難なくこなす動作が…できなくなるのだ。


そのような場面に運悪く出くわしたとき、

人は、恐怖で腰を抜かしたり…身体が凝固したり…運よく足を踏み出してみても、足がもつれて転んだり…そしてついに、逃げられなくなる…。


今の私がそうだ…。


しかも私は、何もされていないにも関わらず、

右にいる男の存在が怖くて、座席からピクリと動くこともできず、立ち上がることもできず…まるで、獰猛な肉食獣に睨まれている、草食動物のように…身体がすくんで…動けない…。


ああ…どうしよう…

居ても立っても居られなくなり、震える手で…なんとか家族にラインを送る。


「今、変な男が、近くに座っていて怖い…」…家族は、朝の慌ただしい時間で見ていないのか、返事はこない…


私の背中を…


    冷や汗が、伝い始めていた…


















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