第5話

私は、再び携帯の画面を真っすぐに見つめる。


もはや、右側を見ることができないほど、恐怖していた。


私は、前を向いたまま、精神だけを…右の男の動きに集中する…


目の端に映り込む男の姿…

男はやはり、こちらに顔を向けているようだ…一体、なんだと言うのだ…

不快で仕方がない…


そもそもこの男は、一体どこまで向かうのか…

降車駅はどこだろう…

私より先に降りるのか、後に降りるのか…。


一刻も早く、ここから…この男から、物理的に離れたい…と思うのに…


私の身体は動かなかった… いや、正確には…動けなかった…。


今、おもむろに私が立ち上がって移動した場合、この男はどのような動きに出るだろう…


車内には、随分遠くにしか、他の乗客の頭が…見えない。


何かあったとして助けを呼ぼうにも、かなり難しい距離…



すぐ隣に座って物理的に拘束されているわけでもないのに、


まるで、目に見えない縄で縛られているかのように、身体が動かない…。













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