第9話 俺、眼鏡を作る
もちもちに頼んだら、ガラスの材料はあっさり揃った。
っていうが硅石は欠片ならそこら辺にあるものだった。
ガラスを作れるだけ集めるのが面倒くさいだけ。俺の場合、もちもちじゃなくてもモグラネズミに頼んで何とかなった。
なので、ガラスを作る。
試行錯誤の末、上手く作れるようになったので凹凸レンズをいろいろ試作して手元作業に丁度良い拡大鏡を作った。大きさはA四サイズくらいの板。それを木の枠で固定し、台を作り高さ調整もできるようにした。
普段はレンズと調整の棒と台座を取り外して、必要な時にだけ組み立てるようにした。その方が仕舞い易いし、持ち運びにも便利だ。
ガラスが出来ると、次に作ってみたいのが眼鏡。度を入れない伊達眼鏡。弦を付けたオーソドックスなのと、ゴーグルみたいなのを作った。
どちらにも、弦や枠に術式を書き込んで、簡単に鑑定ができるようにした。魔力を流すと、サングラスみたいに色が付くようにもした。
これで変装は完璧。ゴーグル掛ければ顔を隠す必要もないしね。
ふはははは。厨ニ心が擽られるぜ。
訳もなく、サングラスをかけたい時期ってあったよな?
合間に、拡大鏡を使って妹の指輪を作る。
拡大鏡ってさ、よく見えるだけで、細かい作業はより細かくなって大変さ倍増だったよ。
お陰で、一層細かい術式を書き込めたけどな。
俺、今なら米粒に仏様描けるかも知れない。
米粒ないけどな。
飾りの花は薔薇にしてみた。ちょいデフォルメしたやつ。で、葉っぱを片方が雫っぽく、反対を風の流れっぽくした。
バランスは…悪くないと思う。が、どうだかは知らん。
メノウ経由で妹に渡るようにしたが、とりあえず喜んでいたらしい。
それを素直に、俺に向けて欲しいもんだ。
まあ、やけに可愛い刺繍の入ったハンカチが届けられたけどな。
鳩かな? 鳥だと言うことは解る。
どうやら、妹の渾身の作らしい。
可愛いから、とっておこう。
妹は指輪を付けたり仕舞ったりしてる。
付けるのは専ら、誰もいない時。
見つかったらまずいことは妹もわかっているようだ。
兄貴も普段は、鎖に通して服の下に隠しているとか。
そんな風に気を付けていたようだが、失敗は誰にでもあるもので。
三ヶ月くらいしたところで、妹の指輪は母親に見つかった。
丁度宝石箱に仕舞おうとした隙を突かれたらしい。
母は、テーブルの上の指輪を目敏く見つけた。
「なあに、このみすぼらしい指輪は」
「あの、お母様。それは…」
「こんな小汚ないものを付けるんじゃありません。リリーナ、貴女は淑女なんですからね」
言いながら、母は窓を開け指輪をぽいと捨てた。
「もっと素晴らしいものを買ってあげます」
「…………はい…お母様……」
妹は俯いて、頷くのが精一杯だった。
母親が部屋から出て行って、妹はポロポロと涙を溢した。
「れ、レノ兄様に、作って、もらったのにっ」
「お嬢様、後で私が探して参ります」
嘆く妹を宥めた後、ドロシーは庭に捨てられた指輪を探しに行った。
人目に付かないよう、夜にしか出られなかったため、当然指輪は見つからなかった。
夜更け、ドロシーは土やら葉屑やらでボサボサになって妹の元に戻った。
「…お嬢様…申し訳ありません…見つけられませんでした」
泣きそうな顔で頭を下げるドロシーを妹は責めることができなかった。
花壇やそこら中を這いつくばって探してきたのは、その姿からも明らかだったから。
「ありがとう、ドロシー。もう、部屋で休んで」
「はい…」
ドロシーが部屋に下がった後、妹は再び泣いた。
なんで俺が知っているかと言うと、ことの次第は鳩を通して全部見ていた。
庭に捨てられた指輪も、モグラネズミにすぐに回収させた。
早いうちに回収しておかないと、母親の使用人あたりに廃棄されるかも知れないと思ったからだ。
事実、ドロシーが夜更けに探しに来る前に来てたし。見つけられなくてあっさり帰ったけどな。
ないならないで構わないんだろう。
あの様子から、指輪を作ったのは俺だって知っていたんだろうな。
ちなみに、なんで俺が鳩で見ていたかってのは、指輪をもらってこっそりキャッキャうふふする妹が見たかったからだ。
反省はしない。
お陰で妹の隠されたデレ部分を堪能したからな。
泣くのは…見たくなかったな…
なくしたから、追加でまた欲しがるかと思ったら、妹は何も言って来なかった。
どうやら、無理を言って作ってもらったという自覚はあったらしい。
これ以上、無理は言えないと言うことなのだろう。
妹よ…思いっきりデレてお願いしたら、兄ちゃん頑張るのに…
俺、実際にはツン部分しか見たことねぇよ。切ない。
それはさておいて。
いくら俺でも、このままにはしておかないよ。
何より、妹が可哀想だもんな。
なので、指輪の作り直しだ。
みすぼらしいから捨てられたっていうなら、もっと豪華にしてやるよ。宝石だって使ってやる。
シルバーカラーオンリーだったけど、ピンクゴールドも投入だ。
薔薇の花も、もうちょい気合い入れるぜ。
俺の本気を思い知りやがれ!
できた指輪は、ベースシルバーにピンクゴールドの薔薇の花、花びらの中心にピンクサファイアをはめ込んだ、渾身の逸品だった。
ふははは。
二ヶ月かかったぜい。
でも、後悔はないんだぜい。
この指輪のお陰で、俺の彫金技能も大幅アップしたからな。
俺、将来は彫金で食っていけるかも知れない。
それもいいかも知れない。
材料も自前で調達できるし、天職かもな。
候補に入れておこう。
他にも、潰しの利く技能を習得しておきたいもんだ。
魔物狩りも、まあ使える技能ではあるか。
そう言った仕事はあるんだろうか。
そのうちちゃんと調べておきたい。
夢が広がるぜ。
ちなみに指輪はメノウ経由で渡すように指示した。頃合いを間違えないようにと、厳命もしておいた。
妹は可哀想だが、また母親に見つかって捨てられるのは御免だ。
ドロシーも細心の注意を払ってくれるだろう。
後は任せた。
さて、彫金技能を極めた俺としては、再チャレンジしたいことがある。
メノウ含めて、みんなの指輪を作り直すことだ。あ、勿論、兄は除く。
マルトを始めとして、不慣れな状態で作った守りの指輪は、今見ると素人レベルが酷すぎて、見ていて恥ずかしい。
なので、作り直す!
彫金の腕も上がったし、拡大鏡もある。
守りの術式は、これ以上まとめられないけど、飾りは手を入れられる。でも派手にすることはできないから、指輪の内側に刻んでやったぜ。
男連中は植物、葉や木をモチーフに、メノウたちは花をモチーフに。花はマーガレットにしておいた。あまり華やかにならないように。
新しい指輪を渡し、内側の彫刻を頑張ったアピールして、絶対に誰にも知られないように口止めした。
みんな、二つ目の指輪に一旦は戸惑い、内側の彫刻を見て、嬉しそうに笑った。
ふふふ。
リベンジ完了。
俺は自己満足に浸った。
その頃に、妹にも指輪が渡ったようだ。
こっそり菓子折が届いたから、そういうことなんだろう。
二つ目の指輪を、妹は決して日中外に出すことはなかった。
常に鍵のかかる宝石箱に仕舞い、寝る前に一度だけ出して指に付ける。
寝る前ならば、母親が部屋に来ることはないからだ。
そして、再び宝石箱に仕舞う。
捨てられないためには仕方ないが、これだと守りの術式が全く用を成さないんだよなあ。
うーん、痛し痒し。
上手いこといかないもんだ。
付け入る隙を与えなくなるまでは、このままだろうな。
屋敷にいるうちは危ないこともないから、大丈夫だろう。
守りの術式が役に立つような事態はない方がいいもんな。
渡した以上、扱いは妹たちに任せよう。
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