第5話 俺、特訓する
結論を言おう。
兄貴は無事に精霊の加護を貰った。
風と火の二つなんだそうだ。
翌日、レントがこっそり教えてくれた。
二つか。
良かった、俺貰った加護は一つだけにしておいて。っていうか、自己申告より兄貴の方が多くて良かった。
兄貴が加護を貰ったことで、屋敷は上を下へのお祭り騒ぎだ。
その中でフォークだけが激怒していた。
曰く、何故そんな大切なことを自分たちだけで行ったのかとか、どうして呼ばなかったのかだとか。基本、文句の内容はこれである。要はよくも仲間外れにしたな、ってことだ。
ジュストは平身低頭でひたすら謝ったのだが、アルバートが、その場にいなかったんだから仕様がないだろ[要約]とか言い放ち、火に油を注いだ。
フォークは怒り狂った。クールな学者風のフォークが怒り狂うなんて、実にレアな見せ物だけど当事者は堪らんだろうなあ、とは鳩目線からの感想だ。
とりあえず、三年後のリリーナの祠詣でには絶対に同行すると言うことでなんとか落ち着いた。
そのどさくさで、俺も加護を得たことにした。
加護を得たのが一つなので、やっぱり兄に比べで冴えない子ね、とか母親は俺を落とすのに余念がない。
ここまで徹底すると、感心するよ。
言っておくけど一つだけだとしても、加護を精霊から貰うって、凄いことなんだぞ。
二つ貰った兄貴を、誰もが神童扱いするのも当然なくらい。
故に、兄貴付きの使用人たちは俺に凄い感謝している。表立って言えないため、別邸に横流しされる菓子や食材のランクが上がった。
美味しいものが食える俺はご機嫌だ。
俺付きの使用人たちも、内心では鼻高々らしいし。
俺が先に精霊の加護を貰ったことは、完全に伏せられたが、別に俺にとってはどうでもいいことだし。
空気な父親は、加護が一つとは言え、さすがに何か思うことかあったらしい。
俺専属の教師を付ける手配をした。
もしかしたら、アルバートが何か言ったのかも。
まあ、どっちでもいいや。
アルバートからの紹介でレガートと言う青年に槍を、フォークからの紹介でジルと言う青年から座学を学ぶことになった。
どちらも、地味な顔立ちの二人だった。アルバートとフォークの紹介だから、能力は確かな筈だ。地味なのは…俺が目立たないようにするためか…
アルバートもフォークも考えてるんだなあ。とか、しみじみ思ったよ。俺が突出すると、しかも兄貴を追い越すと、鬼の形相で怒鳴り込むだろう毒な人物が若干一名いるからな。
レガートもジルも人柄は良さそうだから、問題はないだろう。上手く誤魔化しながらやってくれると期待したい。
ともあれ、俺は週に二日ずつ、二人から学ぶことになった。
ちなみに槍術を学びたいと言い出したのは俺だ。あの大鎌を使うのには、剣術より槍術の方が役に立つんじゃないかと思ったからだ。
実際には、まあ柄の長いものを扱う基本はなんとか身に付けられそうだ。やっぱ、槍と鎌は違った。
後は、自分次第。
仕方ない、頑張ろう。
他にも精霊の加護からいろいろと試した。
まず最初にやってみたのは身体強化。これは血管とか筋肉とか体内魔力とかを、加護の力を受けながら見直してみた。体内魔力は体内を巡る血管に沿って流してみた。
初めから上手く出来る訳もなく、最初は指先に熱を巡らすようなことしかできなかった。
それから範囲をじわじわ広げていき、身体全体に行き渡らせるのに一ヶ月くらいかかった。後は強化を中心に行い、今では隣の領地まで日帰りできる程の身体能力を底上げできるまでになった。
日帰りできるとなれば、当然行ってみる。
うちの領地は魔物がいない。そもそも少なかったが、精霊から加護を得てから全く出ない。
これは精霊たちとの友好関係が築けたためだと、もちもちたちが言っていた。うちは婆ちゃんの時代から割りと平和だったもんなあ。その理由がわかったよ。婆ちゃんありがとう。
逆を言えば、精霊たちと友好関係を築けない領地には魔物が出ると言うことだ。
最近、近接の他領地に魔物がよく出るようになったのは、そう言うことらしい。
本当、なんで精霊の祠詣でが廃れちまったんだろうな。
ともあれ、魔物が出るとなれば、それを利用しない手はない。
身体強化で、いろいろ底上げ出来るようになった俺は、日帰り出来る範囲内の他領地に魔物狩りに出ることにした。
大鎌も使いたいしな。
他領地に行く時は髪と目の色を変える。これも身体強化の一端だ。銀髪蒼眼はどうやっても目立つから。
と言っても、果てしなく黒に近い銀と果てしなく黒に近い蒼に変えるのが精一杯だった。
真っ黒にするには、闇の精霊の加護が必要なんだって。
この闇と光の精霊は、王宮の祠にしかいないそうだ。王族が闇と光の加護を持つ者が多いっていうのはそのせいなんだろうな。
ずるいよなー。
光と闇精霊を抱え込むとかさあ。
王族の特権なのかねえ。
そんなことを考えながら、目の前の棘の生えた兎のような針鼠のような魔物をさくっと刈った。大鎌なだけに、狩ると言うより刈る気分。これくらいの下位の魔物なら結構簡単に倒せるようになった。切れ味良すぎてスパスパいくんだよなあ。
自分が強くなってるのか、微妙に分かりにくい。まあまあ俺も強くなったってことにしておいていいかなあ。
魔物は消えて、魔石が残る。小さい魔物は、死ぬと魔力的に姿を維持できないのか、消滅して魔石だけになる。大物は死体が残るらしい。
まだそこまでの大物には遭遇してないけど。っていうか、そんな大物が闊歩する領地とか完全にヤバいわ。
「ねずー、頼んだ」
地面に声をかけるとモゴモゴと地面にモグラネズミが現れて、魔石を掴むと再びモゴモゴと地面の中に消えた。
このモグラネズミも眷属だ。地の眷属。魔石はこいつに回収してもらって、地中に貯めてもらっている。うちに持って帰る訳にいかないもんなあ。
地中なら、まず誰かに盗られる心配はないし。頼めばモグラネズミがいつでも持ってきてくれるから、実にありがたい。
さて、次に行くか。
気配察知で周囲の魔物を捜す。
近くに魔物がいる。気配を消して、近付いては刈る。この繰り返しだ。お陰で気配を消すことも上達した。
大鎌も随分使い慣れてきた。
身体強化に併せて、空間収納にも挑戦した。
魔力を集中して、加護の力をいろいろ混ぜ込んで最初に出来たのは消しゴムくらい小さな空間だ。それに毎日毎日魔力を注ぎ、空間を広げていく。今はスーツケースくらいの空間になった。
まだまだ広げたいなあ。
出来たら、トラック一台分は欲しい。
魔力を注ぎ続けたら何とかなると思いたい。
地道に続けてみよう。
このまま行けば、俺、フラット家を出ても生きていけるんじゃね?
そう思うと、自主トレにも精が出るよなあ。
とりあえず、夢が広がるぜ。
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