第44話




「はじめさん、happy birthday⭐︎」




目を丸くして驚いているじめさんを微笑ましく思いながら用意していたプレゼントを差し出す。




「ふふっ、はじめさんの事だから自分の誕生日すっかり忘れて居ると思って居たんだよね。

私はずっと覚えていたよ。

ーーー何ならこの為にあの騒動を一ヶ月で終わらせる努力をしてたぐらいだよ。へへっ。

はいっ、プレゼントをどうぞ。」




受け取りながら苦笑いをするはじめさん。

「ゆづ葉には敵わないな。」と目を細め頬を緩ませる。




「ありがとう。開けていいか?」




「もちろん。」




ラッピングを破らないように慎重に開ける所にはじめさんらしさを感じる。

綺麗に包みを開くと分厚い冊子が現れる。

ページを捲ると笑顔の私達がそこに居る。




「アルバムか。うん良いなぁ。

幸せの瞬間が此処に詰まっている。

ーーー写真は今まで好きでは無かったんだが、、、ゆづ葉と一緒なら思い出を残して行きたい思える。

本当にありがとう。」




そう言って次々にページを捲って行く。

すると有るページに差し掛かりはじめさんの手が止まる。




「この後空白ページがずっと続いているようだが、、、コレは?」




そう、分厚いアルバムの最初の数ページにしか写真は貼って居ない。

貼れるスペースはまだまだ有り余っている状態だ。

でもこの状態が正解である。




「コレはね、この先ずっと写真を貼り続けられるように空白ページが有るんだよ。

クリスマスでしょ、初詣でしょ、バレンタインに卒業式。

この短期間にイベントが目白押しだよ。

ーーーそれだけじゃ無い。

普通の日常も、それこそこの先結婚して二人で生活して子供が産まれて家族が増えて歳を重ねて子供が大人になって、、、そんな日々をこのアルバムに残して行きたい。

足りなかったらもっともっと増やしていけば良い。

、、、だから、はじめさん。

私とこの先ずっと一緒に歩んでくれませんか?」




これは私の一世一代のプロポーズだ。

私が学校を辞める事になったとしても、現在まだ学校に居場所が存在して居たとしても、このプロポーズをするつもりで居た。


付き合ってほんの数ヶ月で何を言ってるのだと笑われるかもしれない。

学生が周りも見ずただ突っ走って居るのだと誰もが言うだろう。

だが、この出会いはこの人は私の最愛なのだと確信している。

はじめさんが居ないなら私は誰も愛さなくても良い。

はじめさんが拒むならもう生きて行けないだろう。

それ程までに彼に堕ちている。




「俺で良いのか?」




「はじめさんじゃなきゃ嫌だ!」




「俺はゆづ葉より年上ですぐおやじになるぞ?」




「はじめさんが歳を重ねて行く度に益々魅力的なって行くと思うと私の心臓が持たないかも。

好き、いやそんな言葉じゃ伝えきれないーーー愛してる。

はじめさんの隣に居るのが私じゃ、、、ダメかな?」




「っ!!!違う!

俺だってゆづ葉と一生を共にしたいと思っている。

はぁ、また先に言われてしまったな。立つ瀬が無い。

ーーー卒業式の後で言おうと思っていたんだが、今言いたい。言わせてくれ。



ゆづ葉、俺と結婚してくれ。お前とこの先ずっと歩んで行きたい。」




その言葉に自然と涙が出てきた。

欲しくて欲しくて堪らなかったその言葉に涙にぐしゃぐしゃとなった顔で返事を返す。




「はいっ!お願いしますっ。」




そのまま深い口付けを交わし強く抱きしめ合った。二人共涙を流している。

以前の苦しい涙では無い。

その涙は幸せを感じる温かなものだった。




抱き合いながらひとしきり泣いたあと、再びキスを交わす。

啄むようにすればお互い熱を帯びた眼差しになる。

再び深く唇を合わせようとした瞬間ーーー

そこで校舎に喧騒が戻ってくる。

後夜祭を終え帰る準備の為みんな戻って来たのだろう。

ゆっくりと唇が離れ無言で幾分か見つめ合った後、頬に赤色が差したまま羞恥の笑顔が零れる。




「俺たちも帰る準備をしよう。

ある程度生徒達が出払うまでは待機だがな。」




そう言って荷物をまとめ出す。

着ぐるみをカバンに詰めプレゼントしたアルバムを再び丁寧に包み直し胸に抱える。

だがそこでふと動きが止まる。

何事かと思っていると




「そうだ、ゆづ葉の″願い″を叶えて居なかったな。あの時俺は約束を反故にしたから。

貰ってばかりじゃなくちゃんとその分を返したい。


前みたいに条件なんて付けない。何でも叶えるからゆず葉の″願い″を言ってくれ。」




覚えてくれて居たんだと嬉しくなる。

ずっとずっとお願いしたかった事をはじめさんの耳元で呟く。

そんなお願いをするのが恥ずかしくて顔が熱くなる。


私の願いを聞いたはじめさんが一瞬驚いた顔になったが直ぐに優しい笑顔になる。




「もちろん喜んで叶えよう。

いやでもこれは俺にっとてもご褒美になる気がするが。

よしじゃあゆづ葉、こっちへおいで。」




おいでと両手を差し出してくれるはじめさんに身体を預ける。

膝裏に左腕を。

背中に右腕を。

そのまま身体を抱き上げられればーーーお姫様抱っこが完成だ。

はじめさんの胸に頭を預ける。顔を上げれば優しい微笑みが目の前に有り幸せを感じられる。


これが私の願い。

甘える事が苦手な私が初めて甘えるくすぐったさを、嬉しさを感じさせてくれたこの抱っこは私だけの特別だ。




「これから先、ゆづ葉が望む時にいつでもしてやるからな。

俺だけの特権だ。良いな。」




そう耳元で囁かれ幸せを噛み締める。

校内の喧騒が過ぎ去るまで私達はずっと甘い時間を過ごした。



その日忘れられない思い出がまた一つ、アルバムに飾られた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





休みを挟み週の始まり月曜日。

文化祭も終わりいつもの日常が戻ってくる。


席に座り心地良いはじめさんの声を聞きながら窓の外を眺める。



そうそう、ここで金森先生がどうなったかを話そう。

あの後体調不良を理由に学校を休んで居た彼だが、そのまま戻ってくる事なく海外の学校へ出向したそうだ。


なんでも校長が戦地広がる某国の教育体制を何とか支援をしたいと有志を募った所、金森先生が名乗り出たとか。

彼は決意を胸に万感の思い・・・・・で旅立ったと聞く。


ーーーうん、また色んな事情が見え隠れしているようだが、、、頑張って欲しいと心から思う。




「ーーーと言う訳で就職組はこれで確定とする。

進学組はまだ変更が有るようなら今から配る用紙にその旨を記入し提出してくれ。

以上だ。」




はじめさんの言葉に教室へ意識を戻す。


回って来た用紙を暫く見つめ、そして記入する。

人生を左右するであろう進路。

高校入学時から決めて居たが、三年となり迷いが出ていた。

このままで良いのかと。


だがもう私の迷いは消えた。

私が選ぶのは一択のみだから。


これからまた教師としてのはじめさんと話し合いになるだろうが、もう揺らぐことは無いだろう。

恋人としてのはじめさんなら分かってくれると信じて用紙を提出する。




それを提出した時のはじめさんの顔は、、、困ったような、嬉しいような複雑な顔をしていたのだったーーーーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る