第43話
文化祭後半戦はグラウンドへ行くことに。
うちの文化祭では運動部は基本グラウンドで出し物をして居る。
校舎から少し離れた場所に有るグラウンドに近づくにつれ各部の看板が見えてくる。
えーっと、借り物競争、パン食い競争、二人三脚、騎馬戦、、、。あれ?体育祭と間違えては居ないだろうか。。。
と、とりあえず他も見ようと辺りをキョロキョロ見回していると見慣れた可愛い女の子の姿を捉える。
あちらも私に気づいたのだろう、大きく手を振り駆け寄ってくる。
「ゆづ葉お姉様!!来てたんですね!!久々だし、しかも今日会えると思って無かったから嬉しい!!!!」
そうハイテンションで話すのはご存知、はじめさんの妹の結城ちゃんである。
夏休み明けからすっかり会えなくなって居た為本当に久しぶりだ。
嬉しそうに近寄ってくる姿に癒されつい頭を撫でる。あぁなんて可愛い妹だ。
すると人前で撫でられた事が恥ずかしかったのか顔を真っ赤にし目をうるうるさせて居た。
これは反省しなければと思って居ると、結城ちゃんを囲うように部活仲間であろう子達がやってくる。
『結城だけなんて狡い!私もーー!!』『私が先!!』と何故か私に詰め寄ってきた。
《みんな撫でられたいとは。
うーん、文化祭でお疲れてなのかな?》
と順番に頭を撫でていこうとすると結城ちゃんが声を張り上げた。
「だ、だめーーー!ゆづ葉お姉様の妹は私なのーー!だって、
『おにい』と言葉を発した瞬間何処からともなく現れたファンシーでファンキーな巨大熊がすかさず結城ちゃんの口を塞いだ。
《アレ息できているかな?》
と心配する程の力強さ。熊さんは実の姪に容赦が無いみたいだ。
そんな熊の行動に目を見開き驚いていた結城ちゃんだったが、雰囲気からすぐに中身が誰か察したのだろう。
熊の腕を勢いよくタップしその手が離れると
『ごめん~もう言わないから』と口パクして謝って居た。
「はぁ~びっくりしたーー。
おに、じゃ無かった熊さんか。
激甘暴走熊さんも一緒だったんですね。いや失礼失礼。
みんなもごめんね。つい熱くなっちゃって。
(今は)みんなのゆづ葉お姉様だもんね、順番に撫で撫でお願いしよう。
、、、良いですか?」
熊さん無茶苦茶言われて居るけども。
まぁそれは置いといて。
結城ちゃんにそう言われて断る私ではない。
寧ろ嬉々として少女達の頭を撫でた。
あぁ役得だ。
その間熊さんからは若干の冷気が漏れて居たが今は敢えて気付かないふりをしておこう。
「ありがとうございます!
これで頑張れます!!
、、、一時はどうなる事かと、、、ゆづ葉お姉様の元気な姿が見られて嬉しいです。」
そう言ってハニカム結城ちゃんは多分色々知っているのだと察する。
夕子の話の中で私達に協力してくれた人が何人も居た事を知った。
偽の噂の拡散、証拠動画撮影、騒動の箝口令等をしてくれた存在。
それは私達をお姉様と慕ってくれている子達だった。
その子達には感謝しかない。
そう思い何か出来ないか夕子に尋ねれば
『ゆづ葉がいつも通りにしていることが一番のお礼になるよ。
ってか逆にゆづ葉に『お礼だから』と何かしてもらっちゃうと″そんな事の為にしたんじゃない!!″って彼女達に怒られちゃうよ~。』
と言われればお礼が言えず不完全燃焼ではあるものの夕子の言葉に分かったと頷くしか無かった。
だから心の中でお礼を言いつつ私は普段通りに過ごすことを決めた。
「あっ、そうだ!是非うちの店寄りませんか?
あそこです!
斬新で楽しめると思うんですが中々人が集まらなくて。。。」
結城ちゃんが後ろを向き、ある看板を指をさす。
それにつられてそちらを見る。すると、
『マッスル人力社~あなたをいち早く目的地へ、、送りマッスル~腹筋板チョコーー〜』
とポーズを決めた筋肉男子の絵(しかも妙にクオリティーが高い)が描かれた看板が目に入った。
うわぁ、、、嫌な予感しかしない看板だ。
一応結城ちゃんにどんなお店なのか内容を聞いてみると、屈強なタンクトップ男子がおんぶもしくはお姫様抱っこで目的地まで運ぶと言う店だそうで″人力車″ならぬ″人力社″だそうだ。
なんか予想通りだった。
あれ?でも結城ちゃんは美術部だったはず。
その中に屈強な男子っていたかな?
そう疑問に思い聞くと
「うん、そう美術部です。というか此処にいる女子全員美術部ですよ。
合併する前は毎年美術部は作品の展示のみだったらしいんですけど、今回は合併してから絵画のモデルとしていつもお世話になっているボディビル部のお手伝いをする事になったんです。
あの肉体美を皆に見て触って知ってもらいたくて!
で看板とか受付とかだけど協力しているんです。」
なるほど、看板は美術部の作品だったのなら納得だ。
だが、、、文化祭の出し物としてコレは如何なものか、、、それに
いや生徒会、ひいては教師が容認したのならこれ以上言うまいと早々に考えることを放棄した。
「折角で悪いんだけどちょっとやめておくね、、、嫌と言う訳じゃ無く、今はちょっと、、、あと私はーーー」
はじめ熊さんをチラッと盗み見た後結城ちゃんに耳打ちする。
すると納得してくれたのか大きく頷き
「あぁ、忙しい中ごめんなさい。
ふふっ、
じゃあゆづ葉お姉様、ごきげんよう~」
と美術部のメンバーと共にご機嫌で店へ戻って行った。
結城ちゃんと分かれた後も引き続きグラウンドの出し物を周った。
その間も色々な人達に『お姉様〜』と笑顔で声を掛けられ一人一人と挨拶を交わしていった。
そしてまた校舎に戻った時には後夜祭の時間となっていた。
生徒達は片付けもそこそこにグラウンドに集まって行く。
目的は吹奏楽部によるジャズライブだ。
我が校の吹奏楽部は全国大会常連の強豪校でその演奏は圧巻の一言。
みんなその演奏を聞くために集まっては居るが、若干目的が異なっている。
後夜祭で好きな人と一緒にライブを聞くと幸せになれると言うジンクスがある為だ。
そんな中私達はと言うとジンクスにあやかる生徒達と同じく、寄り添いながら心地良い音楽を楽しんでいる。
皆んなと違う所と言えばここが屋上であるという事だけだ。
「二人っきりの特等席で演奏を聴けるなんて、仕事の押し付けには少し腹が立ったけど夕子に感謝しないといけないね。」
「あぁ、そうだな。着ぐるみのこともチャラに出来そうだ。」
二人で顔を見合わせ「ふふっ」と笑顔が溢れる。
巡回を終えた私達は屋上へ来ていた。
ジャズライブ会場に行きたかったが、どうせならはじめさんが着ぐるみを脱いだ状態でライブを楽しみたかったのと朝から準備して居た事を実行する為でもあった。
屋上からライブ会場を覗き込んでいるはじめさんに気づかれないようにリュックからある物を取り出す。
そして一呼吸置いてーーー
「はじめさん、happy birthday⭐︎」
そのフレーズと共にはじめさんの頬にキスをする。
その瞬間ドーンと衝撃音と共に文化祭フィナーレを告げる花火が大空を駆け巡る。
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