第42話
夕子が語ったのは金森先生の件、ーーーそして今まで私に隠していた事の全てだった。
金森先生の件を話す前にまず夕子自身の話しから始めなくてはならない。
夕子は私達が在籍しているこの高校の理事長兼校長の姪にあたるらしい。
元々は夕子の父親が理事をして居たが、学校経営に向かなかった様で夕子の母の弟である叔父さんに任せて今があるそうだ。
叔父さんは敏腕だったが嫌々継いだ事から、いつか義兄の娘、夕子にこの学校を返す為色々学ばせて居た。その一環として校内の情報収集、操作を義務としていた。
そう、校長が金森先生に語っていた優秀な調査員とは夕子のことだった。
だがその本人はやる気が全く無く、やるべき仕事はしっかり熟す癖に勉学に対しては態と悪い成績を取りちょっとした抵抗していたそうだ。
そんな中その叔父さんこと、校長が他校で問題を起こして居た金森先生を呼んだのが今回の事の始まりである。
問題教師を呼んだ理由は彼の不正の尻尾を掴み弱みを握る為。
なぜ弱みを握りたかったかだが、この辺は色々大人な黒い事情が絡んで来るそうで夕子は言葉を濁して居た。
そうして金森先生をこの学校に招き、姪である夕子を囮としてけしかけようとしたがイレギュラーが発生してしまった。
その日校長は計画通り囮をお願いしようと夕子を校長室に呼び付けていた。
夕子はそれに向かう途中、金森先生に呼び止められ私を脅したあの動画をチラつかされた。そして私と二人で会う機会を作れと脅迫されたと言う。
そう、夕子が進路について呼ばれたと言っていたあの日の事だ。
そんな事がありそのまま校長との話しは有耶無耶になってしまった。
そしてあの一ヶ月が始まったのだった。
「叔父さんが何らかの目的があって金森を呼び寄せたのは漠然と理解していたし、私に何をやらせたいかもある程度察していたの。
だから金森にさりげなく近づいたのだけれども、何故か金森はゆづ葉に執着していた。
意識を逸らそうと様々な手を打っていたけれど金森のゆづ葉への執着が酷くて上手く行かなかった。
そんなある日ゆづ葉の動画を見せられて逆に私が脅された。更には今度はゆづ葉が動き出して、、、私は見守る事しか出来なくなって。
全てが終わった後叔父さんに改めて『金森が生徒に手を出す現場を現行犯で捕まえられるなら誰が囮になろうと構わなかった』と聞いた瞬間自分の愚かさに絶望したわ。
だって私がモタモタしていたが為にゆづ葉が最悪な状況に落ちていたかもしれなかったんだもの。
長くなっちゃったね。
つまり何が言いたいかと言うとね、ゆづ葉は私の案件にただただ巻き込まれてしまっただけだったの。
ゆづ葉がこんな風に苦しんで傷付いて、、、瞼が腫れて目が赤くなったのも全て私の所為なの。
ーーー私のこと嫌になったでしょ?」
そう言って自嘲するような顔を向けるが瞳は不安に揺れている。私は夕子の隣に座り頭を撫でる。
「正直怒っては居るよ。」
率直にそう口にすると夕子の肩が揺れた。
だがそのまま言葉を続ける。
「だってさ、今まで勉強を出来ないフリしてきたんでしょ?
真剣に教えて居た身から言うと流石に腹が立つよ。私、真剣だったんだよ!」
すると正面を向いたままだった夕子がこちらに顔を向けてくれた。
その表情は元々大きい目を更に大きく見開き、口をポカンと開きっぱなしになったいた。
「くっ、ふふふっ、間抜け顔。
あのね、今の話しで夕子の所為だった事は一つも無いよ。
金森先生を呼んだのは校長先生だし、金森先生が私に絡んで来たのは私が原因だし、動画を撮られたのも私の不注意。
さっき目を腫らしたのは自分の不甲斐なさを嘆いたものだしね。
寧ろ夕子には感謝しか無いよ。
『見守る事しか出来きなかった』だって?そんな事無いよ。それで私のサポート役、守り役に徹してくれた。
というか実際は私の我儘を叶えた所為で夕子は自由に動けなくなっちゃったんだよね。
あとこれは推測だけど、私とはじめさんが今
ありがとう。私達を守ってくれて。
絶対嫌いになんてなら無い。
大好きだよ。」
そう言った瞬間夕子は私に飛び付いてくる。
その勢いに負け支え切れずそのままベッドに二人で倒れ込む。
夕子は顔を私の胸に埋めながら泣いている。
「っ私は、ゆづ、葉に嘘ついてっ、たよっ?」
「うん、でも全て私の為でしょ?」
「金森っ、止めら、、なかったっ」
「私の身を守る為に動いてくれてたって知ってるよ。」
「不正の、証拠集め、手伝えなかったっ」
「そんな事無いよ。
アリバイ作りの協力もあるし、化学準備室での証拠動画を撮ってくれたし、金森先生に嘘の噂を信じ込ませてくれたお陰で出し抜くことが出来た。」
「ーーー本当に、嫌わない、、?
何かあっても?」
「もちろん。どんな夕子でも好きだよ。」
すると顔を上げ真剣な表情で私を見つめてくる夕子。
若干、震えている。
「私は、山田、センセイが好きじゃない。。
ゆづ葉を、私の大好きなゆづ葉を取ったから。
私は、ーーーゆづ葉が好きなの。」
その苦しそうに紡ぐ『好き』と言う言葉に私は、理解する。
自惚れじゃ無く、きっと。。。
誤魔化さず、本心を曝け出した夕子に私も本心で返す。
「ありがとう。私も大好きだよ。
けれど、私ははじめさんを絶対に手離せない。それこそ一生。
だから夕子の言う『好き』には応えられない。
ーーーでも、私は貪欲で我儘だからさ、それで夕子を失うのも嫌なんだ。
そんな意地汚い、自分本位の勝手なお願いをする私に夕子は泣き顔の状態で声を上げて笑った。
「ーーーあっははははっ!
本当にゆづ葉は狡いよ!私を選ばないくせに好きで居てとか!本当に、、、最低な答えだよ。
でも、、、ゆづ葉が居て欲しいって言うなら離れないであげるよ。
ーーーそれこそ一生ね。」
そう言って私の額に触れる程度のキスをすると同時に身体を起こし離れていく夕子。
「へへっ、これ位のご褒美は良いでしょ?
さて、言いたい事も言ったしこれで気持ちが晴れたよ。」
そんな夕子は確かに晴れ晴れとした顔をして居た。
「話してくれてありがとう。
あぁー、もうこんな時間だね。
このまま泊まって行きなよ。」
「ーーーいいの?」
「もちろん!だって私達はーーー
一生離れる事の無い絆があるでしょ?」
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「そう、夕子は私が好きで、私も夕子が好き。これは多分ずっと変わらないよ。」
はじめさんには夕子が私に向けていた気持ちを一切話してはいない。
だが、多分薄々気付いては居たんだと思う。それでもそれについて何も言わないのは夕子の気持ちを尊重してくれているのだろう。
そうこれは私と夕子だけの秘密だから。
「やはり、妬けるな。
でも、お前らはそれが一番合っている。」
そう言いながら立ち上がり私に手を差し伸べる。
「さぁ、巡回の続きへ行こう。
まだまだ文化祭は終わらない。
足立の計画した
そうして再び着ぐるみを被り屋上を後にした。
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