第41話




本日綺麗な秋晴れの中開催されるのは秋の一大イベントの文化祭である。



と言っても三年生である我々は受験や就職の為、下級生とは違い各クラスの出し物は事前に準備した展示物のみとなっており当日は自由参加である。

三年生の参加率は毎年半々という所。



そんな中私は参加組だ。

一ヶ月前は文化祭処では無く金森先生対策に一杯一杯となって居た事からすっかり失念していた行事だったが、本年が最後の文化祭である事、そして本日どうしてもやりたい事があった為学校にやってきた。


そして今現在、校門前で夕子を待っている状態だ。

本当は朝から最寄りの駅で待ち合わせのはずだったのだが朝はやる事があると言われ昼前に学校で待ち合わせる事となった。


腕時計を見ると約束の時間を大幅にオーバーしている。

何かあったのでは無いかと心配していると急に目の前の光が遮られた。

何事かと前に目をやれば、そこにはファンシーでファンキーな巨大な熊(着ぐるみ)が現れ私を見下ろして居た。

突然の出現に流石に驚きスッと目を逸らす。

たっ、多分こちらを見ているのは気のせいだろう。

周りの様子を伺えば、他の生徒達もこちらを凝視しザワザワとしている。

そこで一応確認の為もう一度熊を盗み見る。



はいっ、、。気のせいでは無くやはり巨大な熊は私を見下ろしている。



しかし私は気付かないフリをする。



だが熊はまだ私を見下ろしている。



更に私はまた気付かないフリをする。



だが熊はーー





「分かった、分かった、分かりました。

ごめんなさい、本当は気づいて居てワザと目を逸らしました。

だから無言で圧を掛けないで。

で、なんで熊の着ぐるみなの?ーーー(はじめさん。)」




微動だにしない視線に耐えられなくなり観念して声を掛けると、熊改めはじめさんは大きく頷いたと思えばすかさずスケッチブックを取り出し何かを書き始めた。

そして書き終えるとそれを私に向ける。




「読めって事?えーっと、

『この着ぐるみは足立に渡された。

今日一日、この格好で学園を巡回をするようにと校長からの指示らしい。

一般客も参加できる為何かしら羽目を外す輩が現れるかも知れないから取り締まりをして欲しいそうだ。

明らかな迷惑人物は教師に、こそこそ隠れてやらかす人物は俺達が対処する。

教師とバレると怪しい人物を炙り出せないので着ぐるみを着て、公の場では声を出さない様言われた。

でもその代わりゆづ葉を連れて歩いても良いと足立が言っていた。』っと。ふむ。」



成る程。夕子の朝からの用事は着ぐるみ準備と校長のお使いだったようだ。


それにしても、うーん、文化祭を二人で回れるのは素直に嬉しいがはじめさんが着ぐるみでしかも筆談というのは、、、味気ない。


だがお世話になった校長からの要望であれば喜んで請け負おう。


ん?あれ?でも夕子はどうするのだろう?

一緒に文化祭を回る約束だったのに。

夕子が他に何か言って無かったかとはじめさんに問えば一通の手紙を渡された。

中を開けると見慣れた夕子の文字と何かの鍵か一つ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ゆづ葉へ



って事で今日一日、私の代わりに叔父さんのお手伝い頼んだよ~。




一応、休憩出来る様に屋上を押さえといたから、中に入っている鍵で自由に使ってね~。優しいでしょ~?



但し、違う『休憩』として使わない事。

ーーー何かあれば私はすぐ分かるんだから、、、覚悟して。



っはい、ではでは私の仕事はこれで終了。



帰りまーす⭐︎



折角の休みに学校なんて1秒たりとも居たく無いからね~。



後はヨロシク♡



                夕子


             

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




グシャ。

おっと、つい力が入ってしまった。

ふーん、ふーん、夕子の“代わり・・・“にお手伝い、ね。


これは後でじっくりと説教をしないといけない案件だな。自分の仕事はちゃんとしないといけないよ?


はぁ、俯いて家にやって来たあの時の夕子はシュンとしおらしくて臆病な小動物みたいだったんだけどね。

成る程、既に立ち直っていらっしゃる様子。切り替えが早いのは良い事だけどねー、はぁ、ったく、、、そんな夕子に苦笑いが漏れたが、、、さて、頼まれたからには仕事をこなさないとね。




「うん、よーく分かりました。

良し、じゃあ巡回という名の“文化祭デート“を楽しもっか!」




そう言って着ぐるみのはじめさんの手を取り歩き出す。

折角なら楽しまないと。



そうして色んなクラスの出し物を一つ一つ回って行った。


縁日ゾーンでは射的をする。着ぐるみで照準が見えないはじめさんに代わり景品を狙う。標的ははじめさん好みの可愛い抱っこ熊さん人形。

一発で撃ち抜きはじめさんの肩に抱きつかせる。熊の親子の誕生だ。

多分はじめさんは気に入ったのだろう。

周りの空気がホワホワしており足取りが軽い。しかも落ちない様に何度も肩を確認している。



アトラクションゾーンではお化け屋敷へ入る。

精巧に作られたお化け達に感心しながら進みつつ、キャーっとはじめさんにたっぷり抱き着ける空間を楽しんだ。

はじめさんは私が抱きつく度に『ううっ、くっ!』と声を漏らしていて表情が見えないながらも分かりやすく動揺しているので着ぐるみの中での表情を想像するだけでニマニマが止まらなかった。



展示スペースでは我がクラスの黒板アートを改めて見学する。


テーマは『将来の私達』


35人全てのクラスメートの笑顔が描かれている。

そう言えばと黒板の隅に夕子が描いていた絵を探す。

その絵は熊耳のはじめさんが不貞腐れているという図だった。

はじめさんと顔を見合わせ、、、そして大笑いした。

へぇ、こんな所に伏線が有ったんだね。



こんな風に私達は文化祭を思いっきり楽しんでいる。

もちろんしっかりと目は光らせることは忘れない。

周りを確認すると確かにちらほら素行が悪い人物は居た。

だが、その本人達に声を掛け

『皆んなが楽しめる様にやりすぎないようにしてね。』

とお願いをすれば皆んなが皆んな素直に聞いてくれた。

なんだ、意外に良い人ばかりだな。


時には『一緒に回らないか?』と友好的になって来る人も居るのだがこちらとしては巡回という名目の文化祭デートがある為丁重にお断りした。


ただ、そんな素直な人達を前にすると途端に隣から冷気が出るのは気掛かりだ。

はじめさんは真面目な先生だから人をしっかり見極める為に神経を擦り減らして居るのだろうと推測する。


そして巡回し出して二時間が経った。

流石にそろそろ休憩を挟んでも良いだろうと私達は夕子が提供してくれた休憩場所の屋上に向かう事にする。

屋上に通ずる階段にはバリケードがされ入らないように警告文まで貼ってある。

バリケードを抜け屋上の扉を夕子から預かった鍵で開ける。

扉の向こうには気持ち良い風と綺麗な青空が広って居る。

今日、この屋上での景色は私達だけの物だ。

屋上側から再び鍵を掛け完全に空間を遮断する。




「あぁ、風が気持ちいい。

屋上なんて滅多に来ないからすごく新鮮だね。

あっ、着ぐるみ着てると分からないよね?

もう誰も居ないし脱いじゃおうよ。」




はじめさんの着ぐるみの頭部分を持ち上げ外すと汗だくの顔が現れる。




「ふぅー。。。着ぐるみというものは案外辛いものなんだな。」




汗を拭いながら長い息を吐く。

相当大変だったのが伝わってくる。

だがやっとはじめさんの声を聞けた事の喜びが勝り、疲れているはじめさんに抱きついてしまった。




「はじめさんだーーー!!

文化祭で一緒は嬉しいんだけど、やっぱり顔も見たいし声も聞きたいよ。

あぁでもやっと会えたことが実感できたよーーー!」




ギュッと力を入れはじめさんの首元に頬擦りして感触を確かめて居るとバッと剥がされる。




「汗臭いから離れて居た方が良い。」




そう言うが全く気にならない。いや寧ろーーー




「はじめさんの匂い大好きだよ。

嗅いでいると落ち着くし。ーーだから離れたくないな。」



そんな私の言葉に渋々ながら許容してくれるお人好しなはじめさん。



《ふふっ耳が赤いのは見逃してあげるね。》



二人並んで壁にもたれ掛かる。

視線は雲一つ無い青空へ。


無言でこの幸せなひと時を味わっているとはじめさんが口を開く。




「足立としっかり話せたのか?」




多分あの日・・・の事を言っているんだろう。




「もちろん、バッチリ。

ーーーはじめさんは夕子の事、知っていたの?」




「俺が知っているのは理事長兼校長が足立の叔父にあたるって事とゆづ葉の事が大好きって事だけだ。

ーーーゆづ葉達が変わらずに居られるなら何も問題無いさ。」




そう言ってこの話題を終わらせるはじめさんの優しさにじんわり来た。




はじめさんの肩に頭を預けあの日の事を思い出す。。。




初めて聞いた夕子の本心ーーー


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