第40話
私が身勝手に動いていたこの一ヶ月間。
私からの手紙を読んだはじめさんは、ただ待つという選択はせず別視点からリクさんを探り出したそうだ。
タイミング良くリクさんの出身校にて研修会が開催される事を知り、そこから切り込もうとしたと言う。
当時のリクさん、いや金森先生を知る人物を辿って行きとうとう鍵を握って居そうな一人の助教授を見つけ出した。
金森先生の話題を出すとあからさまに態度が変わる助教授。
彼は全くと言って良い程何も話さず、それでも根気よく何度も訪ねて行った。
そして何とか懐柔に成功し金森先生のグレーな糸口を見つける。
そして期限の一ヶ月を丸々使い漸く真っ黒な裏口入学の証拠を掴んだ。
だがはじめさんがしていた事はそれだけでは無かった。
金森先生の張り付くような粘っこい視線に私の身の危険を感じ取っていたらしい。
復讐目的の相手にそれは穿ち過ぎと思って聞いていたが、実際金森先生は人気の無い場所で私を待ち伏せしていたそうだ。
GPSで居場所を確認に機会を窺っていたのだろう。
だから彼の怪しい動向に目を光らせ動きが有ればその都度はじめさんがわざと姿を見せ牽制していたと言う。
全てを見張る事は難しかった為、夕子の協力を得て実行していたことも付け足していた。
その頃を思い出す。
はじめさんの姿を良く目の端で捉えるなと思っていたら成る程。
そうゆう事になっていたのだと漸く納得、理解できた。
普段の仕事に加えて不正の証拠集め、そして私の護衛。
はじめさんはその為に時間を費やしていたんだ。体調が悪く見える必然だ。完全にオーバーワークだったのだから。
『はじめさんを守る』なんて決意しておきながら実際はその本人に、そして協力してくれた人たちに助けられ支えられて居たんだ。
「私を諦めないでくれて、そして守ってくれてありがとう。
私が如何に自惚れていたか分かったよ。『守ってみせる』と言っておいて守られて助けられて、、私は一人じゃ何も出来ない子供だ。
本当にーーー恥ずかしい、、、でもそれが嬉しい心地良いと思っている自分もーーいるんだ。」
そう俯きながら口に出せばはじめさんが私の頭を軽く小突く。
「ったく、前も頼ってくれと言っていたのにな。
ーーー足立にもちゃんとお礼を言えよ。
あいつは多分俺以上に動き回っていたはずだ。見張りの件だけじゃ無くな。
まあ後は本人に直接聞け。」
私がうんと素直に頷けば良く出来ましたとばかりにガシガシ頭を撫で回してきた。
こそばゆい気分で身を任せて居たが、ある事を思い出しその手をギュッと掴みはじめさんをジト目で見る。
「そういえば、、、はじめさんはいつの間に退職願を出して居たの?
校長室での一件忘れてないよ?
まあ手出し云々はもう良いよ。私の為に動いてくれたんだし、それに元々″お願い″は一つだけのはずなのに二つも欲張って願ったから片方は確かに無効になるはずだ。
ーーーでも、もう一つの願いで私『絶対に学校を辞めないで』って書いたよね?
二つとも無効はーーーさすがに駄目じゃないかな?」
つい低い声が出てしまった。
すると『しまった』とばかりに目を逸らした。
その逸らした視線に回り込み笑顔で見つめると観念して話し出す。
「はぁ。。。
ゆづ葉は金森をどうにかすると決めた時点で校長に俺との関係も全て話すつもりだっただろ?
そして全ての責任は自分に有ると自主退学を申し込む、と俺は確信していた。
お前はそんな風に突っ走る奴だからな。
だから俺はゆづ葉が動く前に金森のネタと共に退職願を出した。そうすれば俺だけ受理されてゆづ葉は助かると思っていた。
その際絶対ゆづ葉に泣かれる事になるなと覚悟していたが、まぁ、結果は、、校長に全部持って行かれたな。感謝してもし足りないが、立つ瀬が無い。
兎に角、俺も約束を破ってでもゆづ葉を守りたかったんだ。それでゆづ葉を傷付けたとしても、、、。
この気持ち、分かるだろ?」
そう言われると何も言えない。
はじめさんが守ろうとしてくれた気持ちが私と同じなら否定出来ない。
でも独り善がりは誰も救われない。
「相手を一方的に守る事が必ずしも相手の為になるとは限らない。それどころか一生物の傷付ける事にもなる、と。
つまり私たちはまだまだお互いのことを信じ切れていない新米カップルってことかな?」
私の言葉を聞いて深く頷くはじめさん。私と同じ答えを導き出していたようだ。
「だな。反省点ばかりだ。
ーーー次に何かあれば今度は二人で最善を尽くし、もしそれでも駄目なら潔く二人揃って辞めるぞ。
もうお互いを庇い合うのは無しだ。
二度と一方的に距離を置こうとするな。離れようとするな。
勿論俺もそんな事はしない。
しっかり話し合って二人で答えを出して行くんだ。いいな?」
その言葉に大きく頷けば肩を抱かれ頭同士をコツンとくっつける。
私も更に身を寄せてもたれ掛かる。
その後一ヶ月間の空白を埋める様に、私達はたわいも無い事もそうじゃ無い事も全て話し合った。そして時折啄む様なキスを交わしお互いの気持ちを確かめ合う。
ある程度話を終え会話が途切れるタイミングで声が掛かる。
「さぁ、話はまとまったかしら?」
声の主は母さんだ。聞こえた方向に視線をやれば、リビングドアの前に両親が立っていた。
その姿を見て慌てて二人揃って立ち上がると「いいから座ってなさい」と言われてしまった。
なぜいつもより早い時間に帰って来たかと問えば、今日私が退学届を提出するみたいだと夕子に連絡を貰い、事の顛末を聞こうと早々に仕事を切り上げて帰ってきたそうだ。
『学校を辞めようと思う』と父さんに言った際、『ゆづ葉を信じるよ』と何も聞かずに退学届を書いてくれたがやはり気になって居た様だ。
そして帰宅してみたら私たちが肩を寄せ合いながら話し合って居たものだから出るに出られず、、、ついそのまま話しを聞いていたらしい。
「おかげで大体話が見えたわ。
まぁ、丸く収まったみたいだし良いんじゃない?
周りの皆さんに迷惑をかけた事に思う所は有るけれど、本人達が納得するので有ればこれ以上何も言わないわ。
ーーーと言う事で、さぁ夕子ちゃん。
ゆづ葉としっかり話して来なさい。」
そう母さんは後ろに声を掛け横に身体をずらす。
すると下を向いた夕子が立って居た。
「夕子!来てたんだね。後から電話しようかとー」
「ごめん!!ゆづ葉!」
私が言い切る前に夕子が勢いよく頭を下げ突然謝った。
どういう事かと私がオロオロと困惑し助けを求め母さんを見ると
「はじめさん、私たちと話しましょう。まだ聞きたいことがあるのよ〜。
良いわよね?」
そう言いながら夕子を連れて部屋へ行けとジェスチャーしている。
そしてはじめさんも頷いていたのでそのまま夕子の背中を押して私の部屋へと向かった。
夕子の足取りは重く、表情も暗かった。
やっと辿り着き夕子をベットに座らせ、私は向かい側の床に座った。
沈黙の時間が流れた後、漸く夕子が口を開く。
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「話してくれてありがとう。
あぁー、もうこんな時間だね。
このまま泊まって行きなよ。」
「ーーーいいの?」
「もちろん!だって私達はーーー」
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