第39話
校長室を後にし二人並んで歩く。
その間の会話と言えば
『ーーー久しぶりですね』
『あぁ、久しぶりだな』
などお互い当たり障りが無い物でやはり多少ギクシャクした状態であった。
校長室では若干興奮状態だったのもあり普通に話せて居たが平静を取り戻した途端一ヶ月のブランクがのしかかる。
それに校内ということもあり本音を口に出せない状況ももどかしい。
このままじゃ埒が明かないと思ったのかはじめさんが口火を切る。
「本郷、顔色が悪い。今日はこのまま俺が送ろう。」
大声で言ったのは周りへのアピールだろう。
そして携帯で誰かに電話を掛ける。
電話は一言二言で直ぐ終え、これからどうするかを話し出す。
「よし、学校を抜ける許可は得た。
これから俺が本郷の荷物をまとめて持ってくるからお前は玄関脇のベンチで座って待っていてくれ。
車も準備してくるから少し時間が掛かるかもしれんが大丈夫か?」
多分電話で先程の呼び出しの件で私が気分を悪くしたから送るとでも言ったのだろう。
確かに今回は、、、キツかった。
然るべき人物に許可を得たならそれに甘えよう。
「ありがとうございます。
でも荷物は自分で取りに行けますので、山田先生は車をお願いできますか?
荷物を纏めたら真っ直ぐ職員用玄関へ向かいますので安心して下さい。」
「あぁ分かった。ベンチに座って待っていてくれ。」
了承を得てここで一旦別れた。
教室に戻ると誰も居ない状態で教室内は閑散としていた。
自然と夕子の席に目が行く。通学鞄が掛かっておらず既に帰宅したようだ。
はじめさんと話を付けたら直ぐに今日の事を連絡しようと心に決め荷物をまとめ教室を後にする。
下駄箱から靴を取り出し職員用玄関へ向かい脇にあるベンチへ腰掛ける。
少し待っているとはじめさんと学年主任が話しながら玄関へ入ってくるのが見えた。
今声を掛けるのは良くないと思い、鞄から本を取り出そうとしているとはじめさんが私に声を掛けて来た。
「本郷待たせたな。やはり顔色が戻らないな。気分が悪かったら言ってくれ。」
そうはじめさんが心配顔をしていると隣の学年主任も同じように心配した様子で声を掛けられた。
「本郷さん大丈夫ですか?
私の配慮が足りず申し訳有りません。
大人びては居ても貴女は高校生だったと言うのに。。。
今日は山田先生に送ってもらってご両親とよく話し合ってください。
ーーー山田先生は校長の指示ですのでこのまま本郷さんを送り届け直帰して下さい。そしていつでも本郷さんの所へ駆けつけられるようにしておく事。
ーー良いですね?」
学年主任の話について行けず、呆気に取られていたがすかさずはじめさんがフォローしてくれる。
「校長が言ってくれた通り、今は無理をせずゆっくり休むんだぞ。いつでも駆けつけるから何かあったらすぐに連絡をしてくれ。いいな?」
まるで先程校長に直接言われた内容で有るかの様な言い回しに困惑しつつ小さく頷いた。
そしてそのまま学年主任に会釈しはじめさんの車に乗り込むとゆっくりと走り始める。
校門を出て車の波に乗ると漸く話せる状況となる。
「さっきは気付かなかったけどはじめさんって徒歩通勤だよね?
私を送る為にわざわざ車を取りに行ってくれたの?」
「そりゃあ、、な。
お前は気づいてないんだろうが、本当に顔色は良くないんだ。
ーーーそんな奴を一人で帰らせられる程俺は図太く無い。」
そう言われ申し訳ない気持ちを抱きつつ、はじめさんの横顔を見つめる。
はじめさんこそここ一ヶ月ずっと体調が悪そうに見えていた。
自惚れじゃ無ければ、、、私の所為だろう。
「ごめ、、、ううん、ありがとう。」
ここは謝る所では無いと感じ感謝を伝える。
溢れて来そうになる心を落ち着かせようと少し話題を変えてみることに。
「ーーーさっきの学年主任の先生との一件ははじめさんがしていた電話に関係あるんだよね?
その相手が校長先生と言うのは何となく察しがついたけど、一体全体どんな話をしたの?」
そう問えば簡潔に話してくれた。
校長に私とゆっくり話がしたいのでこのまま帰宅して良いか聞いた所、
『そうなると思って既に学年主任に粗方話を通して置いたから気にせず本郷さんを連れて帰宅しなさい。』
と即断即決。
その後帰宅の準備を進めていた所に学年主任が現れて「大変でしたね」と声を掛けられ少し話すことになった。
その際の会話の中で学年主任が校長から聞いたとされる私が呼び出される事となった噂の件の全貌を聞いたらしい。
校長曰く、私がストーカー被害に悩んでいてたまたま昔からの知り合いで有った金森先生や担任の山田先生に秘密裏に相談していた事が学園に蔓延る噂の発端になったのだそうだ。
そしてそのストーカーは既に対処したがここ数週間の間に積み重ねられた過度のストレスにより私が体調を崩していると。
そこでそれを心配した校長が私の為に山田先生を送迎役、相談役に抜擢したという流れだ。
それを聞いていたはじめさんはなんとか引き攣った顔を抑え話しを合わせたそうだ。
なるほど、校長の用意周到な対応で今現在一緒の帰宅が実現していることに有難いと思う反面、リクさんの罪を上手く有耶無耶にしたやり口にやはり食えない人だと苦笑いが溢れる。
その後は会話をしないまま家までドライブとなった。
この一ヶ月の空白は確実に私達の関係に溝を与えた。
だから全てが終わった今。
私達は正面から顔を合わせて話し合うべきなんだ。
言い訳も嘘も偽りも無い言葉を、心を、しっかり伝えるんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私の家に着き一緒に自宅へ入る。
玄関のドアが閉まり私ははじめさんを振り向き謝罪の言葉を口にする。
「はじめさん、、、、ごめんなさい。」
心からの謝罪ではあるがこのまま許されると歓楽的に思ってはいない。
許されないであろう事を分かっていて実行していたのだ。どんな言葉でも行動でも全て受け入れるつもりだ。
するとはじめさんが口を開く。
「ーーー本郷、、、目を、閉じろ。。。」
そう言われこれは流石に戒めの一発を頂くのであろうと覚悟を決めゆっくりと瞼を閉じた。
だがいつまで経っても、どこにも衝撃は来なかった。
つい我慢出来ず薄ら目を開けると涙を流し鼻水まで垂れ流しにしてしまって居るはじめさんが目の前に居た。
「はじめさん!!!何で泣いてるの!?」
慌てて近寄りその身を胸に抱いたが泣き止むこともなく、更にギリギリと音がしそうな程歯を食いしばっている姿が目に映る。
「ーーーお願い、、泣かないで!!
分かってる、、、私がはじめさんを傷つけて居るって事も!私が勝手な事ばかりしたから。。。」
そう言葉を発した瞬間、、、今まで必死に抑えてきた感情が、恐怖、悲しみ、怒り、寂しさ、憎悪、愛しさ、後悔、ごちゃ混ぜになった感情が押し寄せてきて、、、いつの間にかそれらが涙として溢れ私の頬をつたう。
私達はお互い声を上げながら泣き、そして抱き締め合った。
言葉は無い。只々、、、泣いた。。。
全ての涙を出し切ったような疲労感が訪れふとはじめさんを見上げた。
彼の瞼は赤くパンパンに腫れておりこちらを見る瞳はほんの僅かしか見えない。
多分私も同じような状態なのだろう。
お互いの姿を確認すると、同時にふっと吹き出した。
落ち着いた頃玄関先からリビングに移動しソファに隣り合わせに座った。
まずは私がこの一ヶ月のことを語り出す。
全て偽りなく正直に。
リクさんに脅された状況や詳細。
化学準備室での出来事。
調査の為にミカさんに会いに行った事。
リクさんを断罪する為に立てた計画について。
そしてーーーはじめさんの意思を無視して守ると決めた私の決意。
「私は例えはじめさんが駄目だと、私の行動が間違いだと言われても意思を曲げるつもりは無かった。それにより貴方が苦しんだとしても、貴方を守れるならそれがベストだったのだと今でもハッキリと言える。
ーーーそれで嫌われても、重いと逃げられても、、私は貴方を離す気は無い。
縛り付けてでも離さない。」
この発言に流石のはじめさんも完全に引いただろうと身構えたが、はじめさんは私の肩を自分に強く引き寄せたかと思えば「ありがとう」とこめかみにキスをくれた。
「俺の事をそんなに思ってくれたのはとても嬉しい。
ゆづ葉になら俺の全てを渡しても構わないんだ。
ーーだが、俺はゆづ葉だけに全て背負わせる事が嫌だ。
それなら堂々と二人で居たかった。どう周りに言われようが二人で考え行動し決断するという選択をして欲しかった!
一人でなんてもう無理だ!!ーーー俺こそお前と離れる事がもうできなんだ。。。」
そう言って唇が塞がれる。
触れるだけのキスじゃなく喰らい尽くすような激しさで息をするのもままならない。
息も絶え絶えになった頃ゆっくり唇が離れていく。その離れた温もりに寂しさを覚え唇を名残惜しく見つめてしまう。
するとそれに気づいたように再度チュとリップ音と共に優しく唇に触れてくれた。
息が落ち着いた頃に今度ははじめさんが一ヶ月間の出来事を話してくれた。
そこには私の知らない事実も含まれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます