幕間 ある女子生徒の独白




我がA城学園高等学校には二大お姉様と呼ばれる二人がいる。


その二大お姉様という存在は学校の合併前から存在しており、合併後もその存在は全校の女子生徒と一部の男子生徒のみに知られている。



いや、、約一名知らない女子生徒がいる。



その二大お姉様の一人ゆづ葉お姉様、本人だ。

彼女には二つ名があり《舞い降りた女神》とも呼ばれている。



女神のような最高の美を纏い、女神のような優しさで我々に慈悲を与えてくれる。そんな人だ。



私達はそんなお姉様方を護るべくファンクラブ成るものを結成し日夜活動に勤しんでいる。

ほら、今日も諜報担当が報告にやって来た。




「会員No.1147より情報が来ましたのでご報告致します。

クリスマスである本日。

ゆづ葉お姉様は担任山田オークに自宅へ夕食に誘われております。

家族で食事をした後、二人で夏面展望台で夜景を見る予定だそうです。

山田はそこで婚約指輪を渡す可能性があるとの報告が。

身内No.1147の情報ですので間違い無いかと。」




 《まだゆづ葉お姉様が卒業前なのにプロポーズとは。。。

指輪で周りに牽制する狙いは有るだろうけど、常識的な山田先生も完全にお姉様のペースに呑まれてしまって居る。 

でもこの情報が流れると、統制が難しくなる可能性がある、、か。》




「分かった、報告ありがとう。

ーーー他の会員には決して言わないようにしなさい。

良いかな?分かったらこのまま帰宅していいよ。

折角のクリスマスだしね。

貴女も彼とデートを楽しみなさい。

お疲れ様。」




諜報担当が去った後ふと夏面展望台について思い出す。




《ん?そういえば夏面展望台はデートの穴場で、確か照明が少なくイチャつきスポットだったはず。

そんな中婚約指輪を渡すとなると気持ちが昂ぶってもしかしたらーーー》




ギリっと歯を食い縛りそうになったそんな時、部屋にある人物が入ってきた。




「ご苦労様。頑張っているわね。

でも、邪魔だけはしちゃダメよ?

あの子の邪魔をして良いのはーーー私だけだから。」




そう言って演劇部部室に入って来たのは二大お姉様の双極の一人足立夕子お姉様。

二つ名は《Guardian devil《守りの魔王様》》だ。


夕子お姉様はゆづ葉お姉様に害を成す者を何人たりとも許さない。

容赦が無いとても怖い人だ。

だがゆづ葉お姉様を前にすると一転、大輪の花が綻ぶ様に美しさが花開く。

そのギャップに我々ファンクラブ一同はやられているのだ。

二大お姉様のお二人が幸せに過ごせる環境作り、そしてお二人の仲を更に深める為に結成された当クラブだったがいつの間にか夕子お姉様に支配されていた。


夕子お姉様がゆづ葉お姉様を守る為、配下になった私達を動かしているのだ。

だが不満は無い。

お二人の幸せがそこにあるのなら喜んで駒になろう。




「今日は改めてお礼を言いに来たの。

あの時はありがとうね。

貴女が化学準備室の動画を毎朝撮影してくれていたお陰で上手く切り込む事ができたの。

そしてばら撒いた噂の火消しも完璧だった。

クラブ全会員を誇りに思うわ。

もちろんゆづ葉も感謝していたわ。

少しこちらの事情を話してしまったけれどあの子は変わらないから安心してね。」




そう言われ少し涙目になる。

これは安堵の涙だ。



《助けになれて本当に良かった。》



私達は夕子お姉様の依頼で金森が我が校に入って来た時点で直ぐに監視をしていたのだ。

あのゆづ葉お姉様に絡み付くような視線を送る金森を何度叩き潰そうと思った事か。

だが夕子お姉様に止められ我慢をしていた。

そんな中、とうとう金森がゆづ葉お姉様を脅迫する所まで発展してしまう。

脅迫内容は山田先生との交際だ。


我々ファンクラブは既にゆづ葉お姉様と山田先生の関係は把握していた。

悪い虫なら徹底的に潰したであろうが、山田先生は不器用ながらもゆづ葉お姉様を本気で愛していた。

夕子お姉様でさえ血涙を流しゆづ葉お姉様の幸せを願って手を引いていたのだ。

私達に何かをする権利など毛頭無い。

なら私達がやるべき事は目を瞑り、そして二人の関係を露見させないよう守るだけだ。


それをあのクズ教師は脅迫のネタにしたのだ。

当時のゆづ葉お姉様は表面上笑顔を貫いていたが明らかに苦しんでいた。

もちろんゆづ葉お姉様を想う夕子お姉様も同じだ。

当然許せる筈がない。



こうして更に団結を強めた私達は夕子お姉様指示の元、自分達が出来得る最善の仕事をこなした。

そして私達が集めた数々のデータを手に校長室へと向かう夕子お姉様の背中を見送った。

もう大丈夫だと確信しながら。



その後は皆さんが知っている通りだろう。

私達が最後の火消しをしてこの話は終しまいだ。



全ての事情を知っているのはクラブ会員の幹部と一部協力者のみ。 

他の子達はゆづ葉お姉様と山田先生が喧嘩をしたと思っているのが大半だろう。


あの騒動での活動を自慢げに語るような野暮な幹部はうちには存在しない。


陰日向にと動くことに美学を持った者だけが一桁No.を貰えるのだ。




「ふふっ、なんの事だか分かんないな。

私は只の演劇部だしね。演じる事や脚本を書く事しか能がないよ。


ーーー時に夕子さん。

噂に聞くと系列大学の経済学部に進路を決めたようだけど、どんな心境の変化なの?」




私は二人と同じ三年生。

裏ではお姉様呼びだが普段は同級生らしく『さん』付けを貫いている。




「へぇ、只の演劇部さんが家族と担任以外に言って居ない私の進路を把握してるんだ~。

ふふっ、やっぱり良いな~貴女。


うん、そうね、心境の変化と言うか流石に腹を決めないとね。

それにもしかしたらこれは全ての縁を繋げる最善策なのかもしれないから。

ーーーって訳が分からないよね。」




そう言いながらも何か確信めいたものが夕子お姉様にはある様だ。

ならやっぱりそれに乗るしかないな。




「実は私も偶然・・同じ進路なんだよね。いやぁビックリビックリ。

ーーーこれからも長い付き合いになりそうじゃない?」




そう私が述べれば夕子お姉様は目を丸くする。




「本当に貴女物好きだね~。

でも、そんな所は嫌いじゃない。」




そう口の端を釣り上げ悪どい笑顔をする夕子お姉様に潤んだ瞳で言葉を返す。




「『嫌いじゃない』かぁ、私は夕子さんの事愛してるんだけどなぁ。

あぁ、いつになったら私の気持ちを本気にしてくれのだろうか。。。」




悲しげに視線を下げ額に手を当てる。

大袈裟な仕草で愛を語る。




「はぁーまたそれか。

そんな所は好きじゃ無いな。

いつも言ってるでしょ。

『私には決めた人が居るの』って。

このやり取り何回目よ!

もう毎度毎度しつこいよ~。」




ウンザリした顔で返す夕子お姉様に、目を細め口の端をグイッと釣り上げ応える。




「その顔が見たいが為と言っても過言じゃ無い。

夕子さんにそんな風に冷たい目で言葉を返されるとゾクゾクしちゃう。」




自分自身を腕に抱き頬を染め恍惚とした表情を浮かべれば、顔の引き攣った夕子お姉様が一歩後ずさる。




「うわぁ、大学でもこのやり取りをする事になると思うと、、、やって行けるか不安になって来た。はぁ、、


ーーーでも、まぁ宜しくね。

ちゃんとお互い受かったら、だけど。」




そのままドアに向かって歩いて行く。

ドアを出る瞬間一言「ありがとう。」と言葉を残していった。




夕子お姉様が出ていった後のドアを見つめるーーー




私は夕子さんを本当に愛おしく想っている。

友愛ではなく、だ。

だが、ゆづ葉さんに好意を持っている彼女にそれを伝える事は憚れた。

私は夕子さんを幸せにしたいんだ。

だからファンクラブ作り彼女を支えて来た。


それでも私から熱は消えず、溢れ出た熱を直接夕子さんへとぶつけていた。

演技の中に織り交ぜて。


それでも、、、やはり滲み出てしまっていたのだろう。

去り際の『ありがとう』が全てを物語っている。




「私は夕子さんを支え続けるよ。

そしていつか、、、貴女だけを愛し、貴女が愛せる人が現れる事を願っている。」




誰に聞かせる訳でも無く呟いた言葉はひっそりと消えていった。




これは私の独り言。



この先も私はあの人の為に動き続ける。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ゆづ葉~、婚約指輪貰ったそうじゃない。」




「なっ、何で知ってるの?!」




「ひみつ~。

ーーーで?盛り上がってそのまま。。。って事で合ってるかな?」




「ナンノコトダカワカラナイ。」




「ゆづ葉さぁ卒業まではキス以上はしないってーーー」




「ロープロープ!冷静になろう?

これ以上は!本当にクビが、、!

あっ、、、あぁ!!!演劇部部長ブチョー助けてー!夕子が夕子がご乱心!!!」




ふふっ、今日も平和である。




「えっ、無視なの?!ねぇってば、ねぇー!!!助けてーーー!」

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