第35話




その後ミカさんに案内され、件の学校に到着する。

セキュリティゲート前で編入希望の見学で来た事を伝え来客者名簿に記名する。

その際に生徒手帳を提示する。



ミカさんは元々一緒に学校に来るつもりで事前に編入希望者の見学の約束を取り付けてくれていたそうだ。

これには流石に驚いた。でもおかげで堂々と正面から校内に入る事ができる。

本当にミカさんには感謝してもし足りない。



生徒手帳を受け取った警備員さんは手帳の写真を見たあと私をじっと見つめる。



ちなみに今の私は薄ら化粧をしスーツ姿の為写真と若干異なっているが頑張って高校生らしさを全面に押した爽やか笑顔を心掛けて対峙している。

どうか同一人物だと分かってもらえます様に。


警備員さんは何故か顔を赤らめ『いっ、いっ、いってらっひゃい』と若干吃りながらもあっさりとそゲートを通してくれた。



こうして私は無事校内へ入ることができたのだった。


さぁ調査スタートだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ーーーそして、門前払い覚悟でリストアップされている人物の一人一人に会って話しを聞いていったのだったが、、、。




「、、、まさか、こんな事になるなんて。」




と私。




「うん、、、言葉が出ない。」




とミカさん。




全てを終え学校を後にした帰り道、私もミカさんもこの状況に驚きを隠せない。

何故ならーーー




「彼女達、あっさり全てを教えてくれたね。金森先生に手伝わされた数々の行為を。」




予想通り、資料作りの代役に始まりテスト作り、採点に雑用仕事など多岐に渡り人に丸投げをしていた。


だが予想外の事実も知る事になった。


それは彼女達を間接的に利用した、個人情報の売買、入試問題の流出、横領だった。

流石に証拠は残って居ないだろうと諦めて居たが、彼女達は証拠を残して居たのだ。

何故そんな物をわざわざ残していたかと言うと、もしこの事が公になった際、身代わりになろうとしていたからだと言う。


そんな一途で献身的な彼女達だったのだが、今じゃ自ら証拠片手に出るとこ出ても構わないと念書まで書いてくれたのだ。

自分達だって相応の処罰が下されるのにも関わらずのその言葉。

正直有難い。有難いのだがこうもあっさりと欲しい証拠が手に入ることに疑問が禁じ得ない。



「いや、、、なんでこうもあっさりと教えてくれたんだろう?

ーーー確か学校側が調査した時完全に口を閉ざしてたんだよね?」




私がそう問えばミカさんは苦笑いを浮かべつつ答える。




「うん、実際そうだったらしい。学校側には誰一人として一切何も話さなかったの。

それがこうもあっさりとーーー進むとは。


まぁ今回は監視アプリが彼に入れられているっていう事実がまず初手で効いたんでしょう。

傾倒して居た人物だったからこそ、その裏切り行為に信頼が一気に消えたのよ。

ーーーあー、あと、、決め手は、ゆづ葉さんのそのーーー『熱意』が通じたよね。。。

うんそう、あれ・・はみんな、さすがに堕ちちゃうかな。あははっーーー」




そう言ってなぜかミカさんが口元をひくつかせていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


回想。

ミカさん視点





『あの、お姉さん少しいいかな?

貴女とお話ししたいんだけど。。』



その声に振り向いたのは30代半ばの小柄な教師。

そして声を掛けたのは美術品の様に容姿が整った美女ことゆづ葉さん。

切長でクールな印象の瞳に紅をさしたような薄い唇。そして高身長に似合うグレーのパンツスーツを纏っているその姿は正に男装の麗人のごとく、極上の色香を漂わせている。


そんな相手にいきなり手を握られ、熱を孕んだ瞳で見つめられれば一溜まりもないだろう。



『えっ?えっ?っっふぁいっ!!!』



声が裏返り一気に真っ赤になる彼女に追い討ちをかける様に頬に手を添え更に言葉を紡ぐ。



『時間を作ってくれてありがとう。

まずは自己紹介するね。

私は本郷ゆづ葉と言います。はい、これが身分証明ね。


ーーーさて、実は話しかけたのはお願い事があったからなんだ。

早速なんだけど貴女の携帯に見慣れないアプリアイコンが無いか調べて欲しいんだ。』



そう言うゆづ葉さんに一瞬にして警戒の色を灯し訝しげに見る彼女。

それもそうだ。見ず知らずの人に突然こんな事を言われれば警戒するのも当たり前だ

これは流石に悪手だったんじゃ無いかとゆづ葉さんを見るがゆづ葉さんは真摯に向き合ったままだ。



『うん、ごめんなさい。ーー分かってる。突然不審な事を言ってるのは承知してる。だけどお願いだ、調べるだけでいいから。

それでもし何にもなければ、私を変質者として何処かに突き出して貰って構わないから、、、お願い。』



そう言って深く頭を下げるゆづ葉さんの熱意に負けた彼女は『まぁ見るだけなら』と自身の携帯の操作を始めた。

ゆづ葉さんが言う手順で検索をかけると



『え?、、、うそ、何これ。。』



小さい声でそう呟く彼女は何か見つけたみたいだ。



『あったみたいだね。そのアイコン何か知ってる?』



無言で首を振る彼女に真実を伝える。



『それ監視アプリだよ。

って私が言っても信用無いよね?

ネットで調べて確認してみて。すぐヒットするから。』



言われた通り調べると監視アプリだと分かったようで顔色が悪くなっていく。。



『誰がこんなことっ!!』



取り乱した彼女を落ち着かせるように背中を優しく撫でながらゆづ葉さんが口を開く。




『落ち着いて。率直に聞くよ。

アンロックした携帯を誰かに渡したことは無い?

もっと具体的に言うね。

金森久遠かなもりくおん″、いえ″リク″と言った方がいいかな?リクと言う人物に携帯を渡したことは無い?

理由は、、そう『俺の番号を入れるね』とかで。

もし有るなら、、、それが答えだよ。』



そうゆづ葉さんが言った瞬間、はっと息を呑む彼女。

リクと言うのは彼の愛称だ。親しい人にしか教えないと言っていた秘密の愛称。つまりこの愛称を知ってるのは付き合っていた私や彼と秘密を共有する彼女達だけだろう。


『リク』と言う名前が出た時点で彼女は理解してしまった。

親しいのは自分だけでは無かったと言う事実を。

そして打ちのめされてしまった。

深い親愛を向けていた居た人物に監視アプリを仕掛けられていたその事実に。


彼女は正気の無い虚な目をし蹲る。


ゆづ葉さんはそんな彼女のを包み込む様に抱き締める。



『ごめんね、こんな思いさせてしまって。

ーーー私は、金森久遠の事を探っているんだ。

だからきっと貴女にとって私は敵なのかも知れない。

それでも貴女に聞きたい。教えて欲しい。

金森久遠にどんなお願いをされ、どんな事をしてきたのかを。

これは貴女を利用する行為だ。そんな事をする私を蔑んでくれても構わない。

ーーーそれでも私は真実を知りたいんだ。』



真剣な眼差しを一身に受けた彼女は、ゆっくり視線を上げていきゆづ葉さんを直視する。すると強張っていた表情から力が抜けた。一度眼を瞑り再度開けた時には決意の篭った顔となった。


そして彼女は全てを話し出すーーー



『ーーーーこれが全てよ。

出るとこ出ても良いし、名前も出していいですから。

ーーーこんな風に真っ向から偽りの無い瞳、言葉を投げかけられるなんて初めてだった。おかげで気付けたわ。

リク、、いえ金森くんのなんの感情の無い瞳に。

そんなのに縋るなんて私寂しかったのね。自分自身を見てくれる人に飢えてた。

だからこそ、甘い言葉にまんまと乗せられてしまった。

ふふっ、目が覚めた今となってはあの人の言葉がどれだけ薄っぺらだったのか身に染みるわ。


多分私の他にもたくさん居るんでしょうね。

その子達を彼の呪縛から助けてあげて。

きっとあなたと話せば目を覚まして協力してくれるわ。』


その後自ら証言すると念書を作りそれをゆづ葉さんに渡した。



彼女が言った通りその後、聞く人全てが事実を語り協力を約束してくれた。



ちなみに今後の為にゆづ葉さんが協力者となった人達全員と連絡先を交換していたが、、、彼女達はみんな、番号が入った携帯を宝物の様に大事に握り締めていた。



回想おわり。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「本当にすごかったよ、はははっっ。」




苦笑いしながらそう言うミカさんだが、私はそう言われるような事は一切していない。

ただ真摯に向き合って彼女達に聞いただけだ。

その私に彼女達が応えてくれただけ。

凄いのは自ら呪縛を断ち切った彼女達だろう。





さぁそろそろ家に帰らなければならない。時計を確認しつつ今日を成果を振り返る。



監視アプリの痕跡と不正行為を大から小まで諸々。

今回の調査は本当に実りあるものだった。。

それもこれも全部ミカさんのおかげだろう。彼女が居なければ学校でしらみ潰しに一人一人聞くしか方法がなかったのだから。




「今日は本当にありがとう。ミカさんか居なかったら此処までの収穫は見込めなかった処か、彼女達にすら会えなかったと思う。

本当にどうお礼をしたらいいか、、、。」




「いいの、元々私から始まった事だから。迷惑をかけたのは私の方。

そしてありがとう。

私もだけど他の人達もあなたに救われたよ。

だからその証拠をどう使うかは全てゆづ葉に任せるよ。」




そう言って握手を求め右手が出てきた。私も右手を出し固く握り合う。




その後高速バスで帰宅する為ターミナルへ。


お別れを済ませ、また会う約束を取り付ける。もちろん証言をくれた人達とも約束した。

全て終わった暁には友人として会おうと。


バスに乗り込み窓から手を振ると最後に声がかかる。




「そうそう、あんまり山田さんを困らせちゃダメだよ?

周りへの態度をもう少し自重しないと拗ねちゃうからね。」




そう言われ意味が分からず首を傾げる私にミカさんが笑う。




「はははっ、そこがいい所なんだけどね!(私も好きよ。)」




「ありがとう。また今度。」




手振りながらバスに乗り込む。

すぐにドアが閉まり出発する。

夜には家に着くだろう。

暫し眠ろうとアイマスクを出していると


ヴーヴーヴー


バッグの中でバイブレーションが響く。携帯の画面を覗けば夕子から。

バス内のトイレに入り通話ボタンを押し、携帯から聞こえる音に耳を澄ます。



『はぁ、ゆづ葉、ゆ・ず・葉〜!!

そろそろ起きてよ!終わったから採点して~。』




電話の向こう側で夕子が物音と共にそう叫ぶ。それに合わせてセリフを紡ぐ。




「ふぁ~、そんな揺らさないでよ。起きたから。

はいはい、じゃあ採点しまーす。

それまでTV見て良いからね。」




『やった~!ゆっくりでよろしく~!』




ブツっと通話が切れる。




はぁ、とため息を吐き座席に戻った。


スマホを夕子に預けて家を後にしたのは良いが心配事が一つあった。

それはもしスマホから盗聴された時に二人の会話が無ければ不審に思われる事だ。


そこで受験勉強に目をつけた。

お互い黙々と問題をこなして行くと言う#体__てい__#で会話を最小限に止め、会話が必要なシーンは夕子が私の携帯(プリペイド式)へ電話を掛け会話をする。それをさりげなく私のスマホに聞こえるようにするのだ。


一見、誤魔化せるのか不安になる方法だが、単純なトリックだからこそ盲点になり得るのだ。

現に未だリクさんから探りが来て居ない。



このようなやり取りを繰り返しやっと地元に帰ってきた。


改札を出ると夕子からメールが届く。



『お腹空いたよ~。夕飯はまともなものが食べたい~(T . T)。』



ふっ、と吹き出してしまった。


本日我が家は両親二人とも泊まりの出張中。

その為家で一人留守番をする事になった夕子はお昼を自ら作る事になったのだ。


私が作って居る風に偽装しながら夕子が料理をして居たがなんせ料理の出来ない子である。

届いた料理画像は、、、なかなかに酷かった。



『今回は夕子にお世話になりっぱなしだったので夕飯は豪華にいたしましょう!』



そうメールを返し家路に着くのだった。


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