第34話



在来線、新幹線そして又在来線と電車を乗り継いで約三時間。

ようやくミカさんの地元の駅に辿り着いた。


待ち合わせまであと一時間程有るので近くの店で時間を潰そうとキョロキョロしていると背後から声が掛かった。




「あ、あの、、ゆづ葉さんですよね?」




聞き覚えの有る声だ。その声の持ち主の方に振り向くと、やはり思った通りそこにはミカさんが居た。




「ミカさん久しぶりだね、元気してた?

え、でも時間、、、もしかして私、待ち合わせ時間間違えてたかな?ごめんね。」




時間を間違える程余裕が無くなっていたのかとしっかりと謝罪する。

すると何故か泣きそうな表情のミカさん。




「ーー違う、、、違うの!!!時間じゃなく!!

っ!!う、うぅ、ごめんなさいーーー。」




となぜか謝罪に謝罪が返って来た。

訳が分からずあたふたして居たが、ミカさんの肩が震えているのに気付きそっとその肩に触れ声を掛ける。




「大丈夫だから。」




そしてそのまま近くのベンチに座らせる。

いくら私でも待ち合わせの時間だけでこんな風になるとは思っていない。

多分、ここに来た目的”リクさん“についてなのだろうと察する。




「ミカさんが謝る必要は全く無いんだよ。ーーーだから顔をあげて?

ミカさんの素敵な笑顔が見たいな。」




そう言ってからミカさんが落ち着くまで背中を撫で続けた。



しばらくして、、、落ち着いたのだろう。ミカさんはゆっくり私の方に顔を向けてくれた。目が赤くなっている。




「やっと可愛い顔を見せてくれたね。

まだ外で話すには暑い季節だから場所を移そう。いいかな?」




コクンと頷いてくれたので移動する。

二人でゆっくり話す為にカラオケボックスへと入る事にする。


角部屋へ案内され、ソファーに座り音響のボリュームをゼロにする。

幸い隣の部屋には誰もいないので落ち着いて話が出来そうだ。




「では改めて。

ミカさん、久しぶりだね。」




そう言うと今度はちゃんと返事を返してくれた。




「お久しぶりです。

ゆづ葉さんーーー髪型も服装も以前と違うから声を掛けるの少し、、躊躇っていたんだ。

変装それが必要な程の状況がひっ迫しているの?」



「まぁ、、アリバイ作りって感じかな?

っと、その話の前にミカさん監視アプリスマホは大丈夫なんだよね?」



小さな声で「うん」と返事をするミカさんは一瞬下を向いたが再び視線を合わせ話しだす。




「ゆづ葉さんから貰った手紙を読んだ後、携帯を調べたら、、、やっぱりあった。だからちゃんと削除したよ。

ーーーあの人を知って居るつもりで居て、実際は全然分かって無かったんだね。」




苦しそうな彼女に心が痛むが、現状を伝える事にする。

はぐらかす方が彼女にとっては辛いだろう。




「うん、、、じゃあ話を続けるね。

そう以前手紙に書いた通りスマホに監視アプリが入ってるから盗聴やGPS情報に細心の注意を払って居るんだ。

私があえてアプリを消さないのは油断させる為と逆に有利に動く為でもあるんだ。

いつでも情報を把握出来ると思っていればガードが緩くなるからね。


で、今日はここに来る為、自宅に友人を招いてスマホを預けて家を出たんだ。

だから私は今家に居ることになっている。

そんな私がもし外で目撃されたら不審だからこの変装って訳だよ。イメージ一新の大人なスーツ姿ね。

ふふっ一瞬分からなかったでしょ?


あっあと、手紙で書いた内容については話せないから、そこは筆談でよろしくね。」




鞄からノートとペンを出しテーブルに並べる。

それに戸惑いを見せるミカさん。



「スマホが無いなら別に話しても、、、。

彼は、、、約束を守る人では無いし。」




「ん?あぁ、確かにそうなんだけど、私が・・守りたいんだ。あちらと同じ事だけはしたくない。

で、その約束の範囲内でとことん抗って叩きのめしたいって言う、私の完全なる我儘だよ。

ーーーそれに、はじめさんに害をなす人は絶対許せないから。。」




『まぁその我儘に付き合わせる形となってしまったミカさんには本当に申し訳なく思ってるんだけど、、、』と続けるとミカさんは目を見開いた後に微笑んでくれる。




「ゆづ葉さんは、、、強いね。

ーーーうん、分かった。

私が今するべき事は、私達の問題に巻き込んでしまった事への謝罪じゃ無かったね。全面的にゆづ葉さんに協力するよ。


だから私の知りうるあの人の話を聞いて欲しい。」




そうして決意の篭った目に変わり、ミカさんは話し始める。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



その話を要約するとこんな感じだ。




大学時代、バイト先の塾で受付をしていたミカさんは塾講師の彼と出会った。


当時彼は4つ年上の23歳。塾講師の傍ら就職活動をしていたそうだ。

内定が決まっていた会社が突然倒産してしまった所に以前バイトで来ていた塾にスカウトされ来たと言っていたが、今じゃそれが本当かは謎だと言う。

ただ、当時のミカさんは


『親を安心させたい、だから諦めず就職活動してるんだ。』


そんな彼の親思いな所に惹かれ、そのままお付き合いをする事になった。


順調なお付き合いの中、結婚を意識しミカさんの親に挨拶する流れとなり、間も無く彼は両親に気に入られた。

彼が就職先に困っていることを知ったミカさんの父親は自身の友人の学校を紹介したそうだ。

教員免許も有り講師としての実績もある為即採用が決まったそうだが、そこから彼はミカさんの前だけ性格が変貌した。


学校の授業の資料作りをさせられたり、彼の部屋の掃除や食事作りを始め様々な家事を強要される。

断ればその都度、如何にミカさん自分が何も出来ない能無しなのかを永遠と語られたと言う。

最後には


『お前より従順で良くできる奴が学校には溢れて居るからな。役立たずのお前はせめて家事でもしていろ。』


と言われ、従っていたそうだ。



そんな中私との出会いで呪縛が解け此処に至るそうだ。





「多分、彼にとっての私の存在は就職斡旋業者や家政婦みたいな物だったんでしょうね。ーーー本当馬鹿よね。」




そう言葉を続けたミカさんはほんの少し悲しみを纏って居たが、以前よりも吹っ切れているように見えた。

ちゃんと過去の事だと分別できている。




「その後父は彼の素行について友人に、彼を採用した理事に全て話したの。

『しっかりと確認もせず紹介してしまい申し訳なかった。』って。

するとその方は学校内でも不審な点が前々から有ったのだと言ったそうよ。

なんでも、配られる資料に統一性が無かったり、提出書類の筆跡が違ったり、校内の評判は良いのに何故か研修会では散々なものばかりだったと。

そこで彼を問い詰めたけどのらりくらりとかわされたそうよ。

彼の身辺も調査したけど、、、親しそうな人はみんな口を噤んでしまって進展は無し。

そして調査に進展がありそうになると何故か話が立ち消えてしまっていた。

彼のプライベートの醜聞だけではどうにもできない、そう困り果てていたそんな時、ある学校から声が掛かり彼の異動が決まった。

一応引き抜きと言う形でね。

父の友人は彼の『人柄』と『疑惑』をちゃんと話したらしいけど『平気平気、こっちで面倒見るから。来る者拒まずだよ。』と。

ーーーまさかその学校にゆづ葉さんが居るとは思わなかった。」




その軽いノリで引き受けたのは多分うちの理事長だろう。

理事長は良くそう言って優しく微笑む人物で皆んなに慕われている。




「なるほど、そんな経緯でうちに来たんだね。うちの学校に来たのは偶然でも、数多くの『疑惑』が生まれたのは偶然じゃない。

そこを詳しく調べれば色々出て来そうだね。

まずあの人が言っていたという『従順で良くできる奴』をその学校で探そうかな。

あと条件を加えるなら『か弱い女性』ってとこ。以前ポロっと口にしてたからね。」




そう私がこれからの行動を話していると彼女は一枚の紙を取り出した。そこにはいくつか女性の名前が書かれている。




「これをあげる。彼と親しかった人の一覧よ。

私、実はあの学校の事務で働いているの。

ーーーだから彼のことも彼女達の事も良く知ってる。見ないフリしていたんだ。」




ミカさんがあの人と同じ学校に勤めて居た事にも驚いたが、何よりあの人と親しい人の目星が付いてることに驚いた。

私が驚愕していると




「言ったでしょ、私は家政婦の様なものだって。

だから彼は全く気にせずいろんな女性と親しくしていたの。

そんな彼の眼中に無いが彼の彼女だなんて誰も気付かないから、私の所にも噂がどんどん入って来たのよ。

ふふっ、皮肉な事にそのお陰でゆづ葉さんの力になれそうで嬉しいわ。」




そう微笑えむ彼女は先程までの消え入りそうな姿とは違い、力強い光を放っていた。




「やっぱりミカさんは『強い』人だよ。

私が男なら完全に惚れてるなぁ。」




「あらっ、女でも惚れて欲しいわ。」




と悪戯っぽく微笑むミカさんと目が合い、二人で思いっきり笑った。



その後お礼を言って名簿を貰おうとすると、ミカさんは紙から手を離さなかった。

どうしたんだろう?と首を傾げると




「実は今日、文化祭の準備で殆どの人が学校に来て居るの。

事務員は休みなんだけど忘れ物しちゃったのよね。

ーーー独りで行くのって意外に勇気居るのよ?だから付き合ってくれない?」




そんなミカさんのお誘いを断るなんて出来ない。

本当に敵わないなぁ。




「はい、喜んでお供します。」




そう言ってミカさんの手を取りエスコートしながらカラオケボックスを後にした。

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