第36話




更に二週間弱が過ぎ、リクさんの条件を呑んでからそろそろ一ヶ月が過ぎようとしている。



この間も前の二週間同様、リクさんの指示に従って行動して居た。

そしてその最中、私はある二つの噂の対象となった。



昼食後、一人ふらふら校内を歩いている。

すると周りは私を遠巻きにしながらコソコソ何か囁き合っている。


いつもの遠巻き状態に拍車がかかり更に皆んなとの距離が遠ざかったなぁと改めて実感する。


そうそう、どんな噂かと言うと、、、ほら、耳を澄ませれば微かに聞こえてくる彼女達の声。




(ゆづ葉お姉様、金森先生とどう言う関係なんだろ?)



(毎朝二人は密会を繰り返してるって。見た子が居るんだって。)



(えーー!!あっそう言えば夕子お姉様とゆづ葉お姉様が金森先生の為に疎遠になってるって聞いた。)



(結構深刻みたいで、、、酷いよね。)




そう、私には金森先生との″密会″と男女関係のもつれによる夕子との″疎遠″という二つの噂があるのだ。

どちらもキーパーソンにイケメン新任教師の金森先生が絡んでいることで特に騒がしくなって居るようだ。



まあ実際、密会はして居るし夕子ともそれぞれやるべき事がある為ずっと別行動をして居るのでそんな噂が立っても仕方がないだろう。

敢えて噂を野放しにしているので、余計周りの想像力が掻き立てられ面白可笑しく話が膨らんでいるが気にする事は無い。



そんなことより気になるのははじめさんだ。


完全にはじめさん充電が切れた私は既に何度か発狂しそうになっていたがーーー、いや実際発狂して不審人物よろしく、朝の街をジョギングと称し無心で駆け回って居たわけだが、、。

こんな私が言うのも気が引けるが、どうにもはじめさんも行動が奇妙なのだ。


私が花壇に行けなくなってからは、リクさんを意識し話す事も極力控え、一切連絡も取らないようにしていた。

最初のうちははじめさんもそれに合わせ教師としてしか接しないよう気をつけてくれていたのだが、いつの頃からか人気のない廊下や空き教室に居ると


『本郷!』


と突然呼び止められるように。

私が振り向き何ですか?と尋ねれば


『ーーー何でもない。』


と去って行くという流れが出来た。


そして登下校時、大きな見慣れた影が時々視界に映って居た。

不快感は微塵も無い。寧ろ姿が見られて幸せな気持ちになったがその謎な行動に疑問が残った。



そんな風に考え事をしながら廊下を歩いて居ると、学年主任から声が掛かった。




「本郷さん、放課後校長室に行きなさい。

校長が君に聞きたいことがあるそうだ。どんな話しかは察しがついて居るだろう?

その為だけに本日はずっと学校に滞在して居るそうだから、ちゃんと行くんだよ。分かったかね?」



なるほど。例の・・噂の真偽を確かめるのだろう。いずれこうなるだろうと思って居た。というかまさに今がベストなタイミングだ。




「はい、分かりました。」




そう言い頭を下げると学年主任は去って行った。

その後教室に戻り今後の予定を整理しながら鞄の中の封筒を手にする。

覚悟は決まっている。


五時限目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。終わりの挨拶と共に教室を後にする。

向かうは校長室。



さぁ、校長先生と話をしよう。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




コンッコンッ。


校長室のドアを叩き自分の名前を告げる。




「はい、どうぞお入りください。」




入室の許可を得て失礼しますとドアを開け入ってくる。その人物は目の前の私に笑顔で話しかける。




「あっ、本郷さんも呼ばれて居たんですね、こんにちは。


校長先生もお疲れ様です。

さて、なぜ呼ばれたか私には皆目検討がつかないのですが、、校長。」




そう言い苦笑いを浮かべながら私の隣にくるのはリクさん。

一瞬視線が合ったかと思えば『余計な事を言うな』と目で訴え掛けてくる。

私は笑顔で会釈し、居住まいを正し再び校長先生と向かい合う。




「さて、揃いましたね。

金森先生に本郷さん。お二人を呼んだのは他でも無い。

今校内で騒がれて居るある噂がありましてね、それにお二人の名前が出て居ましたので少々お話を聞きたくてね。

噂はご存知ですか?」




リクさんが一歩踏み込み大袈裟な身振りで肯定する。




「ええ、知っています。でも何故このような噂が立ったのか全く分からず困惑しています。

本郷さんとは挨拶を交わす程度でしかお互い認識はありませんし、、、どうしたものか。

本郷さんもそうは思わないかい?

勝手な事を言われて困るよね?」




私に意見を聞いている様に見えてはいるがその実、私がリクさんの意見に否定し辛くなるように問いかけて来る所がリクさんらしい狡猾さがある。

その言葉に内心ため息をしつつ頷く。




「はい、そうですね。大変迷惑して居ます。」




私の言葉に満足し表情が緩むリクさんをみて更に言葉を続ける。




「そう、迷惑。

金森先生が勝手に嘘をツラツラ語るのにもううんざりしてます。」





そんな本音はっきりを言えば、リクさんはポカンと間抜けな顔をしたかと思うと一瞬で表情が歪む。




「本郷さん!何を言って居るんだい?!先生を嘘吐き呼ばわりとは頂けない!

根も葉もない噂を否定して、救いの手を差し伸べた私にそんな風な言葉の暴力を言うなんて、、、はぁ、悲しいな。」




手を額に当てながら悲しいと言うその目は鋭く私を睨み付ける。




「ーーー因みにその噂とはどんなものでした?」




私が噂について問い掛ければリクさんは訝し気な表情をしながらも答えてくれる。




「″私と本郷さんが毎日逢瀬を繰り返し愛を育んでいる。″と。」




「いえ、それは違いますね。」




「なら、噂を否定すべきだろう!なぜ君は私を嘘吐きよばわりーーー」




「いえ、違うと言ったのは先生が語った噂自体・・です。そうですよね、校長先生?」




すると今まで黙って事の流れを見て居た校長先生が口を開ける。




「金森先生は何か誤解をして居るようですね。

今校内中を駆け巡って居る噂とはーーー″金森先生が本郷さん弱みを握り、その弱みにつけ込んで、無理矢理化学準備室に呼び出し彼女を意のままに扱っている″と言った酷いものです。

だからお二人をお呼びしたのですが?

ーーーいかがしましたか?金森先生。」




校長先生から噂の内容を聞き動揺して居るのだろう。顔色が悪い。




「金森先生大丈夫ですか?顔色悪いですが。

じゃあ私が代わりに噂の真偽を話しますね。


噂は真実です。私はーー」




「本郷さん!!!」



私が話そうとすると名前を呼び言葉を遮る。リクさんはそのまま主導権の交代を目論むも、校長が「少し静かにしてくださいね。金森先生」と冷気を纏った笑顔で一声あげれば押し黙った。




「では、改めましてお話します。ーーー」




そうしてはじめさんの名前を伏せ、始業式から今までの事を事細かく話した。

付け回され、脅され、口止めされ、卒業まで言うことを聞けと言われた事を全て。



「ーーーというのが真相です。

分かっていただけましたか?」




「ふむ、なるほどねぇ。これが真実なら学校としてはこの問題を看過できないが、、、片方の言い分だけで鵜呑みにはできないからね。

金森先生、君の言い分を聞かせて貰えるかな?」




校長先生は平等で公正な人だった。

しっかり相手側の話も聞くとリクさんに告げた。

するとさっきまでの余裕が無いリクさんの態度が一変、教師金森の仮面を付け直した。




「ありがとうございます。流石校長先生ですね。偉大な方だ。

では、私が真実を・・・・・話させて頂きます。」




そう言ってリクさんはここぞとばかりに饒舌に語りだしたのだった。




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