第25話
夏休みも中盤、お盆の時期になった。
本日は日課の朝食作りの前にやることがある。
キッチンへ向かい持参したきゅうりと茄子と割り箸を取り出し組み立てる。
そして完成したら仏間へと行く。
お仏壇へいつものお鉢(仏飯)に加え、先程作った
ロウソクに火を灯し遺影を綺麗にふく。
そこには仲良く笑顔を向けるはじめさんのご両親。
はじめさんはお父さん似、咲さんはお母さん似だと一目でわかる。
手を合わせ挨拶をしていると、隣にはじめさんが座り同じく手を合わせる。
「毎日ありがとうな。両親もきっと喜んでくれているよ。
精霊馬か、もうそんな時期なんだな。
今年は結城の不格好な精霊馬じゃ無いから二人ともすぐ帰って来そうだ。
はじめさんはクスッと笑った後、目を細め思い出す様に話し出した。
「ーーー昔、精霊馬作りは俺の担当だった。
初めての精霊馬作りの時、俺はきゅうりの馬だけしか作らなかったんだ。
そんな俺に姉さんが困った顔をしていたのを思い出す。」
昔を懐かしむように精霊馬を見つめるはじめさん。
きゅうりは先祖や故人を迎える馬、茄子は送り出す牛。
ご両親にいつまでもそばにいて欲しいという気持ちの表れだったのだろう。
「ふっ、あの頃牛が居なきゃ帰れない、見えなくてもずっとウチに居てくれるんだと思ってたんだ。
だが茄子の牛は『牛に乗ってゆっくりと、少しでも長くこの世にいて欲しい』って願いを込めた物だと聞いて慌てて作ったよ。
『両親に牛さえ用意せず、さっさと歩いて帰れって俺が思ってるって誤解されたらどうしよう』って。ははっ我ながらガキだな。」
はじめさんは笑って話しているが、その時のはじめさんの心境を思うと心が痛む。
そんな気持ちを読み取ったのであろう、はじめさんが私の頭を撫でながら話す。
「そんな顔するな。
確かにその頃両親が居なくなって寂しい気持ちだった事は否定しない。
だが、今こうして当時の事を笑顔で語れるのは姉さんが居て結城が居てそしてゆづ葉、お前がそばに居て笑顔をくれるおかげなんだ。」
そう言い優しい笑顔を見せてくれた。
自分の存在をそんな風に思ってくれていることに心が温かくなる。
私はこんな温かな気持ちをはじめさんに少しでも返せているのかな?
そう尋ねると
「バカが。返すも何も俺のが一方的に貰っている気がしている。
ーーーゆづ葉はそのままで居てくれるだけで俺は幸せだ。」
見つめ合いそのまま自然とお互いの顔が近付いて行く。
そこで待ったを掛けたのはもう一人の家主の咲お姉ちゃんだ。
「あらあら、はじめも言うようになったわね、しかもお父さん達の目の前で。
きっとゆづ葉が供えてくれた馬に早速乗ってあなた達のこと間近で見てるわよ。」
揶揄うように言われ
「「あっ!」」
と同時に声を発し、仏前だと思い出す。
お互いを見ながら苦笑いし、前に向き直りご両親の遺影に謝った。
その時にロウソクの火が大きく揺れた。
遺影の中のお二人はそのロウソクの揺らぎで一瞬ウィンクしたように見えたのはーーー気のせいじゃないと思う。
そんな事がありつつ朝食の時間になった。
家族で楽しい食卓を囲んでいると、咲お姉ちゃんが私に声を掛ける。
「ゆづ葉はお盆はどうするの?
確か毎年一葉さんのご実家の方に帰省しているんでしょ?私が聞いた時点ではまだ決めかねてるって聞いたんだけど。」
一葉さんとは私の母のことだ。
既に母さん経由で帰省の話が咲お姉ちゃんに行っているようだ。
「今年は受験生と言うことで私は家に残ることにしました。
まあ本当は受験に支障は無いんですが、祖父母宅は遠いですし、、何よりはじめさんと離れたく無くて。」
チラッとはじめさんを見る。
目が合いキョトンとした後、箸からポロッと漬物を落とした。
そしてソッポを向くと口を押さえ
「そ、そうか。」
と少し吃りながら言う。
「うふふふっ、嬉しそうね、はじめ。
じゃあそう言う事なら、ご両親がいない間ははじめが本郷家へお世話になりに行きなさい。
ゆづ葉一人で家にいるのは心配だもの。」
なんと!はじめさんが家へお泊まり!
そう言ってくれるのはありがたい。ありがたいけど、はじめさんが了承してくれるかどうかが問題だ。
はじめさんを見るとーー案の定、渋っている様子だ。
「ゆづ葉を一人にするのは絶対反対だが、俺が本郷家に行くのは、、、ちょっと。。二人っきりだと、、もし何かあったら。。
うちにゆづ葉を泊らせるのはダメなのか?」
「うちに泊まりにきても良いんだけどーーー、最近空き巣被害が多いでしょ?
数日間家を空けるという行為に不安があるのよね。
その点ウチは真向かいが交番だし、その署員さんはうちの事情を知っている顔馴染みだからそこまで心配して無いんだけど。」
あれ?先日はじめさんが居なく二人では不安ではと本郷家へ泊まりに来ていたけど、、、っと思ったが空気を読んで口にしなかった。
未だはじめさんが難しい顔で悩んでいると横から声が掛かる。結城ちゃんだ。
「はーい、私にいいアイディアがありまーす。
お兄ちゃんはゆづ葉お姉様と二人っきりが不味いって事だよね?
だったらゆづ葉お姉様のお宅に夕子お姉様も泊まれば問題ないと思うの!!
どう?」
結城ちゃんの発言に夕子が登場し驚いた。へぇ繋がりがあったんだ。
意外な交友関係に驚きはしたものの、『お姉様』呼びをしているので夕子が慕われているのだと伝わってくる。
「足立か、、、。足立がいれば確実に(理性は保たれるし)大丈夫だな。
まあ俺はそれで良いが、まずは足立の都合を聞かないといかんだろ。
ゆづ葉、足立にーー」
「わたしが今連絡入れたよー、二つ返事でOK貰った⭐︎」
はじめさんの言葉を遮り結城ちゃんが既に夕子から了承をもらった事を伝えた。
仕事の早い結城ちゃんに感心する。
「結城ちゃん、夕子と仲が良いの?
あの子なかなか自分の連絡先教えないのに、すごいね。」
そう素直に思ったことを口にすると結城ちゃんが早口で答える。
「な、仲が良いと言うか、連絡は規そ、いえいえ、はい仲良しです!
たまたま私の事を(お兄ちゃん担当諜報員として)気に入ってくれたらしく、連絡ヲ取リ合っテルンデスヨー。」
なんかかなりテンパっているけど、
ーーー夕子に仲が良い友人が出来た事に安堵した。
気難しい所もあるけれど、深く接するととても優しい性格なのだ。
そんなあの子の魅力に気付いてくれ、友人ができた事が嬉しい。
《本当は心を許す相手が私だけじゃない事に少し嫉妬しそうになるけどね》
この仄暗い本音は私の心の中だけに止めておく。
「で、話はまとまったんだよね?
はじめもそれで良いかしら?」
「あぁ、大丈夫だ。
ーーでも心配だからこっちにも顔出すからな。」
はじめさんも了承した。
家族思いのはじめさんはやはり咲お姉ちゃん達を心配しているようで、その優しさにより一層愛しさが増す。
『この愛情深さが好きだ。』
と改めて感じた。
1人温かい気持ちになってる中話は進んで行く。
「まぁ実を言うとこうなるだろうと元々はじめがゆづ葉の家に泊まる方向で一葉さんと話しを進めてたんだけどね。
夕子ちゃんだっけ?その子が追加されるのも一葉さんは予期してたよ、ふふっ。」
さらっと怖い事を言う咲お姉ちゃんにタジタジになる。
一生両親や咲お姉ちゃんに敵う気がしない。
こうして急遽、本郷家お泊まり会が開催される事となった。
期間は明後日から3日間。
メンバーは私、夕子にはじめさん。
大好きな二人となら楽しい日々を過ごせそうだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
???
Prrrrrrrrrr....... カチャッ
「良くお泊まりイベント教えてくれたわ、素晴らしい!ありがと!!」
私は興奮気味にお礼を述べる。
『わたし良い仕事しましたよね!!』
電話の向こうでもあの子は興奮しているようだ。
これはあれだ、ご褒美を期待してるな。
「ええ、そうね。ご褒美は何が良いの?」
どうせゆづ葉のプライベート写真だろうと予測するも
「お二人のパジャマ姿ツーショット永久保存版!!!」
意外な言葉に聞き返す。
「え?二人?ゆづ葉だけじゃなくて?」
「はいお二人で!!
できれば寝顔だと嬉しいです!」
いやいやいや、私まで寝たら誰が写真撮るの。この子ハイになり過ぎておかしくなってない?
呆れた口調で言葉を返す。
「二人の寝顔なんてどうやって撮るのよ。」
「あっ、兄に!!」
「、、、盗撮教師で訴える。。」
「そんなーー。」
この子は、、。なんかゆづ葉以上に疲れる。。
「はあ、、ツーショットだけは撮るから我慢しなさい。」
そう言って電話を切った。
ゆづ葉以外の他人なんて使うか使われるかの存在だったけど、、、
「ふふっ、あの子
そう呟いた後、明後日のお泊まりに心弾ませる。
『山田のヤツどうしてくれよう。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます