第24話




「うわぁ、すごい、、、硬い、バキバキ。。

はじめさん、こんな状態になるまで放って置くなんて。

言ってくれれば私がしてあげたのに。。

さあ早くベットに座って。それとも横になる?」




「あ、いやこんなの、大丈夫だ。自分でーー」




「ダーメ。ふふ、捕まえた。

う、やっぱり硬いっ!それに、はじめさん大きくて、力が、、入らない。やっぱり横になって。そうすればいけるよ。

ぐっ、うっ、うっ。

ーーーどう?気持ちいい??」



「き、気持ち良いんだが、、もうこれ以上は!」




逃げようとするはじめさんを捕まえ組み伏せる。




「大丈夫、私に身を任せて。

ほらっ!ほらっ!ーーどう??」




そして更に巧みに手を動かした。




「うぅ、、もうダメだ!耐えられない!!!」




そう言ってはじめさんは顔を枕に押し付け足をバタつかせ悶えている。


私はそんな姿を愛でながらマッサージを続ける。



「ね?私上手いでしょ?

みんな『すごいっ!』って言ってくれるんだよ。

でも今までマッサージした中ではじめさんはダントツに苦戦したよー。

肩こり酷くてバッキバキだし、上背があるから座った状態じゃ力入らないし。

でもこのうつ伏せ状態なら隅々まで解せるよ。」




身体を触ってみて気付いたがこれは相当疲れが溜まっている。

肩甲骨付近のツボをじわじわ刺激する。

強くし押し過ぎると揉み返しが来るから力加減が難しい。




「はぁ、はぁ、、気持ちいいが、は、恥ずかしい。。

ゆづ葉がマッサージが得意なのは分かっが、言葉の選択が、その、、びっ微妙なんだ。


ーーいやそれより、『みんな』って誰が含まれる?

もしかしてその中に『男』はいないだろうな?」




後半になるに連れて声トーンが下がる。

うつ伏せの為表情が見えないが、機嫌が悪い気がする。

もしかして全く匂わせて無いけど、見えない『男』の影に嫉妬してくれている?とか。




「大丈夫、両親と田舎の祖父母、それに夕子だけだよ。

夕子が『絶対他の人にやっちゃ駄目だよ~。あんたのマッサージは凄すぎる・・・・から。親友の私か家族だけにして~。』って言うからさ。

ふふっ、『他はダメ』だって。夕子ったら甘えん坊だよね。」




当時の夕子の顔を思い出しながら話す。

いつも通りの口調だったのに有無を言わせないような目力だった。

独占欲かな?って揶揄うとすごい冷気飛ばしてたな。




「あぁ、そうだな確かに凄すぎる・・・・。身体にも精神にもガツンとくる。

足立の言う通り、他ではやるなよ。

ーー俺にマッサージしたと聞いたら足立が怒り狂いそうだな。」




ブルッと身震いするはじめさん。

確かに夕子との約束を破ってしまったが、本日の私達は夫婦(仮)。家族枠適用で許されるはずだ。うん。


私も背筋に冷たいものを感じ身震いしたがそれを振り払い無心でマッサージを続けた。

気付けばピクリとも動かないはじめさんがいた。

顔を覗き込むと無防備な顔で寝息を立てていた。

シーツを掛け、軽く頭を撫でる。


日頃の激務に長距離運転。

そしてデート中に心配を掛けたその心労でとうとう限界が来たのだろう。

このまま寝かせてあげようと静かにベットから降りた。


時計を見るともうすぐ21時だ。

寝る支度をしよう。


昼のお弁当箱を軽く洗ったあとシャワーを浴びにバスルームへ。



シャワーを浴びながら今日の事を思い出す。

デートは中途半端になってしまったが、ミカさんと出会うことができた。

辛いこともあっただろうに、それに負けず、強くあろうとした彼女の笑顔は素敵だった。

私もそうありたいと思った。

彼女の様にこの先何があったとしても笑顔で乗り越えられる自分でありたいと。




就寝支度完了。

さあ寝ようとベットに入る。

はじめさんの頬におやすみのキスをしようと近づけば、突然目が開きこちらを見つめる。だがその瞳は虚ろだ。多分寝ぼけているのだろう。

無言で私へと手を伸ばしてきた。そしてそのまま私を抱え込むと一言、



「おやすみ」



という言葉と共に寝息が聞こえ始める。



夏休み初日もこんなことあったな。

はじめさんは寝ぼけると人恋しくなる体質のようだ。

こんながっちり抱え込まれたらいたずらも出来やしないと観念し、大人しく寝ることにする。

はじめさんの匂いに包まれて目を瞑ると、心地良くなりすぐに意識を手放したのだっだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



翌朝早朝。



ビクッという振動で目が覚めた。

ワサワサした手触りのモノを抱えてる状態だった。温かくて気持ちいい。

なでなでしていると、ぼやけた視界がはっきりして来た。

そう私が抱えていたのははじめさんの頭だった。



夜と逆転した形になっていた事に驚いたものの、この幸せな状態を堪能するべく更にはじめさんの頭を抱えこむ。





「待て待て!だめだ!!起きたんだろ?!離れてくれ!

かっかっ、顔が埋もれる!!!!?」




「あっ、起きちゃった?

おはよう。抱き締めて眠るってこんなに気持ちいいんだね。癖になりそう。

あっ、言っておくけどはじめさんが先に私を抱き締めて眠ったんだからね。

だから苦情は受け付けないよ?」




はじめさんの顔の位置までモゾモゾ下がりつつ、クレームを回避するため先手を打つ。

実際、はじめさんが抱え込まなかったら大人しく離れて寝るつもりだったのだ。



はじめさんは私を直視せずそっぽを向いて話し出す。




「すまない。また寝ぼけてやってしまったのか。寝ぼけると、、自分をさらけ出してしまうのかもな。

ーーって、いやそれより、ゆづ葉、着替えてくれないか。Tシャツ一枚は不味い。。」




自身の格好を見返す。

ダボダボの大きめのTシャツのせいで下の短パンが見えていない。

下を履いていないと勘違いがないようバッとめくって履いている事を強調した。



「ほら見て!ちゃんと短パン履いてるよ?」



一瞬コチラを見たかと思ったら勢い良く横を向くはじめさん。




「やめろ、見せるな!分かったから!!下げろ!

ーー俺を弄ばないでくれ。。」




そんつもりは無いんだけど、うーーん難しいな。




「そうじゃない。

下じゃなく、上。。それ一枚だよな?!

むっ、むね、いやいや、体型が、、丸分かりだ、ぞ。」




「ん?あぁ、胸ね。でも寝る時だしブラ着けて寝ないから普通でしょ?

え?私だけ??」




「知らん!!!だが、男女でベットに居るんだ、服装に気をつけて節度を、、」




「男女がしかも恋人同士がベットにいるんだよ?節度も何も。ーー寧ろ裸が正しくない?」




「正しくなーーーーい!!!」




これは後日アンケートを取らないといけない案件だ。

まずは夕子に聞いてみようと決めたのだった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



この後、再び動物園へ行き昨日出来なかった動物達とのふれあいをしたり、約束した下りSAサービスエリアのメロンパンを食べたりとデートの続きを楽むことになった。



「まさか初デートが一泊二日のお泊まりデートになるとは思わなかったけど充実した時間が過ごせたね!」



「あぁ、そうだな。」




夜20時、私の自宅の玄関前。

まだ離れるのが名残り惜しくてはじめさんを連れて来た。

と言っても最後に私の両親へ挨拶をしたいとはじめさんが言ったので同意の元だ。



ガチャッ。



「ただいまー。」

「ただいま戻りました。」



私が玄関の扉を開けリビングに聞こえる様に二人で声を掛けた。



「「「「おかえりなさーい。」」」」 



リビングから声が聞こえパタパタと足音が聞こえた。



ん?今複数の声が聞こえなかったか?


何かおかしくないかとはじめさんを見ると私と同じように″?″が頭に浮かんでいて私と顔を見合わせて首を傾げている。



だが玄関先に現れたのは両親だけだった。



「はいはい、お疲れ様ね。はじめさんもありがとうね。ゆづ葉は迷惑かけなかったかしら?」



「いえ、そんな事は。いえ、それよりも大事なお嬢さんを外泊させる事になり誠にも「もういいから〜、さぁ折角だし入って入って〜。」」



母さんははじめさんの言葉を遮りはじめさんを囃し立てるようにリビングへ押していく。

隣に居た父さんは母さんの強引さに苦笑いしていたが止めもせず、私も直ぐにリビングへ向かうように促してきた。


何かあるなと訝しげにリビングへ入るとそこには咲お姉ちゃんと結城ちゃんがソファーで寛いでいた。



「複数の声の正体は姉さん達だったか!

なんで二人共居るんだ!?」



「二人共おかえり〜。へへっ、はじめ驚いてるわね?

実は私達もお泊まりだったの〜ふふふっ。

『女性二人じゃ不安でしょうし宜しければ家へ来てね!』ってゆづ葉のお母さんがいってくれたからね、来ちゃった⭐︎

あっ、ちなみにゆづ葉に連絡先教えて貰って前々からご両親とは連絡は取り合ってたのよ。

大事な一人娘さんだもの、ちゃんとしないとね?」



はじめさんが話し出す前にポンポンと新事実が飛び出し口をパクパクさせている。



あらら、はじめさん知らなかったんだ。

私は連絡先を教えた手前連絡を取り合っていた事を知っていたけどね。

まぁ今回二人がお泊まりに来ていた事は知らなかったが二人の心配をしてくれた両親には感謝だ。私も少し不安だったから。



「父さん、母さん二人の事ありがとう。

あと、咲お姉ちゃんも結城ちゃんもはじめさんを独占してしまってごめんなさい。」



頭を下げ謝ると先お姉ちゃんは全く気にして居ないとばかりに手を左右に振っている。



「いいのよ、ゆづ葉。一葉さん達といっぱい話せてとても満足しているの。

色々(結婚)話も進められたしね♪

結城も満足よね?」



結城ちゃんの方を向けばあらぬ方向を見ながらニヨニヨと口元が緩んでいた。

ぶつぶつ何かを呟いているようだが、この様子からこの二日間は良いものだったのが伺える。




「(うふふっゆづ葉お姉様の家にお泊まりしてご両親とショッピング!!しかも家宝にも等しいアルバムを見られるなんて、、、はぁチビゆづ葉お姉様〜可愛かった〜⭐︎

最高の夏休み〜♪はじめ兄ありがとう〜。ふふふふふふっ。)」




『あぁ、良かった。』


二人の様子に安心し隣のはじめさんを見る。

なぜが未だ口をパクパクして固まっている。

うん、まだ話についていけてないようだ。

目線を再びソファーに向けると咲お姉ちゃんといつの間にかソファーにならんで座っていた母さんがニヤリと口の端を上げた。



「「さぁ、二日間の話をじっくり聞きましょうか。」」



母さんと咲お姉ちゃんの声が重なる。

息ぴったりな様でーーーはははっ。

まぁデートの事を話すだけだし満足するまでたっぷり付き合いましょう。



この夜、「「きゃー、きゃー♪」」と女子会は大盛り上がりをみせた。


そんな中はじめさんはなぜか項垂れていた。

そんな彼に父さんは肩にポンっと手を置き『まぁ頑張れ』と憐れみの眼差しを向けていた。



と、まぁ、こんな感じで無事?初デートを終えたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




そうそう後日。


夕子にはじめさんと口論した

『ブラを着けて寝るか?』

『男女同じベットで寝る時は節度ある格好は必要であるか』

を聞いてみるとーー




「ゆづ葉、、、そんな事より、、まず山田、センセイとそんな会話をした経緯を洗いざらい事細かに話しなさい。」



有無を言わせない圧が夕子から発せられ、私は無意識に正座した。

そして初デートの出来事を全て話した後ーーー



永く、永遠とも思える説教を頂いた。。。




調子に乗ってすいませんでした!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る