第23話




という事で当然、車中泊かホテルで一泊かの選択になるのだが、、、。



その前にまずはこの状況を両親に連絡しないとと携帯を手に取る。

通話ボタンをタップする直前、ふと朝母さんに渡されたトートバッグを思い出した。


確か


『多分役に立つはずだから。

開けるのは帰りが遅くなりそうになってからにしなさいね。』


と今の状況を予期したかのように渡された物だ。


トランクに入れてもらっていたバッグを出し中を探る。

すると着替え、パジャマ一式に歯ブラシ、コスメ関連、ご丁寧に携帯の充電ケーブルまで。


何故こんな物が?!

そう思っていると一枚のメモが出てきた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ゆづ葉へ



今日は泊まってきなさい。

咲さんに聞いたんだけどはじめさん、相当疲れが溜まっている様子で長距離運転心配なんだって。

だから帰りにダウンするだろうから泊まるよう伝えてって。


はじめさんに言うと反対するだろうから何も言わずに居ました。

はじめさんの着替え類も咲さんが車に忍ばせてるから使ってね!

○×○Hotelっていうシティホテル『山田』で予約したからチェックインよろしく~⭐︎




追伸


孫も有りです♪


           

                母


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





やってくれたね、、、、二人共。

というか二人繋がってたんだね。これは私たちの事筒抜けの予感しかしない。


『孫も有り』か。私は全然構わないけどはじめさんは卒業までだめだろうな。



っと、今はそれは置いといて、現在の状況からこれはありがたかった。


はじめさんに母さんからの手紙を見せる。

もちろん『孫』部分はさり気なく指で隠した。これ以上はじめさんを疲れさせたく無いしね。

すると




「はぁっ?!姉さん、そんなこと一言もっ!!」




そう言った後、慌てて車内を探すと咲さんが隠したと思われるお泊まりセット一式を発見した。




丁度その時二人同時にメールが来た。

私は母から。

はじめさんは咲お姉ちゃんから。



『そろそろバッグ見た頃?

二人でゆっくりして来なよ~⭐︎


PS.本当は旅館にしたかったんだけど無理だったのごめんね(>人<;)』




咲お姉ちゃん

『無理するなって言ってたの身に染みた?

一葉さんの手紙見たでしょ?

そういう事だから大事な彼女の為にちゃんとお泊まりするのよ♪

どうせ明日も休みなんだからゆっくりしてきなさいな。』




同時にメール、、これ絶対二人で居るパターンだよね!?

横を見るとガックリ頭を垂れるはじめさん。

私は項垂れるその頭を撫でつつ




「さあ少し休憩したらホテルに行きましょ。調べたらここから10分程みたい。

ーーーなんか掌の上で転がされてる気がするけど、、、気にしない気にしない。家族公認のお泊まりなんだからのんびりしよ?」




ピンポイントの位置で用意されたホテルに、タイミングを見計らったかの様にきたメール。もう苦笑いしか出てこない。

何処まで私たちの行動を読んでいたんだろうと若干恐怖すら感じる。



それぞれに了承、そしてお礼のメールを返信後はじめさんがポツリと口に出す。




「ーーー部屋、二つ取ってると思うか?」




答えが分かっててあえて聞いているのだろう。

だから正直に答える。




「いや、それは絶対無いと思う。」




ここまで用意周到に準備していて、あえて二部屋取っているとは考えられない。

何よりあの二人は私たちの反応を楽しんでいる。


はじめさんが頭を抱え出す。




「だよな!?はぁ~。。

ーーよし、じゃあ俺は車中泊するからゆづ葉はホテルに泊まれ。」




そう言うと思った。

はじめさんらしい選択に私は首を横に振る。



「はじめさん、、、。私が絶対了承しないの分かって言ってるよね?

車中泊じゃ疲れは取れないよ。

何より一緒に来ていて別々に泊まるなんて寂しい事言わないで欲しい。

私、何もしないから、、ね?一緒に泊まろう?」




諭すような言い回しをしはじめさんの服の裾を掴む。




「うっ!

ーーーいいか言っておくが、ゆづ葉と一緒に居たくない訳ではない。

俺はお前を大事にしたいんだ。卒業を待って、堂々と関係を公に出来るまでは健全で居たい。

だが、ゆづ葉を前にするといつ理性のタガが外れるか不安で仕方がない。

だからーーー」




意識してくれてるのは嬉しいが、このままでは埒があかない。




「ふーん。

つまりはじめさんは意思が弱いから、私が寂しいって言っても、自分の事を優先して私を放って置くって事だね。」




「そうじゃなくて、大事にしたいからこそーー」




「大事と思ってくれているなら物理的に距離を取るんじゃなく、鉄の理性を持ってそばに寄り添っていて欲しい。

はじめさんなら・・・・・・・出来るよね?」




「うぅ、、、あぁ。」




よし肯定した。

この勢いのまま畳みかける。




「なら一緒の部屋でお泊まりしてもなんら問題ない。と言うことで良いかな?」




「ーーーはい、大丈夫、です。。」




言葉遣い変わってるよはじめさん。

いやー相変わらず押しに弱いね。

まあお陰で私は満足する回答を貰えたので黙っておく。



と言うわけで話もまとまりホテルへと移動した。


ここのシティホテルは一階にコンビニ等の店舗が有りニ階にフロント、ダイニングルーム、共用スペース。三階以上から客室になっているようだ。


コンビニで軽食を買い、フロントでチェックインをする。




「予約した山田です。」




「いらっしゃいませ。

山田様ですね。少々お待ち下さい。

ーーご予約頂いた山田一様、山田ゆづ葉様で間違いございませんか?

はい、ではこちらに御記帳下さい。」




私の『山田』姓に一瞬動揺したがなんとか持ち直し笑顔で肯定する。

はじめさんは真っ赤になり硬直しているので少し下がってもらう。


はぁ、母さん達今頃ほくそ笑んでいるだろうな。

2人分の名前を記帳する。

書きながら同じ姓を名乗るの事に少しくすぐったい気分になっている自分がいた。


無事鍵を貰い振り返る。




「さぁあなた・・・、私が書いておいたから部屋へ行こ。疲れてるんだよ、ゆっくり休もうね。」




『あなた』呼びをしてルンルン気分で腕を組みエレベーターへ乗り込む。


そんな浮かれ気分の私とは対照的にはじめさんは未だに硬直状態。




「もうそろそろ切り替えようよ。

それとも私が『山田』を名乗るのが嫌だった?」




意地悪にそう聞いてみるとはじめさんは慌てて首を振る。




「いや、そうじゃなく何と言うか恥ずかしい、と言うより照れ臭い。

あとーー『あなた』呼びが、、、感動したというか。」




思いのほか喜んでくれていたらしい。




「なら良かった。さあ早く部屋へ行って夫婦の時間を楽しみましょ♪」




そう言って部屋に入ると目の前には大きなベットが鎮座していた。




そう、、、ダブル大きなベッドが一つ・・




サプライズが多いなぁ。

私は大歓迎だから問題無いんだけど、、隣を見て苦笑いが溢れる。


とりあえずはじめさんが何か言い出す前に先手を打っておこう。



「シティホテルってダブルベットあるんだね。フカフカで寝心地良さそう!良い部屋取ってもらえて感謝感謝。


ーーー言っておくけど、今更『車で寝る』とか『別の部屋を取る』とか言わないよね?

男に二言は、?」




満面の笑みを崩さずそう聞く。



「!!?ありません!鉄の理性!!」




と顔を引き攣りながら敬礼をしていた。




はじめさんキャラが崩壊してるよ?




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



窓から外を眺めればすっかり陽は落ちた。


でも夜はまだまだ長そうだ。



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