第22話




ミカさんの家に着くと一台の車が横付けされている。リクさんの車だそうだ。

多分彼の事だ、ミカさんのご両親に今日のことを曲解して話しているだろう。


心配になり一緒について行こうとすると




「一人で大丈夫、ゆづ葉さんに録音データおまもり貰ったし勇気も貰ったしね!」




そう言って自宅に向かって歩んで行くミカさんに声を掛ける。




「ミカさんなら本音で話し合えるよ!

大丈夫ミカさんは一人じゃ無い、ここで見守っているから。」




ミカさんは一つ頷いて自宅に入って行った。

あとはミカさん次第だ。



私は門柱横にもたれ掛かりながらミカさんを待つ事にした。

はじめさんには少し離れて車内で待ってもらっている。男性の姿がある事でミカさんが不利にならないとも限らない。



30分程して勢いよく扉が開く。

門扉から顔を出すとリクさんが物凄い形相で荒々しく出てきた。

その後ろからミカさん達が慌てて付いてくる。

イライラしている彼と目が合う。




「テメェの入れ知恵か!!あいつが俺に逆らう訳がない!!あんな録音音声データまで出してきやがって!!」




胸倉を掴もうと腕が伸びてくる。




「やめてーーー!!!」




ミカさんの声が響く。

はじめさんも慌てて車から降りる姿が見えたが間に合わない。


私は胸倉を掴まれる寸前で腕の軌道を斜めに逸らし、その力を利用して捻りあげる。




「イッテー!!!離せって!っくっ!!」




昔から護身術を教わっていたのが今日になり役立った。


私の無事にみんなが安心して息を吐く音が聞こえる。

はじめさんがそばに来てリクさんを抑えるのを代わってくれた。流石に暴れている男性を長時間抑えつけるのは無理な為お任せさた。

ふぅわやっと一息つける。



「ーーーあの録音データが正しいのが良く分かった。

君も危ない目に合わせてすまなかった。こんな男に騙されて娘を傷つけ、あまつさえ娘を助けてくれた恩人に怪我を負わす所だった。

この男には社会的制裁を下す様に動く。本当に申し訳なかった。」




深々と頭を下げるのはミカさんの父親だろう。真摯に謝ってくれているのは分かる。分かるのだが、、、



「すみません、お騒がせして。

本郷ゆづ葉と申します。

私に対しての謝罪は不要です。

それよりミカさんに対して謝罪するべきだ。

録音データが無くともミカさん自身の話しを信じて欲しかった。

彼女は信じてもらえず一人追い詰められていました。

あなた方が彼女の話に少しでも耳を傾けていればこんな事になっていなかったはずです。

これからはしっかり聞いてあげてください。、、、家族なんですから。」




そう述べれば、ハッとした顔をし、『ミカ、すまない。』と頭を下げた。そしてを挟むようにご両親さミカさんを強く抱きしめていた。



ミカさんはそんな二人に手を回し、涙を流していた。



家族仲は大丈夫そうだな。

そう思いはじめさんの方に振り返り抑えされているリクさんを見る。

自分でもわかる程低くなった声で尋ねる。




「一応解決しましたし、もう手を出さないなら離しますけど、どうします?」




彼はソッポを向きながらも小さくコクリと頷いたのでアイコンタクトをしはじめさんに離してもらう。


するとさっきまでのしおらしくなった姿は一気に成りを潜め逃げるように自分の車に向かって走り出すリクさん。




「けっ、こんな女いらねーよ。あーーやだやだ、お涙ちょーだいで俺が悪者ってか?はいはい、じゃあ悪者は去りますわ。

おいっそこの暴力女!

名前も覚えたし、絶対傷害で訴えるからな!」




わぁ、小物感がすごい。なので大人しくさせようと口を開いた。



「えーとリクさん、でしたね。

あの目の前に停めてある車にはドラレコがついていて今の全部録画しているんですよ。

で、ついでに携帯こっちでは録音ね。

つまり、こっちは正当防衛、そっちは傷害未遂。どっちが有利かーーーご理解頂けるますか??」



「なっ!?~~~っ!覚えていやがれ!!」




と捨て台詞と共に去って行った。

今時そんな台詞を言って去ってく人がいるとは驚きだ。

同意を求めてはじめさんを見る。すると難しい顔をしていた。




「何か見た様な顔だが、、、。

ーーーーー今度ゆづ葉に何かしたら、ぶっ潰す。」




なんか物騒な言葉が出てきたが、もう会うことすら無いだろうと思い聞き流しておく。




よしっ問題は片付いたし、まだ何かあったとしても家族が助けてくれるだろうし私の出番は終わった。



時計を見る。17時を回った所だ。

自宅から動物園までが2時間半。ミカさんの家は私達と真逆の方向だったのでプラス1時間。そして渋滞、休憩も含めて帰路は最低4時間はかかるだろう。




「それじゃあ私達はそろそろ帰るね。

家族水入らずの時間を大切にして下さい。」



そう言ってお辞儀をしはじめさんと車に向かう。

それを止めるように声が掛かる。




「ゆづ葉さん、山田さん。本当にありがとうございました。助けられてばかりでお礼が出来てないです。

だから、今度是非お礼をさせて下さい。」




ミカさんが深く頭を下げる。その後ろのご両親もミカさん同様に頭を下げてくれていた。

私は若干の居心地の悪さを感じた。

だってそもそもそも私はそんな大した事はしていないのだ。これはミカさんが頑張っただけなのだから。




「お礼はいいよ。その代わり、ミカさんが本当に幸せになれる相手を見つけて欲しいな。ーーーそして仲睦まじい姿を私達に見せつけて欲しい。」




そう返せば




「ーーーうん、分かった次は二人の様な関係を築ける人を見つけるね!

そして今度は私が二人に見せつけるから!」




そんなミカさんは晴れやかな笑顔だった。




そして別れの挨拶も済ませ車に乗ると




「はぁ、ゆづ葉が無事で良かった。あの瞬間生きた心地がしなかった。。。

やはり言った通り俺も車から降りて待っていれば良かったんだ!

次は無いに越した事は無いが、もし次こういう状況になったとしたらお前にお願いされたとしても、絶対側を離れず守る事に徹するからな!」




当然はじめさんに説教を頂いた。

危険がない様努めると約束したのにも関わらず、またもや心配を掛ける状態を作ってしまった。

リクさん相手の気性をある程度把握して居たなら、行動パターンを考えるべきだった。


私が反省の言葉を口にすると反省文、並びに今後この様な事が起きた時の具体的な対策案の提出を言い渡された。

こんな時にも教師が抜けないとは!?

顔が引き攣りながらも提出を了承し改めて謝る。



「本当にごめんなさい。」




「いや、こっちこそすまない。

正直俺自身も悪かったと思っているんだ。

ゆづ葉の性格からして、こういうモノに首を突っ込む、無茶をすると分かってたのに目を離した。ゆづ葉の親御さんに合わせる顔がない。」




そういうはじめさんは明らかに落ち込んでいた。

私が悪いのに!

でも謝りあってたら終わりが来ない。

デートは楽しく終わりたい。

だから




「じゃあはじめさんも反省文と対策案提出ね!お互いに渡し合おうよ。

あと、デートの感想とかも!思ってる事を、口に出し辛い事も書き合おう?

交換日記みたいで楽しいでしょ?」




「ーーー反省文の交換日記か、、、ふふ、悪く無いな。

よし、反省や対策以外にも、口に出せていない俺からの愛の言葉を大量に綴ってやる。」



はじめさんはそうドヤ顔で言って居るが私は少し不満だ。




「綴るのも良いけど、直接聞きたいって言う乙女心も分かって欲しい。」



そう私は文字より直接的な言葉がいい。




「いや、、だが、、。」



躊躇うはじめさんに私は素の自分を曝け出す。



「私はいつでもどこでも言えるよ!」




「いつでもどこでも!?」




「なんなら今でも、、、、」



私の今の気持ちを全てぶつけようとするとパッと手が出てストップが掛かる。



「すっ、すまん、せめて心の準備を済ませた後で頼む。」



動揺を隠せずワタワタする姿に笑いが漏れた。

『まぁはじめさんだもんね』と苦笑いしつつ、後でどんな情熱的な気持ちを伝えようかと考えるのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





こうして初デートが終わった、、、はずだった・・・・・




帰り道の事。

帰路半分も来ていない所で休憩を兼ねて道の駅に入る。




「、、、すまない、ゆづ葉、、もう運転、、出来そうに無い。。

このままだと、、、多分事故る、、。」




はじめさん、日々の疲労と運転の疲労、そして睡眠不足にて運転続行不可。




どーなる!!?私達。。。。

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