第21話



場所を池近くのベンチに移動し、さっきあった事を掻い摘んで話す。




するとはじめさんはみるみる顔色が悪くなる。




「ゆづ葉!!

なんて危ない事するんだ!下手したら殴られてたぞ!なんでお前はそう無鉄砲に、、、、」



予想通りお説教を頂く。

私が全面的に悪いので黙って聞いていると




「あ、あの!私の所為なんです!怒っている彼から私を守ってくれて、、、だからこの方は悪くないんです!」




目の端に涙を溜め私が悪くないと訴えた。

私はそんな彼女の涙を指で拭う。




「ありがとう庇ってくれて。

でもはじめさんは怒ってるんじゃなく心配してくれてるんだ。もっと冷静に対処すればリスクが減ったのに!ってね。

だから甘んじて説教を受けないと。


っと、まだ名乗って居なかったよね?

私は本郷ゆづ葉。良かったら貴女の名前も教えてくれるかな?」




彼女はハッと息を呑む。

「わ、私は小島ミカと言います。

本郷さん。改めて言わせて下さい。

先程は本当にありがとうございました。」




深くお辞儀をするミカさん。




「いいえ、むしろ私が入ることで話を大きくしてしまったんじゃないかと。

これから、、大丈夫?」




「いえ、あのままだと多分私はダメになっていたと思います。

心が既に限界でした。」




そうしてミカさんはポツポツと事情を話し出した。




お付き合いする前の彼氏さんことリクさんは真面目で実直な性格でミカさんのご両親も納得の好青年だったらしい。


だが付き合いだすとミカさんの前だけ態度が一変した。

傲慢で常に言葉の暴力があったそうだ。

何度も別れようと決心したが時折優しい姿が顔を出し、『もしかして優しいリクさんに戻ってくれるのでは』と踏み切れずにいたと言う。




「両親にリクさんに言われた数々の暴言を話しました。

すると『お前に悪い所があったんじゃないのか?素直に謝りなさい。』と、取り合ってもらえず逆に責められました。

ーーリクさんは表と裏の使い分けが上手くて、、、私に味方は居ませんでした。」




そう言ったミカさんは虚な目をして静かに涙を流していた。




「だから今日の思い出を最後に全部諦めようと思って、、。」



それを聞いた瞬間ミカさんを強く抱きしめていた。




「今日ミカさんに出会えて良かった。

ありがとう、頑張ってくれて。」




心からそう言うとミカさんは声をあげて泣いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



泣き止み落ち着いた所で聞いてみる。



「一応確認だけれども、ミカさんはリクさんとこのままお付き合いを継続したい?」




「いいえ、もう無理です。両親と絶縁することになったとしても、、、もう楽になりたいです。」





全てを吐き出して2人の関係を客観視出来たのだと思う。

さっきの弱々しい虚な眼から意思の篭った眼に代わり安心した。

これなら安易な事はもう考えないだろう。




「もう大丈夫みたいだね。じゃあこれあげる。」




スマホを操作し音量を上げ再生ボタンをタップする。

すると先程のやり取りが流れ出す。

そう、私が介入する前のリクさんの怒鳴り声から去るまでの全ての音声を録音していたのだ。




「よし綺麗に録音できてる。

これをご両親に聴かせれば万事解決ね。もしこれでもダメならーーーウチにおいでよ。」



するとまたもや泣き崩れてしまった。

『ダメなら』ってキッパリ言ったのは配慮が足りなかったかなっと反省していると



「あり、がとう、、ありがとう。」



とミカさんは私に寄りかかってきた。

私は彼女が落ちつくまで背中をゆっくりと撫で続けた。






「じゃあミカさん家まで送るね。私が無理矢理首を突っ込んで引っぱってきちゃったもん。これぐらいはしないと。」




今のミカさんなら多分大丈夫だろうが、なるべく一人の時間を過させたく無かった。

一人だと負の感情が襲ってきて辛くなるだろうから。


はじめさんをみると無言で頷いてくれ、私の無茶ぶりを承知してくれたようで素直に感謝だ。




ミカさんの家はここから車で一時間ほどだそうだ。


私とミカさんは後部座席に並び取り留めのない話をする。

驚いた事にミカさんは四つ年上の22歳今春から社会人だそうだ。

『清楚系小柄な美少女』は実は『清楚系小柄な大人美人』だった。

これは堪らない!と感動していると「ゴホンッゴホンッ」と運転席から咳払いが聞こえ、バックミラー越しに睨まれた。



《自重しろってことかな?それともヤキモチ?》

と考えていると




「仲が良くて羨ましいです。『真剣に心配してくれて、真剣にそれに応える。』こんな関係を築けるなんて素敵です。」




さっきの説教の時の話かな?なんだか照れ臭い。




「素敵とか言われると嬉しくなっちゃいますよ。

あっ、それよりミカさんは私より年上なんですから敬語はやめて下さい。なんか居た堪れないと言いますか。。。」




そう、私が年下と分かってからも敬語が続いていているのだ。




「うーん、でも尊敬出来る人には敬意を払いたいんですが、、、じゃあ、ゆづ葉さんが敬語をやめたら私もやめます。

さっきまで普通に話してくれていたのに私が年上と知ってから敬語に直されると距離を置かれた様でちょっと寂しいなって。」




《何!?この可愛い人!!》

と興奮しているとまた「ゴホンッゴホンッ」と運転席から咳払い。

またバックミラー越しに鋭い視線。




「んふふふっ、愛されてるね。愛しい彼女が大事で大事て仕方がないって感じで。

女の私のにも眼を光らせるなんて、よっぽどゆづ葉さんを想って居るんだね。」




そう言われはじめさんが「うっ」と気不味そうにバックミラー越しの視線を逸らした。

私はと言うと




「いや、私の方が彼を愛しくて仕方がないんだ。だからミカさんがはじめさんを好きになっちゃわないか心配で堪らない。取らないでね?」




ミカさんがはじめさんに興味を持たないよう釘をさした。

心が狭いなと自覚はあるもののこればかりは譲れない。



ミカさんは一瞬目を見開いたあと優しく微笑む。




「ふふふ、ご馳走様。

私とリクさんの関係が如何に歪だったか、二人と接して良く分かったわ。

私もダメだったんだね、本音を言おうともせず彼の顔色ばかり気にしてた。


お互いがお互いを信頼し、敬う。本音を言い合え、愛を語れる。


もう彼とはそんな関係を築くことはできないけど、、、はっきり私の本音を話してみるね。」




そう言ったミカさんは晴れやかな顔をしていた。



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