第26話




あっという間に3泊4日のお泊まり会当日となる。



「久々の夫婦水入らず楽しんで来てね。」



そう言って両親を送り出した。


私が帰省について行かない事が決まり、それならばと、母の実家に顔を出した後は夫婦でそのまま旅行をしようという話になったそうで2人とも久方ぶりのお泊まりデートに浮き足立っていた。

祖父母もまたが来ないなら二人の自由にすれば良いとあっさり了承したと言う。



祖父母に申し訳ない気持ちになり電話をした。そして次回は絶対に顔を出すと約束をする事に。


『その時には私の大切な人を紹介するね。』


と伝えると祖父が


『ーーー分かった。しっかり包丁を研いで待っている。

可愛い可愛いゆづ葉の彼氏・・、、、か。くっくっくっ、じーちゃんがちゃんとキレイに捌いてやるからな。』


と言っていたので、これは次回帰省時の豪勢な食事に期待だ。祖父は猟師をしていてジビエ料理が得意な為今から楽しみで仕方がない。はじめさんも喜んでくれるといいな。



そんな回想しながら両親を乗せたタクシーに手を振って見送った。

そして右隣を見る。

はじめさんが若干緊張した面持ちでいる。

私を通り越してその先を見ているようだ。その視線の先を辿ると迫力ある笑顔の夕子がいる。



「山田、センセイ、来るの早かったですね。別に就寝の時間帯だけで良かったんですよ?空き巣対策の番犬・・は夜だけで十分。

だから昼間は最愛・・の親友がゆづ葉と過ごしますから。」




「ーーいや、俺が留守を頼まれたんだ。責任を持ってここに居る。

俺はゆづ葉の、か、彼氏だからな。」




彼氏のところで噛むのがはじめさんらしくて笑ってしまうが、、


何故か二人の空気がピリピリしている。

あれ?この二人って仲悪かったのかな?



「私は3人一緒に過ごしたい。

こんな機会滅多に無いしね。

はじめさんには私の大好きな親友の事をいっぱい知って欲しいし、夕子にも愛しい彼氏の素敵な所を見て欲しから!」



そう素直な気持ちを伝えれば




「大好きな親友!!」



「愛しい彼氏!!」



「「ふっふっふっ。。。」」



二人ともそう呟くと、一気に空気が和らいだ。



何故か分からないが二人の張り詰めた空気が無くなった事に安堵する。


でもそうだよな、私との関係を抜きにすると、普通に生徒と教師だ。

特に接点が有るとは言えない二人だし、何よりお互い人見知り気質だ。

そんな二人が私を心配して来てくれたんだ、ここは私が二人をしっかりもてなして過ごしやすい環境を作ろう!!

フンっと気合いを入れる。

さぁどんなもてなしをしようかなぁ〜?




コソコソ

(ーーーーー


「はあ、ゆづ葉勘違いして突っ走りそうだわ。。(最終的にヤマダと肩を組む所まで強引に持っていきそう、、、)ウゲッ。

ここは休戦してそこそこ打ち解けたようにしましょう。分かった?ヤマダ。」



「いきなり呼び捨てか!ーーはぁ、んっ、分かった、、。と言うか足立が俺に絡んで来なきゃ何の問題も起きん。俺は別に絡むつもりは無いんだからな。普通にしてくれさえすれば。」



「あ″ぁ″?ヤマダ。お前調子にになってないか?ゆづ葉と長い付き合いなのは私だぞ?」



「そんな事今は関係ないだろーーー」



「xxxx!!!」



「 o o !??」



ーーーーーー)



あれ?おもてなし案を考えていたらまた空気が悪くなってきた、、、?

 



「二人ともどうしたの?」




そう尋ねると




「「!!なんでもないよ(ぞ)!ゆづ葉は気にしないで(するな)。」」




声がシンクロした。

あれ?なかなか良いコンビなのかな?

でもーーー




「二人が仲良くなるのは嬉しいけど、、、私より仲良くなり過ぎないでね?」




矛盾した事を言ってる自覚があるがこれが本音だから仕方がない。

自分が子供すぎて恥ずかしい。

恥ずかしさで顔がほんのり熱くなるのを感じる。




「「それは絶対大丈夫!ゆづ葉以上なんてありえ(ん)ないよ!」」




又もシンクロする二人。

口元をひくつかせながらお互いを見交わす所が私のツボに嵌り、声をあげて大笑いしたのだった。



この後昼食をとったがなかなか賑やかになった。

なんせ夕子とはじめさんが喧嘩漫才のように言葉の応酬をしていたからだ。

この二人にはこれが打ち解けた状態なんだなと一人納得した。



午後からは学生組は夏休みの課題と受験勉強、はじめさんは学校の資料作りをする事になり一階と二階に分かれて過ごしていた。



時計を見ると17時。そろそろ課題に区切りをつけ夕飯作りをしよう。

はじめさんに声を掛け一緒にキッチンへ向かう。

夕子は家事全般が苦手なのでここはノータッチ。リビングでテレビを見ている。



今夜は夕子のリクエストで冷やし中華。暑い夏には持ってこいだ。



私は野菜を切り、はじめさんはお湯を沸かしながら薄焼玉子を焼く。

こんな風に一緒に料理をするのが当たり前になっている。

だけど夏休み終了と同時にこの楽しい時間も終わりだ。

そう思うと途端気持ちが萎んでいく。


心ここに在らずで手元が疎かになりーーー



「痛っ!!」




包丁で指を切ってしまった。

瞬間、はじめさんが私の手を取り切った指を口に咥えた。

完全に血が止まった後、叱られた。




「何やってるんだ!!包丁を使ってる時にぼーっとするな!」




「ごめんなさい。」




当たり前の事で叱られた、そんな不甲斐ない自分に落ち込む。


傷口を見ると幸い薄ら赤い線が見える程度だったので絆創膏を貼る。

そしてそのまま作業を続けようとしたが、はじめさんに止められて、後ろで見学することになった。



トントントンと小気味良い音が響く。




「さっきは怒鳴って悪かった。

どうしてぼーっとしていたんだ?お前らしくもない。」




調理しながらなので背を向けた状態で聞いてくる。




「うん、、笑わないでね。結構小さいことなんだよ。

あのね、夏休みが終わったらはじめさんと一緒に料理したり、ご飯を食べたりする時間も終わっちゃうなって思ったら、、、その思った以上に凹んじゃって。

そんな事でいちいち落ち込んでいたらキリがないとは分かって居るけど、、。」




「はあ」とはじめさんがため息を吐く。

呆れられたようだ。

ズキっと胸が痛む。


はじめさんを好きになってから自分の心が上手くコントロールできなくなった。

私はこんな事で落ち込む様な柔な性格じゃなかったのに。

いつの間にかこんなに弱く脆い人間になってしまっていた。




「あのな、お前だけだと思うなよ。

ーー俺だって同じだ。ゆづ葉との毎日が幸せすぎて連休なんか明けるな!って本気で思っている。

ーーーこのまま一緒に暮らしたいって。」




こっちに向き直り目が合う。




「ーーでも今は我慢して欲しい。

ゆづ葉が無事卒業するまでは、生徒と教師という関係が取っ払われるまでは、、な。

ゆづ葉のご両親との約束でもあるんだが、、、

これは教師の″俺″としてのケジメなんだ。そんな個人的感情に付き合わせて申し訳ないが、頼む。俺に時間をくれ。」




真剣な眼差しを向け語るはじめさんは、教師だった。

そしてそんな教師のはじめさんにも私は惚れたのだと思い出す。



「はじめさんも「寂しい」と感じてくれてるんだって知って少し救われたよ。

私、はじめさんと付き合いたいと言った時の覚悟を忘れかけてた。

また弱音を吐くかもしれないけど、堂々と付き合っていることを言える立場になるまで頑張ります。」



力強く答える。もう大丈夫だ。心は浮上した。




「ーーーそれに会えない時が有るのは今だけだもんね。この会えない時間を大切にする。

だってそうやって我慢して我慢して、やっと会えた時、嬉しさが倍増するしね。」




いつもの自分が戻ってきた。

そう実感していると




「会えない時間を大切にするか。

やっぱりゆづ葉は強いし、格好良い。

ふっ、惚れ直すよ。」




そう言って両腕を広げる格好のはじめさん。

私はその胸に飛びついた。




胸に頬を擦り付ける。今はこうして充電させてね。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


リビングソファーにて。




「私の存在忘れてるね、あの二人。。。


ラブラブな姿イラつく、イラつくけど、それより今は、、、お腹すいた。。。


夕飯まだかなぁ、、、T_T」









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