第16話



夏休みが始まり私の通い妻(?)生活がスタートした。



最寄駅の始発に乗り込む。

はじめさんの家はA高校の近辺なので電車で4駅。

通学用の定期がそのまま使用できたのは嬉しい誤算だ。

そして駅に着いてからさらに徒歩10分。

スマホアプリで道のりを確認しつつはじめさんの家に到着した。

時計を見るともうすぐ6時を回りそうなので急いで玄関ドアに手を掛ける。

はじめさんが自由に出入りできるようスペアの鍵を渡してくれたので、寝ている山田一家を起こさぬ様に小声で「お邪魔します」と述べて恐る恐る入る。



するとパタパタとこちらに向かってくる足音が聞こえ咲お姉ちゃんがお風呂上がりの格好で出迎えてくれた。



「おはようゆづ葉。別に『ただいま』でも良いのよ。」



「おはようございます。

では、、ただいま咲お姉ちゃん。

夜勤明けですか?お疲れ様です。」



「(くっ、良い!!)

じゃあ私も、、『おかえり』ね。

これから約2ヶ月よろしくね。もちろんこのまま一緒に住んでしまうのも有りだからね。」



そうウィンクしてくれた。

私に気を遣わせないようにしてくれてるのが分かり幸せな気持ちになる。



「ありがとうございます。

こちらこそよろしくお願いしますね。

いつか一緒に住めたら素敵ですよね!!

その時は、、、私たち、、本当の姉妹ですね。ふふふっ。」



言っちゃった。恥ずかしくて下を向く。

一人っ子な私は姉妹に憧れを持っていたのだ。結城ちゃんが妹で咲さんが姉。あぁなんて素敵なんだろう。(正確には結城ちゃんは姪になるんだろうが。)

咲お姉ちゃんがどんな反応か気になり顔を上げると



「うんっ、うんっ、姉妹!!良い響き!。そう!私たちはすでに姉妹よね!!!」



へへへっ喜んでくれた!

咲お姉ちゃんも姉妹に憧れがあったのかな??

嬉しいなぁ。

そんな幸せな気持ちに心がホッコリした。


ーーーおっと、楽しい会話で肝心な目的を忘れてしまうところだった。



「えーと咲お姉ちゃん、早速なんですがキッチンを使わせて貰って良いですか?

食材は言われた通り持ってきて無いんですが本当に良いんですか?」



「ええ大丈夫よ。食材は我が家のものを好きに使ってね。足りないモノがあれば買い足しておくから。」



そしてそのままキッチンまで案内され時間もそんなに無い為早速朝食を作り出す事にした。

昨日は家の場所を案内してもらう為結城ちゃんと一緒に帰ることになり、そのまま山田家にお邪魔した。

その時にキッチンやその他諸々の説明を聞いたのでスムーズに動ける。



初日の今日は無難にザ・日本の朝食にする。

厚焼き玉子、鮭の塩焼き、ほうれん草の胡麻和え、味噌汁、白いご飯にお漬物。



シンプルな和食の完成だ。



そして時計を見ると6時半過ぎ。。

あれ?はじめさんが起きてこない?

確かはじめさんは家事全般を担っているから咲お姉ちゃんが夜勤で早朝帰宅していても6時過ぎには必ず起きてるって言っていたのに。



すると咲お姉ちゃんが何か思い出したように手をパチンと叩いた。


「あっ、そういえば朝一はじめの目覚まし止めたんだった。いけない、このままじゃ遅刻しちゃうわ。お願いゆづ葉起こしてきて。」



その言葉を聞いてバッと視線を二階へ向ける。

『えー!?なんで目覚まし止めちゃったのーー!?』

私は咲お姉ちゃんに向かって頷くと急いではじめさんの部屋へ向かった。

部屋の前に立ちドアをノックするが全然反応がない。


勝手に入るのは気が引けるが時間も無いので部屋の中に入ることにした。

薄暗い部屋の中は整理整頓がされていて綺麗だった。

大きい本棚には種類別に並んでおり、1番下には小物関係の雑誌があった。

そんなさり気ない可愛さを見つけつつベットを見る。



うつ伏せで寝ているはじめさん。

口が半開きになっていて可愛い。



つい悪戯心芽生え、そっとベッドへ近づきはじめさんの耳元で囁く。



「はじめさん、朝だよ起きて。

起きないと、、、このまま襲っちゃうよ。」




ピクッと反応したはじめさんは目を半開きにしこちらを見る。じーっと見つめるだけで動かない。

顔を真っ赤にするかなっと予想していた私ははじめさんのその反応に少し残念に思っていた。

だがーーー



「ーーーゆづ葉、好きだ。。

こっちに来い。。。」



そう言うと同時に腕をグイッと引かれはじめさんの寝ているベッドへ引き摺り込まれる。



「きゃっ!え?え??」



まさかの行動に気が動転して言葉が出ない。



はじめさんの顔を見る。砂糖のように甘々な表情をしているが目の焦点が、、、ん?おかしい!?

あっ!!!これって、、、寝惚けてる!!?



「はじめさん!!!起きて!おーーい。

どうせなら起きた状態で目を見て言ってーーーー!」



大きな声を出してガクンガクンと身体を揺すると




「ゆづ葉。。。。


っっ!!!?ゆ、ゆづ葉!!なんでベットの中に!!」



慌てて起きて身体を離すはじめさん。

私を見た後ばっと自分の衣服の確認をし『はぁーー』と大きく息を吐いた。




「あっはっはっは!!

はじめ、寝起きでゆづ葉を襲っちゃ、、はっはっは、だめよ、ふっふっふふ、、、!

まさか無意識にベットに引きずりこむなんて、、、あんた相当、くっくっくっ!!」



いつの間にかドアまで来ていた咲お姉ちゃんの笑いが部屋に響いた。



「違う!夢だと思ってーーー「はじめは夢だとゆづ葉を襲うんだー。へぇー。ふふふふふっ、、、。」」



はじめさんは顔を真っ赤にしてさらに反論していたが咲お姉ちゃんの笑いはなかなか治らなかった。


その後ようやく落ち付きはじめさんが身支度を整えリビングに降りてきた。



「ゆづ葉すまん。寝惚けていたとはいえ、、あんなことしてしまって。

ーーだが、勝手に男の部屋に入るのはどうかと。」



「あっそれ私が頼んだのー。早く起こさないと遅刻しちゃうからって。」



「なっ!!

姉さんの仕業かーー!はぁ、、、朝から心臓に悪い。。

ーーまぁ元はと言えば俺が自分で起きなかったのが悪いんだろうが。」



「それも私ー。目覚まし切っておいたの。

だってはじめったら折角ゆづ葉が来てくれるのに朝食自分で作るつもりでいたでしょ?

世話をかけたく無いっていうあんたの優しさなんだろうけど、それゆづ葉を信用してないみたいで頂けないわ。」




「それも姉さんの仕業っ!!って、、いや、、それは、、その確かに、悪かった。」



成程。咲お姉ちゃんのアレは私を思っての行動だったんだと分かり嬉しくなった。



「まぁぶっちゃけちゃうと、ゆづ葉に起こされたはじめの反応を楽しみたかったのが9割だけどね。いやー、予想外だったけどサイコーだったわww」



あっ違う、弟いじりだった。

でも仕方ないか、だってはじめさん可愛いもんね。

咲お姉さんの行動につい納得してしてしまったのは内緒だ。


『あっ、でもそうか。はじめさんは私の負担を気にしてくれていたんだな。

確かに一方通行じゃダメだよね。』

と思い至り一つ提案をしてみた。



「はじめさん、じゃあ日替わりでご飯作らない?私とはじめさんが交代交代で作るの。私もはじめさんの作ったご飯食べたいもん。」




はじめさんの気持ち優しさも汲み取りたかったし、実際はじめさんのご飯が食べたいのは本音だ。

結局はじめさんの仕事を増やしちゃってるけど、、、どうだろう?




「ありがとう。ゆづ葉のご飯も食べたかったのも本当なんだが、俺の作った物も食べてもらいたかったと言うのも本当なんだ。

ーーーだから日替わりは賛成だ。」




はじめさんは快く了承してくれた。あぁ良かったとはじめさんと見つめあっていると



「はいっ、立ち話しは終わり。温かいうちに朝食をいただきましょう。

テーブルを見て。いつも寝坊する結城が休みの日だと言うのにもう準備万端でお待ちかねよ。」



ダイニングには既にシャキッとした結城ちゃんがテーブルに前のめりで構えていた。




「おはよー。みんな遅いよ。イチャイチャは後にして早く食べよう!

ゆづ葉お姉様のご飯が冷めちゃうよ!!」




イチャイチャはしてないけど確かにはじめさんの出勤時間が迫っている。

早速みんな席に着き顔を見合わせ手を合わせる。



「「「「いただきます。」」」」



素敵な食卓の始まりだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「あ、そうだ、さっき交代交代って言ってたけど、偶には一緒にキッチンに立つのもいいなぁ。

ね?新婚さんみたいじゃない?」



ブフォッ!!



はじめさんがお味噌汁でむせている。

熱かったかな?



「新婚って言葉でむせるとか、、、さっき寝惚けて

『ゆづ葉、好きだ、こっちに来い』

とか言ってたくせに、、、。ふっ。」



そう言いながら動画を流し出した咲お姉ちゃん。。。



あーーあれ録画されてたんだ。

ーーよし、あとで貰おう!



未だに真っ赤で咳き込むはじめさん。



ケホッ、ゲホゲホーーーー



気管に入ってしまったのか咳はなかなか止まらなかった。



心配でゆっくりと背中をさする。




「「新婚、新婚~⭐︎」」



「うるさいっ」



「「照れない、照れない⭐︎」」



「うぅー、、。」



ふふふっ、楽しい食卓だなぁ。

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