幕間 夕子の独白




私、足立夕子は今機嫌が悪い。



担任山田が私の・・ゆづ葉と付き合う事になったと事後報告をしているからだ。

しかもゆづ葉と手を握ってやがる。ーークソが!!



だがこうなったのは私の所為でもある。


ゆづ葉が前々から山田を意識し出していた事は知っていた。

その後、毎朝逢瀬(ふんっ!)を繰り返していた事も。


そしてその後ゆづ葉が無駄に空回りをし日に日に弱り切っていく姿を目の当たりにし、、、私はあろう事かゆづ葉に自身の無自覚な気持ちを自覚させ背中を押してしまったのだ。


あぁ、その時の自分の行動に腹立がたつ。

なんならあの日の自分をいますぐにでも殴りたくなる。


あれから何度も何度も後悔していた。




私のゆづ葉。




出会いは小学生の頃だ。

私は所謂美少女だった。それを好意的に思う者も居れば嫌悪する者もいた。


男子には

『可愛い。良い子。優しい子。』

と言われ

女子には

『男子に媚びてる。男好き。女子を見下してる。』

と言われた。



誰も私の中身を見てくれない。

私は良い子でも優しい子でもないし、媚びても居ない。ましてや男好きなんてあり得ない。寧ろ媚を売るような態度が大っ嫌いだった。



なのに周りは勝手な事ばかり言う。

完全にスレていった私だが、否定するのも面倒なのでニコニコ笑顔を作ってやり過ごしていた。



そんな中転校生がやって来た。

短髪で異様に容姿の整った子が。

名前は本郷ゆづ葉。

彼女は直ぐに人気者になった。


『可愛い。良い子。優しい子。』

私への評価がそのまま彼女へ移った。


だが


『男子に媚びてる。男好き。女子を見下してる。』


は彼女に移らず私のまま。



どうせならこの負の評価も移ればいいのにと思っていた。



私は一人孤独でも平和な世界に居たかった。



そんなある日の図工の授業で2人以上でグループを作る事となった。

好きな子達で組んでと教師が言うが私にはそんな人は一人として居ない。

そして周りも私と組みたい人など居ない。居たとしても媚びへつらう男子くらいなものだ。


あの教師め、授業でのグループ決めを″好きな子同士″とすれば余りが出る事を考慮しろよ。



心の中でそう悪態をついていると私の目の前にある人物が現れた。

ウワサの人気者、本郷ゆづ葉だ。

余物の可哀想な私にお情けかしら?

ふんっ、良い子ちゃんが!


私はあえて彼女に気付かないフリをした。

だがそれにも関わらず彼女は気にせず声を掛けて来る。



「足立さん、私とペアを組まない?」



案の定の言葉にうんざりした。



「結構です。1人が好きなんで。」



キッパリと断りを入れた。

お情けも迷惑だし、人気者の彼女と居ると悪目立ちするのだから声を掛けるとか正直やめて欲しい。


断られて機嫌を損ねて去って行くと思いきや彼女は意外な言葉をこぼした。



「そっか、1人が好きなら仕方が無いね。じゃあ私も1人にするよ。」



はぁ?同調してポイント稼ぎか?!

不快な気分になり彼女を睨みつける。

だが彼女は私の視線を一切気にする事なく言葉を紡ぐ。



「組む相手は足立さんしか考えて無かったからね。

よしっーーー先生!足立さんと私は個人でやります。」



そう、はっきり言いきった。



担任は困ったように2人以上のグループでやるのは決まりだからと言っている。

だが彼女は全く折れる様子はない。



「先生は好きな子とグループを組むように言いました。なら好きな子が居ないなら、そしてその好きな子にグループを組む気が全く無いなら1人でやっても良いですよね?」



その彼女の言葉に屁理屈だと担任は怒った。このまま課題を進めても評価は付けられないとまで言っている。



「良いですよ。元々先生のやり方に疑問がありました。不平不満を無くすなら名簿等やくじ引きで決めるべきだった。

『好きな人』と括ると必ず軋轢が生まれるのはわかる事じゃ無いですか。いじめにも繋がるような行為は気持ちいい物じゃ無い。こんな風に人の好き嫌いを助長させるのは如何なものかと思います。」



教室が一気に静まりかえる。

担任も言葉を出せず口をパクパクしていた。


彼女の、その小学生らしからぬ凛とした態度、意志の強い瞳。そして私に視線を向け、柔らかな微笑みをしイタズラっ子のようにウィンクをしてきた彼女にーーー私は一瞬で惹きつけられた。

性別関係無しに、そんな彼女が好きだと思った。



その後彼女は図工の評価が付かないことを勝手に了承してしまったことを私に謝っていた。

つい熱くなって周りが見えて居なかったと。

そんな彼女に

『友人になるなら許す、、、ゆづ葉・・・

と顔をそらして言った私は、、、良く聞くツンデレというやつだったのだろう。



彼女は、いやゆづ葉は嬉しそうに

『うんっ!よろしくね、夕子・・!』

と頷いてくれた。

その無邪気な笑顔にも心を奪われた。



結局、私達は個人で課題をやると言いながら一緒にやることになり、担任は安心したような納得いかないような複雑な表情をしていた。



のちに何であの時なぜ私に声を掛けたのかゆづ葉に聞いた事がある。


ゆづ葉は照れ臭そうに頭を掻きながら


「夕子が可愛かったから。それてちょうど一人でいるしチャンスかな~っと。

あっ、でも話してみて自分をしっかり持ってるんだなって更に好感をもったよ。」



そう笑顔で答えた。



『お前も私の外見かっ!』



と心の声でツッコミを入れたが、何故かゆづ葉に外見で評価されても嫌じゃ無かった。


結局は私の受け止め方の問題だけだったのだろう。

『外見で評価するのは最低だ、私の中を見てくれて居ない!』と思いながらも、ゆづ葉に外見の事を褒められると嬉しくなってしまう。

要は独りよがりで物事を斜に構えていた生意気なガキだった訳だ、、。ははっ、痛い子だな。。。


でももう他人からの評価なんてどうでも良い。

ゆづ葉さえ私を見ててくれれば、それで。


私の内面も外見も諸々含めて、それを良しとしてゆづ葉はそばにいてくれるのだから。




まぁそんな事があり、その後ゆづ葉と終始一緒にいる事になったのだが、、、天然タラシのこの女は厄介だった。


気がつくと直ぐに誰かを口説き落として信者を作っていくのだ。厄介極まりない。

こんなのを野放しにするわけにはいかない!




『ってか私だけそばにいれば良いだろうがっ!!!』



だから私は常にゆづ葉が私から目を離さないよう成績が悪い所を見せつけた。

やればそれなりに出来る私だが、支えなきゃいけない『私』像を作り上げた。

案の定、面倒見の良いゆづ葉は私を大切にしてくれた。


そしてゆづ葉に関する情報操作も完璧だった。

あえてゆづ葉のファンクラブを作り情報網を確保しつつ、抜け駆け禁止等の規則を明確にし徹底管理を実現した。


完璧だ。


いつか私だけのゆづ葉にする計画は順調だ、、、順調だったはずなのにーーーダークホース、山田の存在を防ぎきれなかった。



アイツは自らの特性天然と《強面》を駆使しファンの情報網から逃れゆづ葉をたらし込んだのだ。



その時点でまだゆづ葉は自分の気持ちを理解して居なかった。だからいくらでも潰せた、、、だがゆづ葉の苦しんでる姿に耐えられなくなり、、、私は事を起こした。



ゆづ葉を早退させ気持ちの自覚を促す。そして山田を手紙で誘い込む。


好きだと自覚したゆづ葉は機会を逃すことはないだろう。根っからのハンターだから。


自らゆづ葉の背中を押してしまった。

でもやっぱり、、、ゆづ葉の辛そうな顔は見たく無かったんだ。


『はぁ、これで私もお役御免かな、、。』


そう思い帰ろうとしたが、、、ふと胸騒ぎを覚えた。



慌てて本郷家に戻るとゆづ葉が山田を押し倒す形でキスをしようとしていた。

山田は目を瞑って待っている。



『ばかやろーーー!

ゆづ葉さすがに手が早すぎだ!

山田は流され過ぎだ!ムッツリスケベ!

それは流石にまだ許さんぞ!!!』



落ちていたスリッパで二人の頭を叩く。心なしか山田の方に力が入ってしまった。



『やっぱり、ゆづ葉には私がまだまだ必要だ!』



そう思った瞬間でもあった。


その後山田を射殺す勢いで睨みつけつつ二人に説教をしてこの日は終わった。



そして冒頭に戻る。




改めて交際宣言されると腹が立つ。山田にゆづ葉にそして私に。



だがゆづ葉の幸せには変えられない。


そう思いつつお祝いの言葉をゆづ葉に伝えた。



、、、そして山田には耳元で



「クソ変態教師が!ゆづ葉が泣いたらいつでも地獄に落としてやる。

あとゆづ葉は私のだ・・・。易々と手を出せると思うなよ。

ーーーゆづ葉のそばには常に私がいる。」




そう伝えた後ゆづ葉に向き直り、



「ゆづ葉、、私邪魔はしないよ。

ーーでも彼氏ができても、、、私の事見捨てないでね。

一生・・そばにいたいの、、、良いかな?」



渾身の涙目、上目遣いでゆづ葉に問う。



「っっ!!!当たり前じゃん!夕子とはずっとずっと一緒だよ!大好きーーー!」



ギュッと私を抱きしめるゆづ葉の体に手を回しつつ山田に対して口パクをする。




ゆづ葉は私のものだ・・・・・・・・・



と、勝ち誇った笑みを浮かる私。



山田は目を見開き驚愕していた。



ふんっ、これぐらいの意地悪はいいだろう。

満足して再びゆづ葉の温もりを堪能した。



『まだまだゆづ葉の全ては渡せない。』


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