幕間 山田先生の独白 (裏側1)



俺、山田一はA城学園高校で教師をしている。

年は26歳。趣味は料理、裁縫、掃除等の家事全般と、、、可愛いモノを愛でる事だ。



両親は俺が小学2年の時に事故で揃って他界。親戚も全く居ない中、育ててくれたのは10歳離れた姉だった。

当時姉は18歳で大学進学を控えていたが生活の為進学せず働き出した。

俺という荷物を抱えながら昼夜問わず働く姉。そんな姉の負担を少しでも軽くしたかった俺は家事全般を担った。だが全く苦ではなかった。むしろ性に合っていたのだろう、切り詰めた生活の中でも楽しく過ごしていた。



そんなある日、姉は当時交際していた人との子を身籠った。詳しくは教えてくれなかったが姉はその人とは結婚はせずこのまま一人で育てると言った。姉が決めた事だ、どんな事情があれ俺はそれを支えようと思った。

そうして父親が居ない状態で結城が誕生した。その可愛い、愛くるしい姿に癒され『この子は俺が守る』と誓ったのだった。

俺は当時10歳だったが父親の代わりになろうと積極的に面倒を見た。ミルクをあげおしめを換え子守唄を歌い寝かしつける。

その姿はまるで母親の様だったと今でも姉に揶揄われる。


可愛いモノ好きは多分この頃から始まった。学校では勉強や読書をし帰ってからは家事をする日々で可愛いモノとは無縁の生活であったが結城の誕生で一変した。

結城はとにかく可愛いかった。その結城のためにいろんな物を作った。服だったりぬいぐるみだったりと。より良いモノを、より可愛い物を作るために雑誌を読み漁った。そうしているうちに自身がその魅力に惹かれて行ったのだ。



幸せな日常を過ごしていたが学校では所在が無かった。

元々話しをするようなタイプではないのもあり友人と呼べる人は居なく、休み時間は主に読書をしていた。



そんな中珍しく一人のクラスメイトが話掛けてきた。


「おい、その本カバー何?ピンクの花柄かよーww」


俺の本カバーが気になったらしい。

結城の服の残り生地で作った為いつも以上に目立っていたようだ。



「、、、余り生地で作った。」



話し慣れていないため端的に答える形になった。

するとそいつは笑いながら本カバーを指差し言った。



「おい、みんな、見ろよこれ。ピンク花柄本カバーwwコイツの手作りだって!デカイ図体してしかもこんな凶悪顔が作ったとかキモっ!なぁやばくね~?」


すると他のクラスメイトもクスクス笑い出した。



俺はその言葉に、みんなの反応に傷付いた。

俺の中身を知ろうともせずただ見た目に合わないから、気持ち悪いからと否定され笑われた。。。その事実が悲しかった。


尚も馬鹿にし続けるクラスメイトだったがすぐ騒ぎを聞き付けた担任が収集をつけてくれた。

それから俺は「自分の見た目と合わないモノ」を極力遠ざけた。

自分自身を否定された事への悲しみが心の片隅にずっといる。



そんな過去があったが今は至って平和だ。俺みたいな言葉に出せない生徒の力になりたくて教師にもなった。、、理想の教師には程遠いが。



とにかく順風満帆。

今でも可愛いものに心惹かれる自分が居るが、教師として不甲斐ない姿を見せない様表情を引き締め過ごしている。



そう、なんの問題も無い教師生活。

だが最近になり妙な視線を感じる。その視線はいつも決まって俺の気が緩んだ時だ。

何か探られているのか?と疑心暗鬼になる。またあの時小学生の頃の様な事になるんじゃ無いかと。

視線を感じる方向にそっと目をやる。するとある女子生徒が慌てて背を向け歩いて行く姿が見えた。


一瞬だったが間違い無い。その後ろ姿は俺の担当クラスの『本郷ゆづ葉』。

その意外過ぎる人物に驚いた。



『本郷ゆづ葉』と言う人物は我が校でいや校外でも知らぬ者が居ない程有名だ。

絵画から抜け出てきたような容姿、それでいてそれを鼻にかける事なく柔らかい物腰。

だが教師の中ではある意味で要注意人物でもあった。

なぜなら、、とてつもなく人垂らしだからだ。しかも老若男女問わず死角無し。それが無自覚というのも厄介な所だ。


本郷と話すと一気にたらし込まれるらしく、自分の立場を忘れてしまいそうになると言う。。教師としては中々怖い存在だ。

だから学校の合併の際、女子校側の教師陣に注意するよう通達された。



そんな奴が俺を見ている?なぜ?

それともただ単に俺の自意識過剰か?

だが視線を感じるその先にはいつも本郷がいる。

その後も何度か視線を貰ったが本郷から何らアクションがない為、このまま放置するのが良いと結論付けた。

あの『噂の本郷』に自ら近づくのは得策では無い。



そうして知らぬフリを貫いていたある日。

朝のホームルーム後に日直を呼んだ。昼前に授業で使う資料を運ぶ手伝いを頼む為だ。すると出て来たのは本郷だった。

本日の日直が本郷だと失念していた俺は一瞬どうしようか迷ったが、呼んでおいて何も言わないのは不審な為、当初の予定通り社会科準備に資料を取りに来るよう伝えた。



そして昼。社会科準備室で一息ついていると


「失礼します。」


と本郷が入って来た。

俺は少し緊張したが本郷はいつもの視線が嘘のように俺を全く気にせず、資料を持つと用は無いとばかりにさっさと出て行こうとした。

その態度に少しばかり憤りを覚えた俺はつい出入り口を塞いでしまった。今思えば俺だけが意識してることが悔しかったのかもしれない。



自分の行動に動揺する。放置するつもりがこんな状態だ。

そして咄嗟に出た言葉はーーー



「 ーー 何を探ってる?」




あっ、だめだ。やってしまった。この顔でこの聞き方だと怖がらせてしまう。

言った後に後悔した。

そして案の定、本郷は俯き固まってしまった。



生徒を威圧する教師なんて最低だ。

なんとか誤解を解こうとしどろもどろで弁解した。



「べっ、別に怒っている訳ではない。

ただお前がなんの為に俺の事を見ていたのか気になっただけだ。、、、自意識過剰だったなら謝る。」



そう伝えると本郷はパッと顔を上げマジマジ顔を見てきた。

初めて本郷としっかり目が合う。何もかも見透かしそうな琥珀色の瞳に飲み込まれそうになる。


すると本郷が口を開いた。

探っていたわけではないということ。

ただ俺を見ていたということ。

俺の行動一つ一つに目が離せなかった、、と。



《なんだこれは?!流石にこんな風に言われると勘違いしてしまうぞ!!?》



変な考えが巡り、言葉を出せずにいると



ストーカーじゃないと力説し始めた。


本郷曰く、可愛いモノ、好きなモノから目を離したくないとか、、



《可愛い?!目を離したくない、、それっ?!!俺?俺なのか?!まさか俺のこと、、、いや、違う違う!ストーキング(?)の弁明でそう言ってるだけで、、こいつに他意は無いんだ。心を無にしろ。無だ。》

何とか熱い顔を引き締め出た言葉は



「、、、いや、本郷に他意が無いのは分かった。だが、、、俺が、可愛い訳ないだろう。」



だけだった。

そんな俺に



「可愛い」



と慈愛顔で言ってきた本郷。



《もう、やめてくれーーー!!》




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