幕間 山田先生の独白 (裏側2)
その後改めて真摯に謝罪されたが俺を見る事はやめないと宣言され泣く泣く許可を出した。なんとか故意に後は付けるなと釘を刺したが。
駄目だ、本郷のペースに飲まれてしまっている。
こいつは心身掌握術が凄過ぎる。
俺が可愛いモノが好きなのもバレていたし、その気持ちが分かると共感していた。昔それが原因で気持ち悪がられ隠すようになったことを話をしてもこいつは全然態度を変えなかった。
空気を読んでいるわけじゃ無く、偽りなく本心なのだと分かる。
本郷との会話は楽しかった。
こいつ自身も可愛いモノ好きでどんなものが好きか。や、どうゆう所にキュンとくるか。とかクルクル表情を変え話している姿が可愛くて仕方がない。
そう思い至った時、マズイと心の奥で警報が鳴った。
俺は教師という立場に居ながら本郷の事を好ましく感じ始めていた。
このままではいけないとブレーキを掛ける。俺がどうなろうと構わないが本郷に迷惑を掛けられない。この調子で俺と話していると本郷に悪い噂が流れるかもしれない。
だから突き放すように拒絶した。
「こんなに自分の事を話をしたのは初めてだ。楽しかった、ありがとう。
、、だが今日限りだ。
悪いがこの事は誰にも言うな。こんなガタイでこんな顔の俺が可愛いものが好きと知られると威厳が無くなるし何より気持ち悪いだろう?
それと本郷、今後俺に親しく話しかけるなっ。必要以上近づくのもやめろっ。変な噂が立っては迷惑だ!」
酷い言いようだ。誰が聞いても俺は最低な奴だ。だがこれで本郷も俺に興味も無くなるだろう。
そう思っていると本郷は俺の心を見透かしたように言ってきやがる。
好きなモノを好きといって後ろめたさを感じるな、卑下するな、と。
俺が突き放した理由の裏も理解してるが逃す気はないと。。おまけにまた俺が可愛いとか言いやがるし。
こりゃ駄目だ。敵わない。
もうこうなりゃなるようになれ!だ。
「、、、はぁ、俺の負けだ。お前の勝手にしろ。」
と言った。
だかこう言ったのをすぐに後悔する事になった。
それからと言うもの益々視線を感じる日々。そして俺の憩いの
本郷はベンチで本を読んでいるのだが、時折こちらを見ては微笑んでくるから困る。
必死に直視しないでいると隣に座ろうとしてきたり、ポロポロと甘い言葉が溢れてくる。
想像以上の人垂らしっぷりの本郷に俺は辟易していた。こいつは誰にでもこうだと気持ちを抑えようとして、俺だけじゃないんだよなと逆に落ち込むという複雑な状態になっている。
本郷が花壇に来る様になって1ヶ月ほど過ぎた頃異変が起きた。
いつものように花に水やりをして居るのだが本郷が来ない。何かあったのでは無いかと不安になる。
寝坊か体調不良か、事故!じゃ無いよな。。そんな連絡は入ってない。
もしくはーー俺に飽きたか。
本郷が来ないだけでこんな風にあいつのことばかり考えてしまうとは。
いつも本郷の言葉で翻弄されてばかりなんだ。俺に飽きてくれるならそれはそれでいいじゃないかと気持ちを切り替えようとした。
考えている間に職員の朝会が終わっており教室へ向かう。
教室に入ると自然と窓際の席に目がいった。
《ちゃんと来ている》
教室に居る事に安堵したが出欠を取り始めた時に本郷の異変に気付いた。
いつもより僅かに前傾姿勢で顔の血色が悪い。明らかに体調不良だ。
すると目が合った本郷が小さく手を振っている。
《あいつ!!体調が悪そうなのに無茶して笑ってやがる!!》
つい表情が険しくなる。
保健室へ連れて行かなくてはと考えていたが、ホームルームが終わるとすぐ本郷は姿を消し捕まえられなかった。
その後も休憩時間毎に本郷の元へ行こうとするが
そしてとうとう昼休みになってしまった。教室に行ったが見当たらない。
他を探すかと不意に窓の外に目をやると校舎の隅に影がある。
あそこの奥は花壇だ。もしかしたらーーー
花壇へ行くとベンチに身体を投げ出した状態の本郷がいた。寝ている様だ。
ここは光が届かず僅かに冷える。そんな中寝るなんてと慌てて自分の上着をかけた。
そして熱があるか確認するため額に触れる。
かなり熱い。
額から手を退けようとすると急に掴まれた。
目が覚めた本郷は手が冷たくて気持ちいと言って頬に寄せている。こいつ自分が熱いという自覚がないようだ。
相当怠そうなため背負おうとしたが本郷が嫌がる。子供じゃ無いんだからと。
だがそんな見栄を張っている場合じゃない。
だから要望通り横に抱えることにした。すると何故か慌て出す本郷。
訳が分からず顔を見るとーーー泣き出した?!何故?
「ちょっ、待って下さい!!私重いですし、それに周りに見られちゃってる、、、先生注目浴びるの嫌、でしょう?
この後また話し掛けるなって、、、絶対言う。そんなの、、いやー」
子供の様な口調だ。弱ってる所為だと分かってるがこれは、、。
いや、今はそれどころじゃ無い。
本郷は『もう話し掛けるな』と以前言った事を気にしていたらしい。あの時はかなり強い口調で言っていた。それが弱っている今になって効いてきたようだ。
体調不良を押し隠したのも頼ろうとしないのも、泣いたのも、つまりは全部俺が原因だ。何でもないように過ごしている姿を間に受けて追い込んでしまった。
はぁ、自分が不甲斐ない。
だが反省するのは後だ。本郷をこれ以上泣かせたくない。
安心させたくて心からの言葉を言った。
「、、、話し掛けるななんて絶対言わねーから、だから辛い時は俺を頼れよ。」
社交辞令じゃない。俺の本心だ。
それが伝わったのか本郷はコクリと頷いた。
それに安堵し歩みを進める。周りの生徒達が何事かと騒いでいるが全く気にならない。何を言われようが問題ない。
すると本郷が何かボソボソ呟いている。
耳を澄まして聞いてみる。
「ふふっ本当はお姫様抱っこ恥ずかしい。おんぶを断る口実だったのに。
でもはじめさんにしてもらって、、、恥ずかしいけど大好きになりそう。またして欲しいなぁ。、、、でも他の人にしたら嫌。私だけ特別がいい。」
カーッと熱が顔に集まる。フラフラするが何とか歩く。
本郷ーー熱があるのに、いや熱があるから余計絶好調だなーーー!!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから何とか保健室へたどり着き本郷は保健医と自宅へ、俺は保健室のベッドへ倒れ込む。
そして布団を頭までかぶり
「可愛すぎかーー!!」
俺は誰も居ない保健室で吠えていた。
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