第17話 何から手をつける?

 さて、どうしたものか。


 空太との勝負を一度受けてしまった以上、俺も正々堂々闘う。しかし、かなり俺に有利な勝負であると勝手に思い込んでいたが、園田さんという最強の助っ人を携えた空太は、すでに俺の先をいっている可能性が出てきた。


 うかうかしていられない。今日からテスト期間だと言うのに、数日前に行われた小テストで結果を出しているのだから、すでに勉強を開始しているということだ。この勝負に全身全霊をかけるくらいの気概を感じる。


 まずは何から手をつけるべきだろう。中間テストだから主要教科だけだけど、それでも多い。


「んー……」


 テストの順位は平凡だけど、科目ごとに見ればかなり偏った成績をしている。

 英語だけは唯一得意科目と言える。学年でも10位前後をキープするくらいには、得意だ。だから英語は単語を復習するくらいで事足りるはずだ。


 国語は平均よりも少しできるくらい。理科、社会は平均か少し悪いくらいだ。


 問題は……。


「数学、だよなぁ……」


 数学に関しては、数学I、A共に悲惨だ。空太のことをバカにできないくらい苦手だ。

 

 なんとかしないといけないことくらいわかっているが、どうやら俺は数式を見ると手が勝手にペンを持つことをやめ、教科書を閉じ、スマホを触り出してしまう病にかかってしまったらしい。

 不思議だ。本当に不思議だ。誰か治療してくんない? 


「んー!」


 まだ何も勉強していないというのに、凝り固まった体をほぐすかのように伸びをした。


 現実逃避なう。


「なーに、してるの?」

「──ッ!? なんだ、凪沙かよ」


 突然俺の視界に凪沙が現れたものだから、びっくりしすぎて椅子から転げ落ちるかと思った。あぶねぇ。


 リビングで勉強していると、こういうこともあるんだな。気をつけよう。


「わたしじゃ、ご不満?」


 凪沙は、ぷくぅっと、頬を膨らませて、俺をじーっと見てくる。


「そういうわけじゃねぇよ。……あっ、凪沙って頭いいんだっけ?」

 

 凪沙の成績事情は詳しく知らない。過去に俺よりは頭がいいとか言っていた気がするので、一応訊いてみることにした。まぁ、園田さんの成績を聞いてしまった以上、いくら頭がいいと言っても驚くことはないだろうな〜。

 なんて言ったって、園田さんは学年順位30位以内に入るくらいの強者だからなー。すげーよなー。空太ずりーなー。


「え、うん。中学最後のテストは、一桁だったよ」

「やっぱ、そんなも……はっ!? 嘘だろ? 嘘だよな? 嘘だと言ってくれ!」

「な、なんなの。そんな食い気味で。本当だからね。だって、わたしAクラスだよ」


 うちの高校のAクラスは、成績上位者が集まるようになっている。それ以外のBやCといったクラスに学力面での差異はないが、Aクラスだけは格が違う。最難関大学志望はもちろん、医学部志望も多数いるという噂だ。


「凪沙ってAだったのか……」


 きっと園田さんもAクラスなのだろう。凪沙とも仲がいいらしいし。


「わたしのクラスも知らないなんてどれだけ興味ないの。はぁ」

「普通知らないだろ。だって、学校では関わらないようにしてるわけだし」

「そういうことにしといてあげる」


 ここで一つの選択肢が生まれる。


 凪沙に勉強を教えてもらうというのは、どうだろう。


 学年でもトップクラスに頭がいい凪沙に勉強を教えてもらうことができれば、俺も空太に太刀打ちできるかもしれない。おそらく、このままだと俺は負ける。きっと空太は平均以上の成績をとってくるはずだ。今日見せてもらった小テストで確信した。

 そもそも、運だけで受かるほど中学受験は甘くない。土台となる実力があって、最後は問題の相性といった運に左右されるかもしれないが、それなりに勉強できないと合格までたどり着けないものなのだ。


 中学受験を制した時点で、空太も地頭はいいのだろう。短期間勉強を教えてもらったからと言って、すぐに結果を出せるものでもない。それをやってのけたのだから、地頭がいいことの裏付けはできている。今までは単純に勉強をしていないから、成績が悪かっただけ。勉強すれば結果がきちんとついてくるのだ。


 ただのバカであって欲しかった……!!!


 空太を見直しつつも、焦りを覚える。


 きっと一人で勉強していても、いつか壁にぶち当たる。凪沙に頼れば、解決できるかもしれない。


 しかし!!!


 凪沙を頼るということは、凪沙に貸しを作るということ。


 チラッと凪沙の方を見る。


「はにゃ?」首を傾げて、一言言い放った。


 だから、もう古いって!!!


 考えている時間の方がもったいねぇ!


「凪沙!」

「は、はい!」

「その……勉強を教えてもらいたいんだ」


 無理難題を後々要求されるかもしれない。そうだとわかっていても、俺は目の前の空太との勝負を優先することにした。

 男と男の勝負だ。受けた以上は負けるわけにいかん。


「いいけど」

「え、いいのか?」

「うん」


 何も言ってこない……? 絶対に何か条件をつけてくると思ったが、凪沙のことを悪徳業者か何かと勘違いしていたようだ。すまん。


「さんきゅーな」

「そーのーかーわーりっ! テストが終わったら、わたしにパフェ奢ってね?」


 だよなー! 知ってた知ってた! 凪沙が何も要求してこないなんてこと、天地がひっくり返ってもありえねぇ! 

 

「……わかった。テストが終わったらな」

「決まりね!」


 まあ、元々何か言われることを承知の上で、お願いしていたわけだし、パフェくらい奢ろう。でも、空太との勝負に負けた場合、俺は二人に奢ることになるのか……。

 金銭的にも俺は負けるわけにいかない。パフェ代という代償を払うのだから、何がなんでも勝つ……!

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