第16話 おバカさん
「テスト期間だからって寄り道するんじゃないからな。勉強しろよ、勉強」
担任は厳しい顔をしながら、教室を出て行った。担任が出て行った瞬間、教室が一気にざわつき始めた。
今日から俺たちの高校はテスト期間に入る。高校に上がってから初めてのテストにはなるが、昨年度から高校内容を勉強していたし、特に今までと変わるところってないんじゃないかなって思ってる。
普段通り勉強をし、普段通りの平凡な点数を取る。今回もそんな感じだろう。
「陸人って勉強得意だっけ?」
ざわつく放課後の教室。俺の元までやってきて空太は言った。
「空太よりは」
「ひどいなー」
「お前は赤点常習犯だろ。よく受かったよな、うちの中学」
一応進学校と呼ばれる部類に属する高校に俺たちは在籍している。自称かもしれないが、先生たちは進学校であると信じてやまない。
俺と空太は中学受験を制して、うちの学校に入学したわけだが、空太は裏口入学を疑うほどに成績が悪い。俺も人のことは言えないレベルだけれど、空太よりはマシだ。
「俺、運だけは人よりいいからね〜」
「いや、自慢することじゃないからな。ちゃんと勉強しないと留年だってありえるんじゃないのか?」
「……りゅ、留年?」
そんなこと頭になかったと言わんばかりの驚愕っぷりに、俺も驚愕してしまう。
「あぁ……留年。もう一年、高校一年生やりたいのか?」
俺はあえて重々しい雰囲気で言う。
「……悪くない、かも」
「は?」
「だってさ、ずっと一年生なら受験のこと一生考えなくて済むじゃん! 俺、天才だと思わない?」
バカだ。とことん、バカだ。
天は二物を与えず。空太には誰もが羨むほどの容姿があるというのに、誰もが鼻で笑うほどの頭しかない。
実は天才なんだけど、完璧超人すぎてもみんなから妬まれるから、バカを演じているだけ、みたいな超かっけぇキャラじゃなくて、本当に、根っからの、正真正銘のおバカさんなんだ……。
「え、陸人どうして泣いてるの!?」
「いや、俺はお前の将来が心配で……」
「俺、なんか変なこと言った?」
当の本人はいたって真面目に考えた上での発言だったのだろう。
「うん。変なことしか言ってない。多分、変なこと以外喋ることができない人間なんだよ、空太は」
「えぇー。ひどいなぁ」
「お前、留年したら園田さんが先に卒業することになるぞ」
「……確かに!!! 絶対留年したらダメじゃん!」
当たり前のことを当たり前だと気づく。それだけでも進歩だ。
「その通り。じゃあ、早く勉強してこい」
「あっ、そうそう。陸人に言いたかったのは、俺の成績の話なんかじゃなくてさ。次のテスト勝負しよう!」
「学年最下位筆頭の空太と?」
「今回は自信あるんだよねぇ」
何かを企んでいそうな悪い顔をしている。今回のテストからいきなり点数が伸びるとも考えにくい。
裏で勉強しているという話も聞かないし……。
まさか──
「お前、カンニングだけはやめとけよ……留年の前にこの学校にいられなくなるぞ」
「ちっがーーーう!!! 菜月が勉強得意だから教えてもらうだけ!」
安心した。あまりにも勉強ができないせいで、悪の道に進んでしまったんじゃないかという考えが浮かんでしまった。早とちりに終わって良かった。
「園田さんは勉強得意なんだ」
「中学最後のテスト、30位以内だったらしい。怖くない? 本当に俺の彼女なのって感じ」
「ガチで頭いいじゃん」
一学年で400人ほどいるうちの学校で30位以内に入っていれば、難関国公立大学も視野に入ってくるレベルだ。
「でしょ? 俺なんて396位だったのに」
「逆にすげぇ」
マジで最下位争いしてんじゃん。もし欠席した生徒がいた場合、最下位説もあるな。
「園田さんがいるから勝負をしかけてきたのか」
「あったり〜。負けた方が
「いくら園田さんが教えてくれると言っても、負ける気しないしいいよ」
金丸ラーメンとは、俺たちの高校から歩いて10分ほどのところにあるラーメン屋さんだ。結構美味いので、空太とも何回か行ったことがある。
「俺も負ける気しないんだよね〜」
「その謎の自信はどこから来るんだよ」
「これ見て」
そう言うと、空太はカバンの中をゴソゴソ探り始め、「あったあった」と俺に今日返却された小テストを一枚見せてくれた。
どれどれ──
「おまっ……うそ……だよな?」
「ガチでーす。約束したからね! じゃあ、菜月と帰るから!」
小テストをカバンに直して、教室を出て行った。
やばい。負けるかもしれない。
小テストとは言え、8割を超える正答率だった……。俺は6割しか取れなかったと言うのに……。
俺も久々に勉強に本腰を入れる必要があるみたいだ。
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