第13話 合コン
部屋に入ると、他校の男子が率先して、司会役を務めてくれたので、スムーズに自己紹介まで進んだ。料理も一通り注文し、それぞれが好きなように話し始めることになった。
今回集まったのは計12人だ。男女比1:1の合コンがスタートした。
12人が入れる部屋ともなるとパーティルームに案内されることになった。席順としては基本男女が交互に座っている。
空太の隣にはしっかり園田さんがいた。一方、俺の両隣には他校の女子生徒が座っていた。
一人は黒髪ロングの清楚な感じで、もう一人は金髪でギャルのような風貌の人だった。黒髪ロングの人は、
理由は簡単だ。目の前に凪沙が座っているのだから。
凪沙の両隣にも知らない男子が二人座っている。傍から見れば彼らと会話しているように見えるけど、凪沙が彼らとの会話に集中していないことくらい俺にはわかる。
誇張抜きで5秒に1回のペースで視線を俺の方に向けられている。それも憎しみが込められた視線を。
せっかく彼女を作るチャンスだというのに凪沙のことばかり気にしていては、目の前に転がっているかもしれないチャンスを拾い損ねる可能性がある。
よし、一旦凪沙のことは忘れよう。咎められるのなら、家でもいいじゃないか! それに俺だけ責められるのは、おかしいわけだし。
俺の頭の中から凪沙の存在を意識外へ追いやり、合コンに集中することにした。
俺は左隣に座る畠田さんの方を見た。
「あのー、陸人くんって呼んでもいいかな?」
目が合った瞬間、畠田さんの方から話しかけてくれた。
「は、はい! えっと、俺はなんて呼べばいい?」
「
屈託のない笑みを浮かべて、少し前のめりになり彼女は答えた。
や、やばい。緊張がピークに達しそう……!
「え、……絵梨、さん」
「ふふっ、同い年なんだし『さん』付けしなくていいよ?」
「そ、そーりー。おーけー」
「どうして、片言なのっ。陸人くん面白いねぇ」
絵梨は愉快そうに笑った。ただ笑われているだけだけど、それでも楽しんでくれているのなら嬉しい。
「ねぇねぇ、陸人くんはどういう子がタイプなの?」
あなたです!!!
そんなことを言える勇気があるはずもなく、俺は無難な、けれどそれとなく相手にわかる特徴を伝えることにした。
「髪が長い子。あと、よく笑ってくれる子がいいな」
「へー、そうなんだぁ」
事あるごとに笑顔を向けてくれる彼女を見ていると、好かれているんじゃないかと錯覚してしまう。
いや、もしかして本当に好かれている可能性も……?
いやいや、まさかなー。
「わたしはねぇ、ふふっ、ひみつ」
うん。好き! 君のことが好きだ!
俺は彼女と出会うためにこの合コン誘われたに違いない。運命ってやつだ。
どうやって告白するかを考えないとな……。彼女がどう思っているかなんてわからない。けれど、感触は悪くないと思っている。俺の言動次第では付き合える可能性もあるんじゃないだろうか……!?
「あ、一つ聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」
絵梨は少しモジモジし始めて、上目遣いでたまにこちらをチラッと見る。
え、なになに? なんか恥ずかしそうにしてない?
もしかして、告られる……!?
おいおい、みんないるんだぞ……! 俺の心臓の鼓動が加速する。
「く、空太くんと友達なの……?」
……空太? 誰?
「え、あー……そうだけど」
「空太くんって、ここに来てるってことは彼女いないのかな……? あの見た目でいないとかありえないよね……? あとずっと気になってるんだけど、隣の子とすっごい仲も良さそうなんだよね。彼女だったりして……でも、彼女がいないんだったら、わたしにもチャンスがあるのかなって! ねぇ、陸人くんは、空太くんの好きなタイプとか知ってる……?」
うん。だよね! 知ってた知ってた! 俺は全てを察した。
さっき俺に好きなタイプを焦らした意味はなんだったんだよ!!
「……ど、どうだろなぁ……そんな話したことないからさ……」
俺はスッと立ち上がり、「飲み物入れてくる」と言い、コップも持たずに部屋を出た。
ドリンクバーとトイレの通り道を避けて、誰も通らないであろう店内の最奥の壁にもたれかかった。
合コンが始まって、まだ数十分しか経ってないんじゃないだろうか?
告白する前に、失恋したわ!!!!!!!!
早くも失恋してしまい、あの場にい続けることができなくなってしまった。あの場から逃げ出したかった。
俺に見せてくれた笑みも全て空太の情報を聞き出すためだったのかと思うと、泣けてくる。あぁ、誰もいないし泣こうかな。
恋は盲目とは良く言ったものだ。俺は自分に都合の良い部分しか見えていなかった。
彼女は俺と会話している中でも、しっかり空太の方を見ていて、隣の園田さんとの関係性までズバリ当てていた。女の勘というやつだろうか?
彼女が空太の方を見ていることに俺は一切気づかなかったし、俺のことが気になっているんじゃね? とかいう思い返すと、超絶恥ずかしい勘違いまでしていた。
「あああぁぁぁああぁぁああぁぁあぁぁ」
別に誰が悪いとかない。強いて言うなら、勝手に盛り上がっていた俺が悪い。だから、ぶつけようのないこの気持ちを全て声に出して、吐き出すことしかできなかった。
カラオケはいい。周りの音がうるさすぎて、俺のデカいため息をかき消してくれる。
この環境のせいもあって、誰かが俺に近づく足音なんて全く気づかず、肩を叩かれて初めて近づいて来た人物に気づくことになった。
「……凪沙?」
「フラれたくらいでなに暗い顔してんのよ」
「いや、フラれたときが人生で一番暗い顔するだろ。俺は間違っていない。てか、なんでフラれたこと知ってんだよ。いや、フラれたというより、失恋したというか」
失恋したときって、自分の周りだけが光を失ったみたいに感じる。ブラックホールに吸い込まれたように、一生抜け出せないんじゃないかと。
きっとそんなことないことはわかっている。時間が解決してくれるものだ。だけど、失恋の瞬間はどうしてもそう思わざるを得ないんだ。
「はぁ。見たらわかるよ。女々しい要素がなんかわかった気がする」
「うっ……これ以上俺にダメージを与えないでくれ……」
「ごめんごめん」
平謝りで、全く悪いと思っていない口ぶりだけど、今はそんな何気ない会話に救われる気がする。
「──なんか凪沙と話してると、元気出るな」
自分でもびっくりするくらい素直な気持ちが言葉になった。
「えっ? そうかな……?」
「うん。さんきゅーな。わざわざ心配して来てくれて」
「べ、別に心配して来たわけじゃ……どうしてるかなー、からかってやろうかなー、って思って来ただけだし。だから、まぁ、うん。帰るよ」
凪沙は髪をなびかせて、踵を返す。
「あぁ」
俺も凪沙の後を追って、歩き始める。
同じ道を通って部屋に戻るのに、足取りは軽かった。
「一つ聞いてもいいか?」
「ん?」
「俺って、女々しい?」
「うん」
うっ。
彼女を作りたいのなら、まずは男らしくなるところからだろうな。人並み程度のデリカシーを身につけたと思えば、次なる課題が出て来てしまった。
「あと、簡単に落ちすぎだから」
「……すみません」
「わたしは陸人が悪い女に捕まらないか不安だよ」
「そのときは凪沙がチェックしてくれよ」
「そだねー」
凪沙は興味なさそうに言った。
「あ!」
凪沙は何かを思い出したかのように、目を見開いて振り返った。
「帰ったら、みっちり話をしようね。黙って合コンに参加したもんね、陸人」
「は、はい」
思い出さなくてもいいことを思い出してしまったみたいだ。
今夜は眠れそうにないな……。
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