第12話 週末来る

「お待たせ〜。待った?」

「あぁ、めちゃくちゃ待った」


 空太は安定に爽やかオーラ全開だ。


「ごめんごめん。じゃあ、行こー!」


 合コンが開かれる場所は、カラオケだ。空太とはその最寄り駅で合流した。

 基本的に通学時に利用する駅以外降りることはないので、とても新鮮で少し大人になった気分になる。


「園田さんと来なくてよかったのか?」

「菜月は友達と来るんだってー」

「園田さんの友達も参加してるんだ」

「そうそう。陸人に朗報なんだけど、菜月の友達の可愛い子が参加するらしいよ」

「園田さんが言うんだから可愛いんだろうな」


 楽しみすぎる……!!!


 本当は心の中で歓喜の声があがっているというのに、それを表に出さないように声のトーンを下げて、返事しておいた。


 カラオケに一歩、また一歩近づくにつれて少しずつ緊張してきた。


 そういえば、今朝ワックスで髪をセットしているところを凪沙に見られ、訝しげな目で見られた。


 男子と遊ぶだけで、しっかり身だしなみを整えている俺を不審に思ったのだろう。

 凪沙も友人との予定があるらしく、俺より先に家を出た。朝は時間がなかったおかげで、尋問を受けることはなかった。


 何度も鏡を見てセットした髪に、何時間もかけて選んだ服。チャラすぎない程度のアクセサリー。俺は万全の準備をして合コンに臨む。まあ、これだけ準備をしたところで、素材が良すぎる友人には勝てないわけだけど……。


 空太という別次元の存在を除けばそれなりに合コンという戦場でも闘えるんじゃないかと思っている。


 可愛い子が来るらしいし、あわよくばその子と──


「陸人、口元ゆるんでるよ」

「おっと、俺としたことが……」


 声には出なかったが、顔には出てしまったようだ。


「頻繁にゆるんでるけどね。どうせ合コンのこと考えて、ニヤついてたんでしょ」

「……」


 え、俺の脳内覗けんの? それとも『君のことならなんでもわかっちゃうんだからっ♪』っていう理想のヒロイン?


「わっかりやすいな〜。俺からのアドバイスとして、陸人は顔に出やすい! 以上!」

「素晴らしいアドバイスをどうも」

「俺は菜月以外見えてないからな〜!」

「はいはい。彼女持ちはいいよな」

「今日作ればいいんだよ!」


 よく考えてみると、女子全員が空太のことを好きになってしまうんじゃないか……!?


 確実に今日の集まりの中でも一番顔がいいのは空太だ。見てくれは悪くないという評価を貰っているが、隣で歩く空太の方がかっこいい。


 空太を褒めるのは癪だが、男の俺が見てもかっこいい。髪は茶髪の爽やかイケメン。しかも、髪がクルクルしてる。いわゆる、パーマというやつだろう。

 男性アイドルグループの一人と言われても違和感がないくらい、王子様のような見た目だ。


 まあ、話すと王子様要素はゼロで、バカなんだけど。


「あそこだあそこ」

 

 空太が指差して言った。


 駅から歩いて数分のところにカラオケは見つかった。

 カラオケの前には数名の男女の姿が見えた。園田さんの姿が最初に目に入った。


「もう園田さんたち来てるな」

「そうみたいだね〜。俺たちが最後みたい」

「誰かさんが遅刻したからな」

「ごめんってー。ギリ時間には間に合ってるし!?」


 腕時計をしっかり見せてきた。


「ギリなギリ」


 園田さんが俺たちに気づいたようで「おーい!」と大声で叫んだ。


 空太は幸せそうに手を振っている。


「ん?」


 あっれれ〜? 


 園田さんともう一人見覚えのある顔が……。


 いやいや、見間違え見間違え! 


 目をこすって凝視してみる。


「空太」

「なに?」

「園田さんの隣って……」

「多分あの人が菜月の言ってた人だと思う! 結構可愛いね!? 俺は菜月が一番だけどねー」

「ははっ」


 乾いた笑いしか出てこなかった。


 どこからどう見ても凪沙だ。別人だと自己暗示しても、あの顔は凪沙以外にありえない。


 凪沙が園田さんとは友達とつい先日言っていたじゃないか……。

 失念していた。園田さんが可愛いと評する時点で気付くべきだった。ジェットコースターのように俺のテンションは急降下した。


「やっほー。お待たせしました!」


 空太が元気良く挨拶をしたので、俺も軽く挨拶しておいた。


 一応凪沙の方にも会釈しておいたが、凪沙の顔が明らかに引きつっている。それはもう見事な引きつりようで、口角を何者かが上に引っ張り上げているみたいだ。


 ここで選択肢は二つあり、知り合いとして接するか、初対面として接するかだ。

 

 凪沙の方をチラッと見ると、鬼の形相に変わっていた。


 きっと友達と遊ぶと言った俺を責めたいのだろう。しかし、それに関しては凪沙も同じで、友達と遊ぶとしか俺も聞いていなかった。


 一方的に睨まれる筋合いがないような気がしてきたので、鬼の形相返しをしておいた。


「陸人怖い顔して何してんの? 入るよー」

「あ、あぁ」


 空太の一言で、睨み合いは終わった。

 

 とりあえず、初対面という体で接することにしよう。タイミングを見計らい、凪沙と一度話さないとな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る