第7話 談義
「おっはよー!」
俺が教室に入った瞬間、教室中に響き渡る大声で挨拶してきたのは、友達の
「お前の声もう少しボリューム下げられないのか?」
「うん!」
小学生のような純粋な笑顔。眩しい。眩しすぎる。
陽のオーラ全開すぎて、たまに直視できないことがある。こいつと話すときはサングラスをかけることをオススメする。
「空太〜!!!」
今度は空太に負けないほどの声がこだまする。朝っぱらから騒々しい。
教室中の視線が廊下の方へ集まった。
「おっ、菜月じゃん。じゃあ、また後でなっ!」
そう言って爽やかに
空太は明るくて、バカなやつだけど、顔はいい。クラスどころか学年で一番の顔面偏差値を誇っている。
そんな空太に彼女がいないはずもなく、隣のクラスの園田さんとお付き合いをしているようだ。空太に彼女がいることを知ったときのクラスの女子たちの反応は多種多様で空太の人気を実感した瞬間だった。
残念がる子もいれば、祝福する子もいる。はたまた発狂する子もいて、教室中が異様な雰囲気に包まれた。あれから数ヶ月経ったことで、今ではかなり落ち着き、目の保養として彼女たちは見ているようだった。
クラスの男子たちの反応は、学年でトップクラスの容姿である園田さんが付き合ったことにショックを受けている様子だった。
「朝っぱらから熱いね〜。熱すぎるね〜」
俺の目の前に座る男子が言うと、数人の男子で彼らを羨ましがる談義が始まった。空太たちが妬みや僻みの対象になることはなく、羨望の対象になっているのはあの二人の人柄の良さもあるのだろう。
談義が面白かったので、聞き耳を立てていると──
「園田さんも可愛いけど、俺はやっぱり柏木さんかなぁ!」
「おっ、俺もだ俺も! 可愛いよなぁ。可愛いって言葉が一番似合う気がするぜ」
ん? 柏木? 凪沙か……?
いやいや、この学校にはもう一人柏木さんがいるのかもしれない。そうに違いない。確かに凪沙は可愛いのかもしれないけれど、そんな会話の中で出てくるほど可愛いかぁ?
「いやぁ〜、柏木凪沙って彼氏いんのかな!?」
柏木凪沙ってあの柏木凪沙か? 俺と幼馴染である柏木凪沙のことか……?
「そりゃあ、あんなに可愛いんだからいるんじゃねぇの? なぁ、荻原。お前は誰派だ?」
「──ッ!? ……俺?」
まさかこっちに話を振ってくるとは思わず、変な反応をしてしまった。
普通に話しかけてきてるけど、俺ら一回も話したことないからな? コミュニケーション能力秀で過ぎだろ。
俺が持ってるこの男に対する情報は、野球部ということだけ。綺麗な坊主頭だ。
「なんだよ、そんなにびっくりすることかよ。三大美人の誰派なんだよ」
「三大美人……? 小野小町?」
「なにボケてんだよ。うちのだよ。うちの学校の三大美人のことだよ」
うちの学校にそんな括りがあったなんて知らなかった。
もしかして、凪沙もその中に……?
「三大美人って誰?」
「三大美人を知らずに今日まで過ごしてきたのか!?」
坊主頭は俺の肩を掴み、激しく揺すった。野球部だからか、力も強く、意識が遥か遠くへ旅に出てしまいそうだった。
「あ、ああ、そうだけど」
俺がそう言うと、やっと手を離してくれた。
「損してる。萩原……お前は損してるぞ。教えてやろう。一人目は宇佐美の彼女である、園田さんだ」
園田さんは予想通りだった。俺も彼女に対する第一印象は可愛いだった。
空太たちが付き合ったとき、ただ単に学年でトップクラスの容姿だから男子たちがショックを受けていたのだと思っていたが、三大美人の一人に挙げられていたのか。
「二人目は、二年生の先輩、
「誰?」
「お前は本当に何も知らないんだな。生徒会長だよ」
生徒会長だと……?
「あっ! あの人か」
「そうだ。あの人だ」
二年生で生徒会長を任せられるなんてすごい人だなぁ、しかも綺麗な人だなぁ、という第一印象を受けた人だ。生徒会長の名前を覚えていなかったのは、申し訳ない。
「三人目は……?」
「まあまあそう急かすなよ」
「誰だよ」
「三人目はなぁ、柏木さんだ!」
わかってた。納得はしてないけど、わかってた。
いや、納得してないというより認めたくないという気持ちの方が強かった。
「へ、へー」
「反応薄いな。萩原は柏木派ではなさそうだな」
どんな反応すればいいのかわからないのだ。昨日から同居し始めた幼馴染が校内でトップ3に入るくらい可愛い人だったなんてどう反応すればいい?
凪沙に彼氏ができたなんて噂が流れて、相手が俺ということが知れ渡れば、身の危険を感じる。視線が痛い毎日を送ることになるんだろうな……。
そんな生活まっぴらごめんなので、何としても学内の人たちにバレるわけにいかないな。
「柏木さんだけは絶対ない。うん。絶対」
うっ。なぜか寒気がしたが、気のせいだろうか?
「お前見る目ねぇな〜。じゃあ、誰だよ」
「春島先輩だっけ? あの人かな」
幼馴染の名前を出すのは当然羞恥心があるし、変な噂が立っても困る。園田さんは友達の彼女だ。消去法と言ったら失礼だが、俺が口にできるのは生徒会長さんだけだった。
「桜先輩も美人だからなぁ〜! うんうん。お前は話のわかる奴だ」
なぜか目の前の坊主は満足げだった。さっき見る目ないとか言ってたくせに、二秒で意見を変えてきたが、悪い人ではなさそうだ。
向こうは名前を覚えてくれていたのに、俺が覚えていないのは失礼に値するので、どこかのタイミングで坊主の名前を仕入れとこう。
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