11 忠誠の行き先

 女王は王子の傍へ駆け寄る。

「王子!」

 返事がなく、王子が死んでいると知った女王は絶叫する。

 歓声がざわめきに変わる。観衆や兵士には何が起きているのか、全く把握できていない。

「お前! 守護署の署員なら王、この国に忠誠を誓ったはずだ! それはわたくしや王子への忠誠でもある。それを破るのは死罪だ! 捕らえよ!」

 だが、誰も女王の命令に従う人間はいなかった。

「どうした? 誰か!」

「そうだ……言い忘れていた。ここに来る前、お前が命令し、シリルに毒を盛った家来を殺した」

 もうすぐ王城の中は大騒ぎとなることだろう。

 女王の家来が全員、死んでいるのだから。

「よくも!」

 女王は立ち上がり、ヘクサに手を振り上げる。

 女王の手が振り下ろされる直前、ヘクサはその手を掴んだ。

「う……ぐ……」

 女王はヘクサから離れようともがくが、ヘクサは離さなかった。

 女王の力が次第になくなり、その場に倒れる寸前、ヘクサは小さな声で呟く。

「私が忠誠を誓ったのは、シリルだけだ」

 ヘクサは手を離す。どさっと女王の重い体が地面に落ちる。

 やっと状況を理解した観衆が悲鳴を上げ、王城から逃げていく。

「手を上げろ!」

 ゆっくり振り返るとヘクサは兵士に囲まれていた。兵士は今にも火縄銃でヘクサを撃とうと構えている。その中にはあの兵士の二人――ロートとヴァイスもいた。

「ヘクサ……なのか?」

 ヴァイスの声が震えている。答える前にヘクサの顔がひび割れた。

 もう、時間がない。

(行かないと)

 一刻も早く、シリルのもとへ。

 ヘクサは高く飛ぶと、二階の窓へ飛び移る。木の扉の窓は開け放されており、ヘクサはそこから外へ逃げた。

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