12 君が好きだと何度でも

 シリルの葬式同様、雨が降っている。その中をヘクサは風の如く駆けていた。

 全身に蓄えた毒がヘクサ自身をむしばむことは分かっていた。むしばみ、壊すことも分かっていた。

 だからその前に、シリルを殺した人間を道連れにすると決めた。

 シリルが死ぬきっかけを作った王子。

 毒を売った男。

 シリルに毒を盛った女王の家来。

 シリルを殺した女王。

 そして、彼女を守れなかったヘクサ自身。

 どうしても、許せなかった。

 よろめきながらやっとシリルの墓の前に辿り着く。着いた途端、全身の力が抜け、ヘクサはその場に両膝をついた。

 完全に毒でむしばまれた体はもう回復しない。このまま死を迎えるだけだ。

(シリル……)

 貴女のこと、守れなくてごめんなさい。

 それだけじゃない。

 ヘクサにはずっと後悔していることがあった。

「愛している……」

 たった一言。

 その一言が言えなくてごめんなさい。

 混乱したのだ。シリルが死ぬと思ったら言葉が詰まって、声にならなかった。


 ごめんなさい


 その直後、ヘクサは完全に壊れた。粉々になったヘクサの破片は雨に流され、守護署の制服だけがその場に残った。


          *


 それから、兵士二人―ロートとヴァイスがシリルの墓場にある守護署の制服を見つけた。それで全てを悟った。

「ヘクサ……」

 ロートとヴァイスはヘクサが人間ではないことはうすうす感じていた。

 それでも、ヘクサはシリルに一途だった。

 初めて会った時にそう感じたから、規則違反と分かっていてもシリルに会わせたし、守護署を紹介した。

 二人にはいつか、幸せになってほしいと思った。

 それが、こんな形になるなんて。

「埋めてあげよう」

 ロートはそう言うと、シリルの墓の傍の土を手で掘る。

 ヴァイスは頷き、ロートと一緒に手で土を掘る。

 制服が入るまでに穴が掘れた後、ロートとヴァイスはヘクサの制服を埋めた。

「これで……ずっと一緒だ」

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