9 雨にうたれて

 シリルの遺体は王城から離れた都の辺境、墓場の一角に埋められた。

 その日はずっと雨が降っていて、参列者は皆、傘をさしていた。

 だが、ヘクサだけは傘をささずに最後まで葬式に参加した。

 シリルの遺体が墓に埋められ、参列者がいなくなっても、ヘクサだけはずっと墓の傍で片膝をつき、しゃがんで離れなかった。

 打ち付ける雨が激しくても、ずぶ濡れになっても、離れなかった。

 離れたくなかった。



 激しい雨音の中、ヘクサは聞いた。

「うまくいきましたね」

「シリル。あの娘、罪人の娘のくせに王子に手を出すもの」

 人間より耳がいいヘクサには今の言葉がはっきり聞こえた。

 そしてその声には聞き覚えがあった。

 一人はヘクサを離宮から疾病院に飛ばした女王だった。だが、もう一人の男は分からない。耳を澄ますと、女王が言う。

「誰も気づかないでしょうね。家来を使ってあの娘の食事に毒を混ぜたなんて」

 その言葉にヘクサは硬直した。

「女王様。代金の方を」

「待ちなさい。今払うわ。それにしてもいい毒だったわ。ありがとう」

 大量の金貨がこすれあう音。そして足音。

 静寂が訪れた後、ヘクサはやっと顔を上げることができた。

(病気じゃない? シリルは、殺された?)

 それにシリルは王子に手を出していない。実際に手を出したのは王子の方だ。

 それなのに、事実とは異なる嘘のせいで、シリルは少しずつ毒を盛られ、病気に見せかけて殺された。

 ヘクサは両手を握りしめる。爪が食い込み、掌から赤い液体が流れても、握りしめることを止めなかった。

 ヘクサは立ち上がると、耳を澄ませ、足音がした方角へ歩き出した。



 その後、ヘクサは姿をくらませた。

 守護署はヘクサを探したが、見つからないと判断すると解雇した。

 それから数か月は何事もなかったかのように平穏な日が続いた。

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