8 別れ

 シリルが疾病院に運ばれた。それは、彼女が病気になった事を意味していた。

 シリルは見るに堪えない姿でやってきた。

 美しかった白い肌はしわくしゃで、顔はやせこけ、青い目から輝きが失せていた。

 疾病院に運ばれた時点でシリルはかなり弱っていた。診た医師は原因不明の病として匙を投げた。

 ヘクサは時間が空けばずっとシリルの傍にいた。

 目が見えないのか、シリルはヘクサを見ることはなく、ずっと天井を向いていた。

 シリルは日に日に弱っていった。それに対してヘクサはどうすることもできなかった。

 そんなある日、シリルはぽつりと言った。

「わたし、死ぬのかなあ……」

 そんなことはない、ヘクサはすぐにそう言えなかった。

「悔しい」

 シリルは両目から一粒ずつ涙を流す。

「やっと外に出られたのに。これからだったのに。もっと生きたかった……」

 この時、ヘクサは果てしない無力感に苛まれていた。同時に治せない、何もできない自分が憎いと思った。

 ヘクサは黙ってしわくちゃになったシリルの右手を握りしめる。

 夜になって、シリルの手が完全に冷えるまでずっと。


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