画集完成の日
ついに、とうとう画集は完成した。
タカミはヨーコ、ピッケ、ミーニャに
「今日は5万ウーロンあげるから、ひとつ気合いいれてってね!」
「はい!」
激励の言葉をかける。あらゆるメディアで宣伝してきた。もらや国民的英雄なので画集をかわないわけがなかった。
朝から宅配便が届く。よーこ、ピッケ、ミーニャはすぐに店に飾り、タカコはサインする席に腰を落ちつたけた。もうすでにたくさんの客が長蛇の列を作っている。
アトリエは少し早く開店して、お客さんを引き入れた。ごったがえす中、ヨーコたちは懸命に画集を売り、タカミはサインをしていった。わずか2時間足らずで朝の便がなくなってしまった。
「昼の便も来るから気合入れてね!」
「はい!」
店員側は、お昼の便がくるまでに、うちわをあおいだりして涼をとっていた。
そして昼便、再び店員3人が店に並べると、お客さんがわいてくる。タカミはサイン室に座り、準備を整える。お昼も猛烈な客の数がアトリエを占拠していた。そしてなにより暑い。汗をかきながらみんな売り、サインをほどこしていった。朝の速達便の新聞号外が発売されていた。読むと、
「タカミの画集は、オリエンタルな雰囲気と自分の色を混ぜ、あらゆる場面で絵を昇華させていった画集という名の芸術点にまで達しているとの報がながれている。これにはタカミも満足した。新聞の影響力は大きい。当然ながら書店では全てベスト1になっており、勢いはとどまるところを知らなかかった。
「みんなに言ってなかったけどね」
ヨーコはタカミを見た。
「夕方便ってのが来るらしいのよ」
「えーっ!」
「だからお願いもう少し頑張って!」
タカミの言った通り、夕方便がやってきた。3人は一生懸命店に並べ、夕方客を狙ってサイン室に座った。
もちろん客はたくさん現れ、次々と画集を買ってゆく。タカミは最後の力を振り絞ってサインをしていった。最後の客が帰ると、どっとつかれた店員たちがいた。
「5万ウーロン引き抜いて、今日はゆっくりかえって。私ももう寝るわ」
3人の店員は指示通り5万ウーロンを手に入れ、帰ろうとした。
「あ、3人に画集をあげるね」
タカミは奥から画集を持ってきて差し上げた。
「え、これって…」
「大丈夫、ちゃんととっておいた分だから気にしないで」
「ありがとうございます!」
そういって3人はそれぞれ家に帰って行った。さすがにつかれたタカミはすぐ寝室に引っ込んだ。
「学校が着々と出来上がっていますが、学長はやはりタカミさんが?」
「いえ、美術大のタクト教授に学長をお任せしました。他にも教授をやといますけど、とりあえずそれで」
「やはり忙しいですか?」
「そうですね~」
「画集みました!色んな綺麗な色が融合していて、見ていて飽きませんでしたね~。やはり船旅が?」
「そうですね、」それぞれ都市に『色』というものがありましたから、だいぶ影響されました。特に神殿のフレスコ画なんかとてもきれいでした。でもなにより…」
「何より?」
「2回海で泳いだことですね!もう最高すぎましたから!えへへ…」
「トップ1おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「みごと民衆の期待に応えましたね!」
「そうだといいんですけど…」
「その中でも3回海難事故がありましたね」
「あの時は気が気でなかったですよ。画集には全くかんけいありません(笑)」
「それでもまた海の旅行にいきたいですか?」
タカミは少し言葉を詰まらせた…
「いきたいです!」
「トップ1おめでとう」
「紳士」
「私も画商として大金を手に入れたよ、ありがとう」
「どういたしまして」
「学校はのぞくのか?」
「ヒマがあればのぞきたいですけど、私がいなくてもよりよく育ってくれると信じてますから!」
「次の画集の目標はありますか?」
「それが、なにもかもやっちゃった感じがして、拍子抜けしているところです」
「ではまだ構想自体はないと?」
「ええまあそうなりますね」
「では次の画集はもっと高みをめざさないといけませんね!」
「そうなりますね!あっはは…」
度重なるインタビュー。しかし画集作業はなかったので、それほど苦にはならなかった。インタビューに答えていくだけ。それだけだった。
「今回の画集の成功を鑑み、タカミを国民栄誉賞とします!」
首相がラジオ演説で流れた時はお茶漬けをふいてしまった。国民栄誉賞!?
授賞式は首相の官邸前で行われた。
「君はみんなに色んな希望をくれた。ありがとう、そしておめでとう!」
広場に集まった民衆も大きな拍手を送った。
どうしたらいいかわからずに、タカミはにやけるだけだった。
1夜明け、沢山の報道陣がアトリエをかこんでいたが、タカミはいつものアトリエ服で掃除を出している写真を取られた。
「何か一言!」
「新聞社になにか一言ください!」
「今でも信じられないような出来事です。感謝しています。それでは」
タカミは早々アトリエに戻ってしまった。
「今回は何か特殊が画材をつかったのですか?」
「いいえ。いつもの画材です」
「それにしては美しい色をされてますね」
「絵具を混ぜるのに苦労しました。いい色ができないんでやけになったりしましたけど、結局いい色ができあがるとほっとしたりとか」
「苦労があったわけですね」
「はいそうなんです」
インタビューは続いた。でもそのうちみんな忘れていくだろう。冷めた目でタカミは見ていた。金庫はアトリエの別室に新しいのを購入し、お札を入れていた。
それからのタカミは元気がないようだった。なんでだろうと思っていたが、ヨーコには教えてくれた。
「もう何もかも手に入れてしまったようで、気がぬけているのよ。本当はずっと寝ていたいのにね。まあしばらくしたら熱もさめるでしょう」
そういうことだったのね。まあ分からなくもないけど。
とあるニュースにこんな記事があった。
タカミ、しばらくは寝て過ごす
どこかで拾ったんだろう。しかもこれは正式な取材じゃなく拾い記事だろう。
逆に安心した。まさしくそうなのだから。寝て何が悪い。夢からインスピレーションを出しているんだ。
しばらくしてから、タカミは世界地図や世界の都市の風景、船の安全度などを調査した資料を眺めるのに夢中になっていた。いつからだろう。自然に集め出した感じだ。夜も明かりを付けて眺めているようだった。一体どうしたんだろうと始めは思っていたヨーコだったが、1つの嫌な予感を思い起こさせた。
そこで夜、ヨーコはタカミの夜のアトリエに入り、真相を訊ねた。
「タカミさん。まさかまた船旅に出ようと思っているんじゃないでしょうね」
タカミは何も言わずにワクワクと資料を見ていた。
「タカミさん!」
「ヨーコ!最初の船旅は始めからおかしかったのよ!船の大きさ、耐久度!要は貧乏人クルーズだったってわけ!船の大きさを守れば安全な船旅ができるってことなのよ!」
「まさか…」
「ええ、かんがえてるわよ!新しい船旅。今度は豪華客船なんだから。そうだ、ヨーコもピッケもミーニャも今回行ってみない」
「なっ…」
「しかも第一チェックポイントがビーチっていうのも最高なのよねぇ…」
「…」
ヨーコは何も言えないでいた。豪華客船だとしたら、前回とはまるで違う船旅になるのは確かだった。
ヨーコは答えを言わずにアトリエを離れた。確かに魅力はある。しかもタカミがついているのだ。多分どんなことがあっても大丈夫だろう。しかし…。
次の日の新聞の一面に「タカミ、再び船旅に」という記事が出ていた。これは正式なインタビューではなく、おそらくアトリエの外の壁にはりついて特ダネを探している記者の、いわゆる盗聴記事である。
「こちらはモーニングラジオです。タカミちゃん、また船旅に出ちゃうの?」
「えへへ…まだ計画ですけどね計画」
「でも危険な旅になるんじゃないの?」
「今回は資金を倍払っていく豪華客船なので、安心なんですよ」
「嵐だってかんがえられるでしょう?」
「頑丈な船ですから大丈夫ですよ」
「学校を立てている最中でしょう。見守らなくていいんですか?」
「優秀な教授を立ててます。私がいなくてもなんとかなります」
「今度もやはり本気みたいですね!」
「好きなんですよね~船旅が。これはもうどうしようもありません」
「いーじゃないですか!」
ピッケは賛同した。
「船旅がどんなものか、わかってるの?」
「行ったことはないですけど、とにかくたのしそうじゃないですか!」
「私もあこがれちゃうなぁ…しかもタカミさんと同行だなんて」
「女神(ミューズ)みたいにいわないでよね」
「ヨーコさんはいきたくないんですか?」
「そういうわけじゃないけど、やはり何か危険なことがおこるんじゃないかと…」
「ヨーコさんは心配性なだけですよ!きっと楽しい旅になりますよ!」
「そうと決まれば、早速タカミさんに連絡しましょう!」
メイド達は、どうやらノリノリの様子だった。ヨーコをのぞけば…。
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