国民的アイドル

壮絶な船旅から一人だけ生還したイラストレータータカミは、もうはやら国民から抜群の知名度を得ていた。この間の広間の9万人集会では、

「絵を描く学校を設立して、それに寄付にします!」

と言って大いに盛り上がった。

「どこにたてつおつもりですか?」

「学長はやはりタカミさんなんですか?」

質問を照れ笑いで防いだタカミ。それ以来アトリエで絵を描いてる時間以外は雑誌の取材やインタビューが殺到していて、少し困ってる状態だった。

「新しい仲間、ミーニャね」

ヨーコとピッケに次ぐ第三弾のお手伝いである。

「よろしくおねがいします!」

これからいそがしくなるのは目に見えている。そこで早めに3人目を確保したというわけだ。

「よろしくね!」夜アトリエで作業しているので、どうしても睡眠時間が削られてしまうのも困った物だった。どうしてもインタビューを減らさないといけない。新聞記者のインタビューとラジオは優先的にOKして、それ以外は調整ということにした。影響力の問題である。

今日もインタビューで外に出るタカミ。その間メイド3人はアトリエを掃除していた。今日発売するわけではないけど、普段のこころがけである。


「ラジオ・モーニングムーン!

タカミさんが船旅で印象に残ってるのはどのシーンですか?」

「やはり2度泳いだことですね。エメラルドグリーンでね、最高なんですよこれが。」

「海水浴された時ですね」

「シュノーケリングすると、綺麗なサンゴがはっきり見えるんです最高ですよ」

「ラジオ・モーニングムーンCMをどうぞ」

「いやあいい感じですねタカミさん」

「そうですか?ラジオ慣れてないんですけど」

「そのままでおねがいします」


「…広場で言われた言葉、学校を作るとおっしゃってましたが、本当なんですか?」

「ええ、勢いで言ったわけじゃないですよ。土地さえ確保すれば、すぐにでも建築したい気持ちなんです」

「学長はタカミさんですか?」

「いちおうそうですけど、私も忙しい身ですから他の方に頼むかもしれません」

「絵を描く授業のみに特化した学校ですか?」

「基本的にそうですね、そうなります。授業料はただです」

「実際建設されるとワッと人が集まってくると思いますがいかがですか」

「ある程度試験はします。そこでふるいわけて入っていただく感じで」

「では学校、本気だと言う事ですね」

「はい」


「画集の進捗はいかがですか?」

「ぼちぼちといったところです

「まだかかる?」

「もう少し時間が必要ですね」

「すみませんどこでも聞かれることだと思うんですが」

「いえいえ。画集づくりは急いでません。寝なきゃいけないですし、生活に合った制作を心がけています。」

「いまインタビューがすごいですもんね」

「ええ」

「食べ物のほうはいかがですか?以前はたくさん食べてらしたとお聞きしたのですが」

「最近は小食です。食べてもお茶漬けとか、それくらいですね」

「へえ、そうなんですか」

「あんまり沢山腹に入れようとは思ってないです。すぐ眠くなりますからね」

「ああ、そういう理由がある」

「わたし、寝るのが大好きなんですよ。寝てる時の夢でインスピレーションにしてるくらいですから。ですからホントは沢山食べたいんですけどね。すぐ眠くなるし」

「しかしアトリエ優先ということですね」

「はい」


「タカミさんに国民栄誉賞のメダルの話がでてますが」

「とんでもありません。私はそんなえらい人間じゃないです」

「本当に?」

「ただ船旅で戦争に参加した時にもらった金のメダル、あれがすごくうれしくて飾ってますね。純金なんですよ。重いんです」


一通りインタビューが終わったタカミは、綺麗なお洋服からアトリエ用の服にすぐ着替えた。

「あとはよろしく~」

そう言ってアトリエ室にもぐっていった。あとは絵を描く時間である。静かな夜に音も出さず絵を描く姿は真剣そのものだった。そして疲れると、お茶漬けを食べて眠ると言うのがルーティーンになっていた。


紳士が退院して、夜だがアトリエに訪問に来た。

「紳士!足は大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。それより絵の出来はどうだ」

「かなり力入れてるからねーまあぼちぼちといったとこかしら」

「そうか、その調子で絵を描いて行ってくれ」

そう言って紳士は素早く消えてしまった。さすがは元忍者である。


「絵を描いてて思わず詰まることはないですか?」

「まあないってこともないですけど、今のところ大丈夫です」

「今回の画集は相当売れるでしょう?」

「アトリエが心配になるほどです」

「みなさん期待されていますからね。」

「ですが本音を言えばあまり期待は描けないでおいて欲しいです。その方がいいような気がしてます」

「期待をかけるなという方が無理な話ですよ。もう世論がそうなってますからね。新聞もインタビューが乗ってると大量完売です。」

「照れますね~」

「お昼のゲストはタカミさんでした。ありがとうございました」

「いいえこちらこそ」


ひとつのインタビューを終え、外でタピオカミルクティーを飲んでいた。そこへJK2人が現れてタカミさんを発見した。キャピキャピ言っていたが、

「タカミさんですよね?」

「はいそうですけど」

またキャピキャピ言い出した。そうして駆けていってしまった。しまった。顔も知られるようになってしまったので、ろくにそとでなにかしてるわけにもいかない。

タカミは焦ってアトリエに戻った。


アトリエに戻ると不動産屋さんがいた。言うにはある程度の大きな場所を確保したので学校につかってはどうかという話だった。駅から近いし、広さも充分ある。ここに決めた。早速建物を建てるよう計画を進めた。


今日も疲れた。しかしインタビューもそろそろ終わって来るだろう。あとはアトリエでこもる時間が増えるわけだ。耐え忍んでアトリエに向かった。ご飯はやはりお茶漬けだけだった。


「学校建設に乗り出したそうですね」

「はい」

「何百人くらい収容できそうですか?」

「2,300人くらいですね。1000人は無理」

「そこを試験で選別するわけですよね?」

「そうです。絵は才能の部分も大きいですからね。ただ私が学長に就任するのはむずかしそうです」

「どうしてです?」

「単に忙しいからです。でも信頼のおける人を配置します」


金庫は8個になっていた。買い増ししてきた結果だ。もう部屋が狭くて入らない。学校建設で金庫を減らせば何とかなるだろう。


それからはいつも通り、早めに帰ってきて、アトリエにこもる時間が多くなった。あまり長い時間をかけてもいられなかった。人はすぐ忘れる。旬な内に画集を出したかった。その日は早く取り掛かってから、寝室に入っていった。相当疲れているのだろう。顔を覚えられているのが痛かった。もうへんなところにはいけない。


そう考えるようになってから、タカミは余計に出不精になった。取材には行くが、真っすぐ帰ってきてアトリエに帰って来た。ヨーコはタカミが幾分ゲッソリしているようにも見えた。そりゃお茶漬けしか食べずに暮らしているとそうなるだろうが、少し心配だった。


「画集、半分完成記念!タカミさんラジオに生放送です。さて、いよいよ佳境にはいってきましたね」

「ありがとうございます。ファンのおかげです」

「やると、やる気がでるって言葉がありますが、まさにそうなんでしょうか」

「あながち間違ってはいないと思います」

「このスケジュールでいくと、あと2か月程で完成になるとおもいますが、遅れはありますか?」

「あくまで目安ですからね。絵によっても時間取られたりしますし、なんとも言えません」

「しかし半分終わったのは事実!おめでとうございます」

「これからですよ本番は」

「画集楽しみにしています」

「ありがとうございます」

「と、ここで一旦CM入ります」

「お疲れさまでした~」

「ご迷惑おかけしました」


タカミは夜のラジオに出演していた。体の負担も心配されたが、何とか無事に終わった。フラフラとアトリエに行くと、今日は絵を描かずに寝てしまった。相当疲れてしまったんだろう。目に見えて体力がなくなっていく。前はこんなことは無かった。

絵に対するプレッシャーもないだろうか。ヨーコは心配症なので、そんなことばかりを胸に秘めてしまった。

ピッケとミーニャは

「どうしたんですか?」

とほえほえに聞いてくるばかりだったが、

「なんでもない」

うそぶいた。


今日はめずらしく取材のない日だった。起きたタカミは、

「今夜は居酒屋にでもいこっか!」

とめずらしく誘ってくれた。最近本当に珍しいことである。断る理由もなく、メイド3人で居酒屋に行くことに決めた。逆に言うと絵は順調という事もありえた。もしそうだったら良い事だ。

夜は居酒屋に行って美味しい物を沢山食べた。昔に戻ったようでヨーコはとても嬉しかった。


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