あこがれのビーチ
船に7日間揺られていい加減外に出たくなっていたところである。船員が「次は、ビーチ、海ですよ~!好きなだけ泳いでください、満喫してください!あと少しですからどうかお待ちを」
と叫んでいた。いいぞ!どれくらいぶりだろう海で泳ぐのは。本当にやっとという感じだった。他の船乗客も喜ぶ人が多かった。船が港に着くと、急いで皆水着に着替えた。外ではビーチサンダルやビーチボールも売っている。さっそくタカミは船を出た。エメラルドブルーの美しい海である。タカミは足を少し付けてみた。冷たい。でも気持ちがいい。そのまま平泳ぎで向こうへ向かっていった。それからはひたすら泳ぎまくった。途中イカは食べたが、それ以外はずっと泳いでいた。シュノーケリングもしてみたが、綺麗なサンゴとカクレクマノミが大量に泳いでいる。海が綺麗な証拠だ。これでもかといわんばかりのはしゃぎっぷりに、海の家の人も軽く引いてたのではないだろうか。途中知らない女の子とビーチボールで遊んだりもした。
タカミはやっと船旅に出て良かったと思う。インスピレーションもわんさか沸いて来る。ちょっと前まで戦争してたとは思えない変わりように、タカミは満足していた。真っ黒になったタカミを見て
「日焼けクリーム塗らなかったの?」
と聞かれたが、そんなものはなから頭になかった。
スイカ割もした。多いに船客の中で盛り上がっていた。
そして夕方は船に戻ってディナーである。ロブスターやローストチキンなどが並んでいる。ロブスターをタカミは食べまくった。もちろん他のものも食べたが。
雨も降る事なくその日はおわり、次の日もまた海水浴だった。黒くなっても変わらず泳ぎ続け、今までの嫌な事を全て忘れておよぎつくした。またビーチボールで遊んだりもする。黒かったタカミはますます黒くなって、現地人のような黒さになっていた。それほど泳ぎまくったということになる。
何日でも泳いでいたかったが、残念ながら今日で終わりらしい。寂しく思ったが、嫌というほど泳いだし、すでに悔いはなかった。ただシャワーには肌が痛くてはいれなかった。いい2日間だった。船乗客の満足度も高かった。やっと船旅が本領発揮してきたというところだろう。船に乗る頃には光が差し込むあの情景が懐かしくなっていた。仕方なく船に戻り、自室に入った。肌が痛くてシャワーも入れないし、寝る事もできない。しばらくヒリヒリを我慢しながらすごすこととなった。次の都市は7日後だという。それまでまた不摂生な暮らしをするのか。
そうして2、3日は痛みに耐えて過ごしていたが、どうやら外から静かな音が聞こえる。雨が降っている様だった。暑かったのでちょどよかったが、雨はそれだけでは終わらなかった。
嵐が近づいてきていたのである。我が船は大陸の崖に沿いながら進んでいたが、横から協力な雨風が吹いてきて崖にあたりそうになっていた。
あえて船員は詳細はかたらなかったが、タカミは承知していた。そうこうしているうちに船の広報部からガリガリ!という音が聞こえた。船客は悲鳴をあげた。
間違いなく船は嵐によって損傷を受けているに違いなかった。タカミはそれでも船内で様子を伺っている。またガリガリという音がこだました。船は大丈夫なのか。そrでも船は前進を続けている。このまま行って果たしてどうなるのか。
船が真っ二つに割れるなんて考えたくもない。タカミはもうこれ以上耐えきれず自室にこもった。それから、3、4時間は経っただろうか。嵐は幸いにも去っていた。しかし船が損傷しているのは誰が見てもあきらかである。
船員は言った。
「嵐は過ぎましたが、船の後部に著しい損傷を受けました。船は次の都市で2週間ほど滞在し、船の修理をします。その間、みなさんは都市でお暮し下さい」
「暮らす?」
「はあ…」
船はしばらくして港に停泊した。都民がこわれたおもちゃを見るように船を見ている。
「あのねみなさん」
船客は視線を向けた。
「うちは元々保守的な国で、船客船をでむかえるのには反対しているんです。今もそうです。特に何もない都市ですが、我々はあなた方を歓迎はしません。」
「えっ」
「これは国民の総意ですから、行けない店や宿もあるかもしれません。しかしそういう方向性なのですからがまんしてください。2週間もいるんですか?はっきりいってまともな暮らしはできないと思ってください」
船船員は悲しい顔で、出迎えた市民たちをみかえすしかなかった。
「そういうことで」
市民は散らばってしまった。はてどうしたことか。しばらく都市を徘徊することにした。食事店を断られる。お土産屋さんも断られる。どうやってもこの都市になじめそうな感じはしなかった。
タカミは森の方を歩いていた。
家があり、そこで姉妹がしゃがんで、砂に絵を描いている。
「なにをかいているの?」
「えと、猫さん」
「猫さんはこう」
タカミはネコを描いて見せた。
「うまいうまいーもっと描いて!」
そこへ2人の母がやってきて、娘を家に閉じ込めてしまった。何とも言えないむなしさだけが残る。少し前までは泳いで楽しかったのになぁ。タカミはそのまま森の道をすすんだ。どんぐりがおちている。たしかどんぐりは食べられるルようなことをいっていたので、口に入れてみる。どうもしっくりこない。ぺっと吐き出したタカミは盛りから背をむけ、最初の部分に戻っていた。
「そんなぁ~」
「だめなもんはだめだ」
タカミは宿から追い出された。寝るところが無くてはどうしようもない。すっかり夜も暮れている。船が早く治ることを考えつつ、他の宿を探した。
さきほどいた森の入り口に立っていた。夜も更けて真っ暗だ。しかし、姉妹の家のドアから、こちらに来るように誘われた。そのまま行くと、私を家が入れてくれた。
「私は困ったんだけどね、姉妹は絶対悪い人じゃないっていうから呼んでみたの」
「実際、船客ですから悪くはないですよ」
「あのね、みんながみんあ悪い人じゃないの。でも世間体があるから…」
「ねー、お姉ちゃんなんか書いてー」
姉妹がスケッチブックを持ってやっていた。
「いいよ。描いてあげる
タカミはサラサラと書き始めた。
「わあ!これなに?」
「妖精よ」
「人間じゃないわ。羽が生えてるでしょう」
「かわいい~」
そんなやりとりをみて、母は、
「船が出る間なら、うちに泊まってもいいのよ」
「本当ですか」
「どうせ他の所は断られたんでしょう?バレずにすめばいいわよ」
「そのかわり、姉妹の遊び相手になってあげてね」
「もちろんですよ。私は絵描きで、色んな絵を描いてきました」
「まあそなの。とにかく危険な真似だけはしないように。不用意に外に出るとか」
「はい、分かってます」
タカミは正面を向いている女の子の絵を描いた。タカミが一番得意とする絵だ。
「うまい~!」
姉妹は完全に舞い上がっていた。今ならどんな絵だって描ける。タカミは姉妹に色んな絵を描いて見せた。母親は充分それで満足していた。
「ご飯は母親が買いに行っていた。料理を作り、家で食べるという感じだ」
「このクリームシチュ~おいしいですねぇ」
「山の幸が豊富だからね」
そして、相変わらず姉妹には絵を描いてあげるのだった。
そんな生活ももう2週間に渡った。もう船も大分修理させているだろう。
要するに、お別れの時が来たと言う訳だ。もちろん姉妹は泣き喚いた!
もっといてよ~!絵描いてよ~!私も描きたい。でもこの都市は危な過ぎた。
断腸の想いで別れを告げると、母は涙を見せた。
「ご飯も寝る場所も有難う。それじゃね」
タカミは船着き場まで歩いて向かった。
船はまだ修理中だったが、最終段階に入っているので、船の中にはいれる様子だった。
大問題は、船客民が追い出され、全客員の3分の1が餓死してしまったようなのだ。
「君は大丈夫だったの?」
「ワタシは、ええ、まあ」
ひどい話だ。客の3分の1がいなくなるなんて。
「幸い次の都市は友好的な都市なんですが、そうは言っても客は帰ってきませんからねぇ」
凄惨な事件と言っても良かったが、タカミは奇跡的に生き残れた。絵のおかげとも言えた。
「あともう少しで出航できます。皆さん船でお待ちください」
客員はみな重い足取りで船に乗った。
「俺なんかゴミのバケツ食べてたんだぜ」
もうすぐ出帆する。とりあえず船は直って良かった。つまりは船の資材だけは出してくれたことになる。
2時間ほどたっただろうか。修復した船は、次の都市に向けて海を出て行った。
「安全運転でいきますので、また次の都市までは7日間ほどかかります。」
客はご飯をたべ、ひさしぶりのお酒を飲んだり食べたりして、その日は皆早く床についた。
2日目、空調が壊れているせいか、暑くてしかたない。
「すぐ直します」
2時間ほどで涼しくなった。なにしろ客が3分の1減ったので閑散としている所がなによりも悲しい。そんなもの保守でもなんでもない。ただの人殺しだ。
タカミは絵を描いてあげた姉妹の事を思いだしていた。元気にしてるといい。
嵐はこなかったが、いつくるか怯えて航海することになるが、元々船旅はそういうものである。
「次の都市はパパランセール。特に際立たものはありませんが、活発に取引されてる外交的な街です。」
早く次の街が恋しかった。
7日達、無事到着すると、市民代表が挨拶に来た。
「ようこそ。おいしいものだけはたくさんありますので、のんびりお過ごしください。」
タカミはしばらくタカミは市場の中心を歩いていると、後ろから手をかけられた。
「タカミさんだね」
「そうですけど」
「郵便屋のテッドです。電報ですよ」
私に電報?誰からだろう。紳士からの電報だった。
「テッド 絵をやめた タカミの画集楽しみにしている」
あのテッドが?たしかに人の好い人だけど、結局パクリ魔なのよね?いいんじゃない。別に。
しかし電報まで送ってくれたということは、テッドに相当な期待をかけていたというのも事実だったんだろう。パクリは自然消滅する。自然の
「うちの街に何もなくてすみませんね」
「いえおいしい料理があるじゃないですか」
「すべてはコックの腕次第でして」
「はは…いい腕をなされている」
飲み会は次の日も続いた。何てことはない、普通の飲み会。当然ご飯も美味しかった。タカミの好きなミートボールもあった。
そうして船に乗る時が訪れた。お互いハグをし信頼を高め合った。
「次の都市はちょっと変わってるかもしれませんので、ご注意ください」
「と、いいますと?」
「それは行ってからで」
船の汽笛が元気よく鳴ったので、船客は船に戻って行った。次の都市まで順調に行ける事を祈るばかりである。最後まで手を振っていたが、遠くなると自然とやめた。
「ピッケさん、新聞にえらいことが書いてあるんですけど!」
「どんな!?どんなことです」
「船の船員が3分の1になってしまったそうです…」
「タカミさんは無事だといいですけど…」
「大丈夫ですよあの人なら!」
紳士はしばらくロンドンに滞在し、トッドらしき者を探したが全くの音沙汰無しであった。これをきっかけにトッドの画商から手を引くことを決めた。
「タカミ…つらい船旅になっていそうだが、生存してくれよ?」
そう言うと素早く移動し、ロンドンの闇の中に消えて行った。
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