まさかの戦争
7日間かけてやってきた都市は、今までで一番大きく強固な姿かたちをしている。大きな城もある。船旅客にとっては、ふぜいがある街である。兵士長が船員客を迎えに来た。
「とりあえずこちらへ」
城の中の会議室のような所へ連れられた。20分以上はかかったと思う。歩きながら他の兵士ともすれ違う。
会議室の長机に座った兵長は、船客に語り掛けた。
「タイミングが悪いとというか…」
船客員はなんだなんだと少しざわついた。
「帝国の反乱軍が一致団結して向こうの砦にこもっている状態なのだ。幸い人数は少ないのでなんとか退治できる数ではあるのだが、皇太子さまの手を煩わせたくない。かといってこちらの人数がすくないと困る。そこでだ」
兵長は立ち上がってこちらを向いた。
「船客の中で傭兵になってくれる方はおられぬか。危険はある。がどうか協力してくれたらと思うのだが」
「船旅中の客を危険にさらすつもりか!」
船客はいそいそと船に戻って行った。
タカミは興奮して、
「参加します!」
と片手を上げた。
「勇気ある女性に光を。すぐに女性用防具と槍をもってこさせます」
なんだかんだ言って客の傭兵は12名ほど集まった。勇気ある者達だ。
「さきほども言ったが敵の数は少ない。不敬者め。すぐに退治してやる。砦はなだらかな平原の先にあって、リーダーがいる。そいつさえ倒せば残兵は投降するだろう。今夜決行するので、それまで食事を取ってくれたまえ」
食事部屋に案内された。そこでスープ、パン、ベーコンなどをたべた。食べながら本当に良かったのかなとも思い始めたが、何しろワクワクする戦いだったのでつい手を挙げてしまった。
これが大戦争なら話は別である。が、今回は充分勝てそうな戦いのようだった。
食事をとってからしばらくして、兵士たちの動きが慌ただしくなった。こちらは相当数の数の兵士がいるように思えた。それでも傭兵を雇ったのは保険だろうか。もしくはこういうアトラクションなんじゃないかと思わせるほどだった。客員を楽しませるためのである。だが兵士たちの顔はみな真剣だった。
そうしているうちに日は暮れ、まっくらになった。
「そろそろ開始する。皆に幸運の光を」
兵士長が再び現れ、皆に伝達した「いよいよこちらから動くぞ。砦の途中、なだらかな平原がある。そこを降りながら砦へ向かう訳だが、平原を一定数降りながら兵士は火矢を撃て。潜んでる敵に効果がある。砦に入ったら一気に中へなだれ込み、リーダーを探せ。ザコはなるべく処分するのもいいが命に危険が伴う場合でいい。無駄な戦いをするな。」
兵士は横一列に並び、タカミもその列に同列した。
「隊列前進!」
女性用とはいえ、装備が意外と重い。そこに槍を持っているのである。これは思ったほど楽ではないなと思った。
兵士たちはなだらかな平原をゆっくり下って行った。夜なので月明りしか光はない。
「火矢を放て!」
後続の兵士たちが火矢を放つ。一部火だるまになってもがく敵兵がいる。敵兵がひそんでいるというということだ。
タカミはぶつかり合った時のために槍を持つ手に力が入った。
兵は再び前進を続け、再び火矢を放った。一部の兵士が火だるまになる。そうしてゆっくりと敵の砦に近づいた我々は、ゆっくりとだがすばやく砦の内部へと入っていった。こちらは青い甲冑、敵は赤い甲冑をしている。タカミは内部の階段を昇っていると、赤い甲冑の兵士と鉢合わせになってしまった。槍をななめにして前に押し出そうとしたが、敵の一撃がタカミに襲ってきた。すんでの所でかわすと、敵の心臓めがけておもいっきり槍を突き刺したらうごかなくなった。
やったのか…。あぶないどころの騒ぎではない。はやくリーダーが倒されればなと思った。砦のいたるところで静かな戦いが繰り広げられていた。が、やはり敵の数は少ない。これは敵リーダーが発見されるのも時間の問題に思えた。
と、
「リーヴァだ!」
「百人力のリーヴァだ!」
口口に声がする。我が兵士長が、
「敵リーダーのNo2だ!強いから手加減するな!」
リーヴァは自前の斧でもって我が隊を横に縦に弾き飛ばしている。3人がかりでも押せない。必死の攻防は続いた。タカミは遠くで見ているしかなかった。味方が突撃して玉砕している。タカミはタイミングを見計らって、リーヴァの脇の部分に思いっきり槍を突き刺した。するとリーヴァはとたんに力を失い、あとは我が兵がボコボコにしてやっと倒す事ができた。この奥にリーダーはいるはずだ。
部屋のすみに敵リーダーは座っていた。
「観念しろ!」
そういうと同時に剣を引き抜き襲いかかって来た。我が兵士と1対1でやりあっていたが、さすがに疲れを隠せない様子で、ぜいぜい息をしている。私は少し遠くからそれを見ていたが、兵士長が現れ「くたばれ!」と言って敵リーダーの首を跳ねた。
「リーダーが死んだぞ!投稿せよ!」
その声は響き渡り、次々と手を挙げ投降した。我々は勝利したのだ!
あとは早かった。捕虜を整列させ、再び上りの丘を皆で上がって行った。ほぼ満月の月が我々を煌々と照らしている。短い戦いだったが大迫力だった。なにしろ本物の戦争だったからである。タカミは勢いで参加したものの、結果は大満足で思わずニヤリとしてしまう。城に戻って、やっと防具と武器を外す事ができた。あとは短い時間だったが朝まで眠ることにした。
そして朝。
兵隊たちが場内の庭で整列をしている。昨日戦った者達だ。皇太子が起きて来たので敬礼をする。
「ふわーあ。昨日はなにやらひと悶着あったそうだな」
「はっ!帝国軍の反乱分子を壊滅させました!」
「ほう…そうだったのか。この子は誰ぞ?」
タカミの事を言ってるらしい。
「この者は船客の者です!昨日一緒に戦闘に参加、みごと戦果をあげました!」
「そうなのか…いや勇気がある。私からメダルを授けよう」
タカミは金色のメダルをもらった!皆から拍手が起こる。
「まぁあとは適当にやっといてくれ…」
皇太子はフラリとどこかへいってしまった。
「船員客の諸君!いきなりの大事だったがよくやった!誇らしく思うぞ!遊びに来たのにこんな状態であいすまなかった!今度はもっと楽しませる場所へと案内しよう」
船の汽笛が鳴っている。
「皆、また会おう!」
船員客12名ほどは、お別れを言って船に戻って行った。メダルをもらったタカミは船客から拍手をもらっていた。悪い気分じゃない。そこへ船員がやってきた。
「次の目的地は13日かかります!どうか船内でゆっくりやすんでください!」
13日か…こりゃゆっくり寝て過ごせるわ。一仕事終えたタカミは自室に戻り、泥のように寝た。それからは食べて寝ての繰り返しで時が過ぎて行った。寝てると思ったら戦争に参加していた自分。これからも何が起こるか分からない。過激な船旅だが刺激がある。今度はどんな場所なんだろう。そんなことを思いながら眠りについた。
紳士はトッドのアトリエに足を運んでいた。が、どこをさがしても見当たらない。アトリエを覗くと、絵1つない状態で、絵描き道具すらない状態だった。嫌な予感がした。
「トッド!トッド!」
辺りを探したがどこにも見当たらない。スランプの果てに絵を描く事自体をやめてしまった、そんな予感が紳士の頭を駆け巡っていた。非常にまずい。焦った紳士はしばらくトッドが現れるのをアトリエで待っていたが、とうとう帰ってくることは無かった…。
「もったいない。もったいなさすぎる」
なげく紳士であったが、もうどうすることもできないでいた。
「ピッケさん見てください!」
ヨーコが新聞を持ってやってきた。
「どしたのピッケ」
「タカミさんが戦争に参加して勝利したと、新聞に書いてありますよ!」
「ほ、ほんとに!」
「ほんとです!」
しばらく信じられないでいたが、新聞には確かに速報版で流れている。
「なにやってんですか、あの人は…」
13日の日がたち、タカミたちはついに次の都市に近づこうとしていた。船員が、
「前回は本当にすみません、あとですね、戦争に参加した客船員は新聞でヨーロッパ中を駆け巡ってますよ!」
おお…とどよめきが起きる。タカミのことも描かれているであろうか。描かれているであろうなぁ。
「お次の都市は楽しい街、大道芸人ひしめく文化都市、ニーツェです!みなさん大いに楽しんで下さい!」
船客から拍手が起こった。今度は楽しめそうだ!
船が湾岸に辿り着く。客員が次から次へとタラップから降りてゆく。すぐにトランペットとオルガンのゆるい音楽が流れて、中心に沢山の大道芸人がひしめき合っていた。船先客がくるとのことで、大道芸人たちはここぞとばかりにはりきっている。玉を器用に投げるひと。輪っかを空中で繋げるひと、あらゆる人が街を覆っている。見ているだけで楽しいタカミであった。
「チュロスをどうぞ」
長すぎる長靴をはいた芸人がタカミにチュロスをくれた。ほどよい甘さでとても美味だ。
「お飲み物はこちらですよ~」
ジュースを配っている女性もいる。活気ある街だ。ある意味一番想像していた船旅だ。
「みなさん、これからオペラを鑑賞しますよ」
客船員は一同大きなオペラハウスへ連れていかれた。
席に座ると幕が上がり、オペラが始まる。言語が違うので何を言っているかはわからないのだが、ジュースを飲みながら美声に引き込まれていった。
オペラが佳境に入った時の事である。2階付近で
「パン、パン」
という銃声が聞こえた。当然オペラ歌手は歌うのをやめ、騒然となっている。
小さいが2階席があり、そこで起こったことのようだった。
「大統領が!」
2階では大騒動に発展している。船客員はどうすることもできなかった。
どうやら大統領が鑑賞していたらしい。そこへ発砲となれば大体想像がつく。
しかし何度も言うが船客員はどうすることもできないでいた。
結局オペラハウスを出た皆は、先頭員に言われた。
「これからお食事を取っていただいて、1泊して頂く予定だったのですが、ちょっとわけがありまして、食事だけとさせていただきます。急ですが申し訳ございません」
仕方が無いなという感じで皆食卓についた。食事自体は美味しく、満足だった。が、どうしてもあの時の出来事が頭をよぎる。
美味しい食事が終わった後は、皆ゆっくり船へと帰って行った。船は汽笛を鳴らしている。短い楽しい時間が過ぎたあとの船はじめっぽく感じた。
「次の目的地までは7日後です。良い船旅を~」
また7日間もいるのか。寝るしかない。タカミはおなかいっぱいになった体を横にしながら、いつまでも寝続けた。
客船は故障もなく、順調に船旅を続けていた。
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