タカミのライバル、トッド
「オータカミ!会いたかったデース」
(こんな人なの?私の絵の模倣者って)
(しっ…)
「タカミの画集見たトキは、頭に電撃がハシリマシタ!」
「そ、そうですか…」
「それからは自然とアナタのエにちかづいていって…正直男の作者が描く少女絵はちょとフェチズムありますからねぇ」
「フェチズム…?」
「作者が男が描く少女絵と、男性が描く少女絵はフェチズムがちがうってハナシですよ…アナタのエをみてると、自然と絵がそっち方面にイキマシテ」
「それはどうも」
「摸倣といわれてもシカタないかもしれませんが、ドウゾ良しなに」
「はいはい」
タカミは興味なさそうに画集第2段のまとめをみていた。
「画集…デスカ?」
「そうよ。もう2冊目ができるのよ」
「オオ…凄いですね」
タカミは無視して確認作業をしている。
「ボクはトッド。おぼえておいてくださいね」
無視して画集に目をやる。
「ロンドンにもおいしいお店はありますよ」
「もう結構。トッドは覚えとくわ。パクリ屋としてね」
「のー!」
こうして打ち合わせも終わり、あとは刷るのみとなった。途中変なヤツもいたが、気にせず2冊目は無事、できあがりそうだった。
「ご飯でもどうですか?」
「結構」
「オーつれない返事…」
トッドは残念そうに船の甲板からこちらをみつめていた。
「かなりの変人じゃない」
「画力は確かだぞ」
「でもどこかねじはずれてるわ」
「そういうな。弟子のようなものだろ」
「どこが弟子ですって?あんなん…寝るわよ」
タカミは寝室に戻っていった。紳士はバツの悪い顔をして自室に戻った。
タカミが起きた頃には故郷に戻っていた。紳士ももちろん起きている。
「なんかなかった」
「なにもない」
「じゃあなんかおいしいものでも食べるかぁ」
甲板に着くと、すぐアトリエに戻った。
「タカミさん!」
「待ってましたよ!絵は売れたので」
「じゃあみんなで深夜食堂に行きましょう!」
紳士ははなから入ってない様子だった。お腹は減っていたが、
「やむなし」
とどこかへ飛んでいってしまった。
「どうよ、ピッケはお仕事慣れた?」
「はい、掃除も業者がやってくれますし、売る事に専念できます」
「そーかそーか」
食堂での暖かい食事を囲みながら談笑した。今やタカミの楽しみな事と言えば、おいしいものを食べる以外なかった。それ以外ははっきり言って苦痛。絵も苦痛だった。でも無理もない、数百枚の肉筆画を描いていたのである。マンネリ化しても仕方ないのであった。食堂では閉店まで談笑していた。
「これから寝ないで仕事だよ…」
「おつかれまです」
「でも待ってくれている人がいるんですから」
「あのコレクターの豚たちでしょ。お金払ってくれるからいいけど」
「そんなこと言わないで下さい、大事なお客さんですからね」
「はっきりいって手は抜いてるわよ、あの連中に売る絵は」
「そんな…」
「それくらいでちょうどいいの、あの連中には」
「ただでさえ値段上がってるのに、いいんですか?」
「いーのいーの、どっちにしろ買うし」
「それより夕方から夜にかけてやってくる人たちに、ちゃんとした絵をみせないとね。それじゃおやすみ~」
「おやすみです!」
ヨーコピッケは家に戻って行った。タカミはアトリエにこもって絵を描きづづけた。
これから描くのは朝用、それから昼寝をして描くのが夕方用である。描きながらタカミはずーっととある事で考え事をしていた。
絶賛絵を販売中の奥の部屋である。紳士がいた。タカミもいた。ヨーコもピッケもいた。みなタカミに呼び出されていた。
「実は画集も2冊目が出るし、無理に肉筆画を売らないでもいいと思ってるの」
「!!」
皆さすがに驚いた。
「もう描かないというのか?」
「そう、もういいんじゃないかって」
「画集だけ売るんですか」
「充分っしょ」
「アトリエで画集だけ売るんですか?」
「それで充分」
「ちょっと悲しいですけど、タカミさんが言うんだから…」
「もうこれ以上お金が必要ないのはわかる。でもこれで成り上がってきたではないか」
紳士は提言した。
「ロンドン行ったり、疲れちゃってね」
「事情は分かった。売らないならそれでもいい」
「これからは画集に命を吹き込むわ」
「じゃあ明日からは肉筆無し、ですか…」
「残念だけどね…じゃあ寝るわ、もう眠くて眠くて…」
「あ、はい。おやすみなさい」
タカミは寝るのが食事より大好きなのである。
「仕方ない。もうその位置まで来たと言う事だ」
紳士は自分に言い聞かせるように言った。
「画集は売れてますから、いいですよね!」
「うん、そうだよ」
「そういうこと!解散!」
皆それぞれの家に戻って行った。
翌朝――――――
タカミは肉筆画をかかなかくなったかわりに、できるだけカウンターに居座り、サインなどの対応をしていた。ヨーコとピッケは画集を売っている。
「そんな…もう肉筆画がないなんて…」
「裏切りだよこれはまるで…」
「まぁまぁ」
タカミはなだめた。
「画集2作目もできるし、それを買ってね」
「サインはしてくれるんでしょうね?」
「もちろん」
これでアトリエも大分平和になった。業者が掃除にきてくれるから、いつもピカピカだ。
「これくらいでいいんだよ、アトリエなんて。ただ、売る用じゃなく飾るようの肉筆画は描く予定だけどね。寂しいから」
「いいですねー」
「イイですね~」
奇妙な人が現れたと思ったらトッドだった。何しに来たんだか。
「何か用?」
「ボクも画集が出来るんデスよ~みてたも」
タカミはパラパラと見て見た。限りなく私に近い画風だ。ただ男が書いてる女性というのは、よくわかる。要はツボを捕らえている。
「いいんじゃないの?」
「タカミに差し上げます!どうぞ」
「べつにいいけど…」
「ワタスためにやって来たんですよ~」
「あっそ」
「つれないデスな~もっと評価してくださいよ~」
「評価も何も私の絵を見て描いたんでしょ」
「まあそいいう言い方もデキますけど…」
「別に否定してるわけじゃないからいいんじゃないの?」
「ウレシイでーす」
「アレ?肉筆画が売ってると聞いてやってきたんですが…」
「もうやめたわよ」
「ガッデーム!まじですか」
「だからおとなしく帰んなさい」
「そんな…」
トッドはションボリ肩を落としアトリエを後にした。
「ヨーコ、ピッケ、じゃああとよろしく、寝るから」
「あ、はーい」
タカミは
「ホントに寝るの好きですね~」
「今までが大変すぎたんですよ」
夜、元気になったタカミは、
「焼肉食いに行こう!」
3人で焼肉屋さんへとやってきた。そこでみたものとは。
画商紳士とトッドの2人組である。なにか怪しさを感じ取ったタカミは
「どうして2人がここに?」
と尋ねたが、
「別に…」
と答えるだけだった。
深い事を考える事を忘れた私は、
「焼き肉一杯もってきて!」
と頼み、しこたま肉をお腹に入れた。
トッドと紳士は先に店を後にした。どう考えても怪しい。
「何?商売の話?」
「…」
紳士はあえて何も言わなかった。
私もそれ以上は何も言わなかった。
それ以降は肉をひたすら堪能し、そのままアトリエに帰った。
眠る前に紳士とトッドのことを少し思い出していた。そりゃそうだ。
画商だって商売だ。意気の良い方を選ぶに決まってる。そんなことを考えながらすぐ眠りについた。
次の日もポケ~っとカウンターにすわっていた。サインを何人か対応し、それからはいつもの睡眠というコースだった。そして夜はおいしいものを食べに行くというルーティーンだった。今日はスパゲティ―屋で舌鼓を打った。
そうして何も起こるでもなく床についた。
今日は朝から宅配便が来て、画集の2冊目が到着した。朝からヨーコとピッケが頑張って店内に入れて並べていた。私はサインの準備である。さすがに発売日を感知して、沢山の行列ができていた。ヨーロッパ中の書店で発売される。開店するとなだれのようなお客さんがきて、画集を買って行った。サインももちろん引き受ける。きゃしゃなOLさんぽい人には絵を描いたりしてサービスしてあげた。それにしてもすごい列である。画集2冊目は大成功と言えた。ヨーコもピッケも一生懸命売っている。画集が完売したころには虫一匹いなかった。さすがにサインのし過ぎで手が痛かった。
「シップもってきましょうか?」
ヨーコは言ったが、固辞した。これくらい何でもない。
ヨーロッパ中で売ってると思うと胸が弾む。サイン会に行ってよかった。
同時にトッドの画集も絶好調で売れているらしき情報が入って来た。正直複雑な気分だったが仕方が無い。
「もう今日はアトリエ閉めよう。疲れたっしょみんな」
「夕方第2便がきますよ」
「ええっ」
タカミはうんざりしてしまった。
「それまで寝るわ…」
「あ、はい…」
確かに夕方の便もきちんとやってきた。タカミはのっそり起き上がってサインの準備をする。朝と同じく、ヨーコとピッケが必死に画集を店内に入れ、並べる。私も手伝った。
夕方組がわんさかやってきた。必死に売り、サインをした。昼痛かった手が再び痛んできた。さすがにシップがひつようかもしれない。でも今はそれどころじゃない状況だ。痛い手を我慢してサインを書きつづけた。終わった頃は食欲すらない状況だった。
そこへ花を持ってトッドが来た。
「コングラッチュレーションズ!」トッドは花とシップを持っている。
「大変だったデショウ!シップをどーぞ」
素直にシップを受け取った。
「私も画集出しました!受け取ってくださーい」
「あ、そう…」
タカミは痛む部分にシップを貼った。ジワジワと効いてくる。
「ホントに手を痛めてたんですね…」
トッドはおとなしく帰った。ヨーコもピッケもきょうはさすがに疲れた様子だったので早めに帰した。
最後に紳士が現れた。
「今日はとりあえずおめでとう。しかし私も画商だ。意気のある人を立ててゆく。それだけは覚えておいてくれたまえ」
そう言うと同時に消えてしまった。
今日はほとほと疲れた。明日までゆっくり寝よう。そういってアトリエの奥まで消えて行き、すぐ寝息を立てた。
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